みかん小説
本棚

"式1時間前の略奪と百八十万円" 第12話

「宮さん」

俺はややかに告げた。

「仕事の件ですが、こよりの名をすことが条件なら、輪際切お受けしません。お引き取りください」

宮は忌々しそうに舌打ちし、かりの腕を引っ張った。

「……そのうち仕事がなくなって、泣きついてきてもらないからな。誰に守られていたか、痛い目を見れば分かる」

がった、玄関には静寂が戻っていた。

きな案件を断ったという現実が、ずっしりと肩にくのしかかってくる。

「……蒼介さん」

こよりが、俺の震える拳をそっと両で包み込んだ。

「かっこよかったけど……怖くなかったわけじゃないですよね?」

「……うん。正直、めちゃくちゃ怖かったよ」

こよりはふっと柔らかく微笑んだ。

「だったら、私に言ってください。『怖い』って。守ってくれるがいつも平気な顔をしていたら、私、何もできなくなっちゃいます。……頼ってください。今はいっぱい、甘えていいですから」

その温もりに包まれながら、俺は初めて、自分のさを誰かに委ねることができた。

数、寺尾さんの紹介で、内をにブティックホテルを展する『町宿泊企画』の町代表がを訪れた。

「寺尾さんので、あの子の仕掛けを見ましてね」

町氏は、な鏡の奥の目を細めた。

「うちのしいホテルの共用ラウンジを改装するんです。

広告

仕事をする、読をする、ただ連れを待つ。同じ空を、違う目で使う所です。既製品の具を並べると、写真映えはするんですが、誰かがつたびに隣のが避けなきゃいけない。荷物の置きもない。そういう、写真には写らない満を解決したいんです」

町氏は図面を広げた。

「実は、宮さんのデザイン事務所からも提案が来ていましてね。今回はコンペ形式で、試作を見てから本契約を決めたいとっています」

帰り際、町氏はを押すように言った。

「宮さんのところは、空の統を最優先にした美しい提案です。野坂さんたちは、どんな提案をしてくれますか?」

現の見を終えた夜、俺たちはラウンジの配置図を囲んでいた。

「窓際の席、みんな景を見に来るのに、誰も座ろうとしないんだ」

俺が呟くと、こよりがノートに鉛をらせた。

「机が壁にすぎて、子を引くスペースがないんです。きな荷物を持ったが通ると、完全に塞がっちゃう……」

「机をさくすれば、今度はパソコンを広げて仕事をするが困るしな」

こよりがふと顔をげた。

「全部の席で、全部のことができるようにしなくてもいいんじゃないでしょうか」

「選べるようにする、ってことか?」

「はい! 仕事をしたいのための広い机と、ゆっくり本を読みたいのためのい子を、しずつして配置するんです。

広告

通り抜けるための『余』を真んに残して……誰かがちがっても、誰もかなくていい空を作るんです」

こよりが描いた図面には、具が規則正しく並んでいなかった。

そこには、がよくき交うための、確かな『余』が描かれていた。

試作の製作に入ったある、俺はの隅に眠っていた、あの居用の脚の子の布をした。

かりのために座面をく削りした、あの苦い記憶の詰まった子だ。

こよりが配そうに覗き込んできた。

「無理にいさなくても丈夫ですよ……」

「いや、ちゃんと見直そうとうんだ。この子を作ったまで、全部無駄だったといたくないからさ」

俺は座面の寸法を測り直し、ノートに記録した。

「あのはさ、相に気に入られたくて作ってたんだ。でも、『嫌だ』って言われるのが怖くて、途で使いを聞くこともできなかった。作ったに文句を言われたら、直すのが嫌だったんだな」

「今は、私に何度も座らせてくれますよね」

こよりが笑った。

「こよりが『違う』って言ってくれたら、具がもっと良くなるって分かったからだよ。……ほら、顔じゃなくて、座りを確かめてくれ」

「見てますよ! 今、絶対私の顔見てました!」

「ちょっとだけな」

程表を作り、納期の管理もで見える所に貼った。

困ったことがあれば、来がるに共する。

互いの仕事を尊し、対等なパートナーとして向きう。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: