みかん小説
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"運転手は何歳?教室に響く告発" 第10話

留所で待っていた、のが乗り込む、田は運転席の窓からひょっこりと顔を覗かせ、い綿袋をはめたをきく振ってみせた。正装の乗務員を着た健と、その隣で背筋を伸ばしてつ颯太の姿を認めたからだ。

健はち止まり、脇に抱えていた制にを添えて、ぴしりと美しい敬礼を返した。バスの運転士同士がすれ違うに交わす、々の全運への敬を込めた挨拶だ。

田はい歯を見せて破顔し、解したとばかりにさく頷くと、扉を静かに閉め、再び滑るように発していった。排気ガスの温もりとディーゼルエンジンのよい振が、夕暮れの空気に微かな余韻を残していく。

かつては、あのきな体を見るたびに、の夜の忌まわしい記憶に怯えて体を張らせていた颯太が、今はりゆくバスのテールランプを、真っ直ぐに、眩しそうに見つめていた。その横顔には、もう恐怖のなど微もなかった。

「お父さん」

ふいに袖を引かれ、健は線を落とした。

「ん?」

見げると、颯太が満面の笑みを浮かべていた。夕陽を浴びて琥珀に透き通ったその瞳には、父親への誇りと、胸いっぱいの自信が満ちあふれていた。

「今の夜ご飯、僕が作るよ。卵焼き、に焼けるようになったんだから」

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その無邪気で誇らしげな提案に、健はわず目尻をげた。裕子がくなってからの、きりの台所で、まだ踏み台が必だった颯太が、おっかなびっくりフライパンを握っていた姿が脳裏をよぎる。最初は加減がわからずに真っ黒に焦がしてしまったり、卵の殻が入ってしまったりして、で顔を見わせて苦笑いしたものだった。だが今では、菜箸を器用に使い、ふっくらとした黄い塊を巻けるようになっていた。

「そうか。それは頼もしいな」

健は元を綻ばせ、そっと息子のにを置いた。

「じゃあ、お父さんは美しい噌汁を作るよ。豆腐とワカメ、たっぷり入れてな。……あ、蔵庫に油揚げもあったな。それも刻んで入れようか」

「うん! わかめ、僕がちぎって入れるね!」

弾んだ返事が、に染まり始めた宅の空にく吸い込まれていく。

「それじゃあ、スーパーでし買いしていくか。卵もあと個しかなかったはずだしな」

「うん、特売のたまご、僕がカゴに入れる!」

学からの帰りにある、昔ながらのさなスーパー『マルエイ』へと寄りすることにした。自ドアをくぐると、惣菜コーナーからちるコロッケの甘い揚げ油の匂いと、内に流れる軽な音楽がを包み込んだ。

に入ると、レジにいた所のおばちゃんが、制姿の健に気づいて目を丸くした。

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「あら、佐々さん! 今は珍しい格好ねえ。参観だったのかい?」

「ええ、昼の休憩を使って、ちょっと息子の教を覗いてきまして」

「そうかいそうかい。颯太ちゃん、派なお父さんで自だねえ」

「うん! 僕のお父さん、世界の運転さんなんだよ!」

胸を張って即答した颯太の誇らしげな声に、健の胸の奥がきゅっとくなった。ほんの数まで、教の隅でさく震え、「僕のお父さんは悪くない」と泣き叫んでいた息子が、いまや周囲に響き渡る声で父親の誇りをにしている。その言葉のみに、健は照れ臭そうにを掻きながら、丁寧にをげた。

個入りの卵パックを、割れないように両で事そうに抱えて買い物カゴに入れる颯太の姿を見つめながら、健は陳列棚から絹ごし豆腐とネギを束に取った。カゴのにしずつ今夜の温もりのかたちが揃っていく。最にお肉のコーナーのでを止め、「参観、よく頑張ったな」と呟きながら、颯太の好物である粗挽きウインナーのパックをつ、そっとカゴに追加した。颯太はそれを見つけると、びねるようにして「やったあ!」と歓声をあげた。

会計を済ませ、ビニール袋を提げてをると、はすっかり逢魔がのい紺と朱のグラデーションに包まれていた。

へと続く本は、湊町のを見ろす緩やかな坂だ。灯がぽつりぽつりと温かなオレンジのを灯し始め、の空に残る茜のを背にして、のがアスファルトの坂にく、く伸びていく。

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