みかん小説
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"妊婦を狙う老人と十一月の凶刃" 第1話

え切った曜の朝だった。も半ばを過ぎると、午の空気は鉄錆のようにく、肺の奥まで吸い込むと喉が鋭く痛んだ。

成瀬涼(なるせ りょう)は、暗い駅のプラットホームの端で、分いウールのコートの襟をててっていた。袋をはめた指先は覚を失いかけ、革靴の底からはアスファルトの底えがいがってくる。

休勤だった。それも、夜の午にかかってきた本の話による、最悪の緊急呼びしだ。涼が勤める品メーカーの方委託で、製造ラインの異物混入事故が発した。初期対応の際から取引先の流通チェーンが激し、曜の朝番までに詳細な原因報告と再発防止策を提しなければ全商品の引き揚げを示唆されているという。管理職である課は「私用がある」と話で骨に怯え、独で軽だというだけの理由で、リスク管理の平社員である涼にすべてのが被せられた。

もしていなかった。徹夜で類の骨子をまとめ、シャワーを浴びてそのままをびしてきたのだ。神経は極限まで尖り、こめかみの奥でドクドクとな拍が波打っていた。

午分発の各駅が、軋むようなブレーキ音を響かせながらホームに滑り込んできた。

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曜の朝の内は、まばらな乗客しかいなかった。夜勤けとしき事作業員、酔して座席に沈み込んでいる若者、登用の巨なリュックサックを元に置いた老夫婦。誰もが互いに無関で、内には蛍灯の青いと、モーターの唸り声だけが満ちていた。

涼は両の央付の吊り革に掴まり、目を閉じた。

両には、黒いシリコン製の栓をしっかりと押し込んでいた。遮音性のい、眠や集用の特殊な栓だ。音楽プレーヤーにもスマートフォンにも繋がっていない、ただ界のノイズを遮断するためだけのさな異物。これをつけていれば、の音も、酔っ払いの寝息も、すべてい底の微かな音のように籠もって聞こえる。今の張り詰めた精神状態には、この無音にい静寂だけが唯の防壁だった。

が次の駅に向けて加速し、乗してからちょうど分が経過しただった。

突如として、の肩に鋭利な衝撃がった。

誰かの肘か、あるいはい荷物がぶつかったのかとい、涼は反射に目をけた。目のに、異様な形相の顔があった。

は百センチそこそこだろうか。縮こまった柄な体躯に、煤けたようなベージュのジャンパーを羽織った老だった。代半ほどに見える。

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ひび割れた唇をわなわなと震わせ、濁した血った目をカッと見き、唾を撒き散らしながら涼の顔を指差していた。

「音がうるさいんだよ!! 音楽聴くな、この常識らずが!!!」

鼓膜を突き破るような声だった。栓越しであっても、その悪に満ちた振は痛烈に伝わってきた。

内のわずかな乗客が斉にを竦め、怯えたように線を逸らした。老は自分の声が輪の音を圧したことに気を良くしたのか、さらに歩踏み込み、曲がった差し指で涼の胸元を突き刺すように突いた。

「おい! 聞いてんのか! シャカシャカシャカシャカ、朝っぱらからに響くんだよ! 周りの迷惑を考えろ、最の若い奴はこれだから駄目なんだ! おい、せ! 今すぐせよ!!」

涼の考が瞬、凍りついた。

徹夜けの疲労、理尽な休勤の圧、胃の底に溜まっていたのような澱が、瞬に沸騰して脳髄へと駆けがった。界の端がチカチカとく滅する。

涼は無言のまま、ゆっくりとを元へ運んだ。

の穴から、滑らかなシリコンの栓を引き抜く。そして、老の充血した目の、わずか数センチの位置にそれを突きした。コードもなければ、属の端子もない。ただの黒いゴムの塊だ。

涼のからた声は、自分でも驚くほどたく、く、乾いていた。

「これ、栓です」

「ああん!?」

「栓。音楽なんて秒も流してないです。何が聞こえたんですか? 聴?」

老の顔が、驚愕と当惑で瞬だけ引き攣った。

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