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"妊婦を狙う老人と十一月の凶刃" 第3話

になっていた。

涼はいた扉を潜り抜け、スタスタと股で隣の両へとを踏み入れた。

老は両のほどまでりで逃げていたが、背から追ってくる音に気づき、恐怖に歪んだ顔で振り返った。

「ひっ……!」

涼は老の歩幅にわせて、ぴったりと斜めろを歩いた。逃げようとする老の元に、確実に届く音量で、囁くように、しかし逃れようのないみを持って言葉を落とし込んでいく。

「なあ。あなたのお母さん、今どんな気持ちでしょうね」

老の背が、目に見えてビクッとねがった。

「自分の息子がも過ぎて、朝ので栓つけたに難癖つけて、体調の悪い妊婦を鳴り散らして……そんなけない姿見たら、んでもにきれないんじゃないですか? 苦しんで産んだのに。がって育てたのに」

「や、やめろ……! 黙れ、黙れぇ!!」

老は両でを塞ぎ、狂乱したように首を振った。その取りは千鳥のように乱れ、座席のパイプにぶつかりながら、のドアへとすがりついた。

ちょうどその、のブレーキが軋み、速度が落ち始めた。内アナウンスが次の駅を無質に告げる。

プシューッという空気の抜ける音とともにドアがいた瞬、老は転がるように、まるで炎する内からびりるような勢いでホームへといした。

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勢い余って膝をホームのコンクリートに打ち付け、それでも振り返ることなく、腰を屈めた異様な姿勢のまま、階段の方へと脱兎のごとく逃げっていった。

たい気が、いたドアから吹き込んできた。

ホームの階段を駆けがっていく老のさな背を、涼はのステップのにち、ややかに見送った。

「気を付けろよ」

閉まりかけたドアの隙から、消えゆく老の背へ向けて、涼は唇の端を歪めてく呟いた。

「こっちはおと違って、誰だっていいんだからな」

その言葉は、老へ向けた脅迫であると同に、自らのの底に巣う、底れない虚無と攻撃性の告でもあった。

ドアが閉まり、は再びきした。

涼はふうとく息を吐き、乱れた呼吸をえようとした。だが、内に残された空気は、先ほどとは変していた。隣の両から移してきた乗客たちの線が、様に涼へと注がれていた。謝や堵の差しではない。怪物のような老を、さらに恐ろしい言葉の暴力で追い詰めて駆逐した、もう匹の得体のれない危険物を見るような、引き攣った警戒の線だった。

涼は自嘲気に元を引き結び、元の両へと戻った。

妊婦の座っていた席のを通りかかった、女性はまだそこに座っていた。

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顔は先ほどよりわずかに赤みを取り戻していたが、その瞳には依然としてい怯えが残っていた。涼が通り過ぎようとすると、女性はハッと顔をげ、さくをげた。

「あの……ありがとうございました……」

消え入りそうな声だった。涼はその顔を正面から見ることができず、ただ線をわずかに落とし、コートのポケットに両を突っ込んだまま、く言った。

「気にしないでください。ただのつ当たりですから」

ちろうとした涼の元に、何かがコツンと当たった。

見ろすと、座席のの隙に、黒い革張りのさなつ折りのパスケースが落ちていた。使い古されて角が擦り切れ、表面の皮がひび割れている。あの老が逃げす際に、ポケットから滑り落ちたものに違いなかった。

涼は屈み込み、それを拾いげた。

交番に届けるか、駅の窓に預けるのが筋だろう。そういながらも、指先が無識のうちにそのいた隙をめくっていた。

透なビニールポケットのには、齢者用の都営交通無料パスが入っていた。そこに記された氏名。

――沼田 義男(ぬまた よしお)。昭まれ。

そして、そのパスの裏側に、つ折りにしたい片が何枚か挟まれていた。定期券の控えや領収ではない。きの、ひどく震えた文字で埋め尽くされたメモだった。

『千代田台 グリーンハイツ203』 『 都産婦科 午半』 『結 許さない 産ませるな 絶対に殺す』

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