みかん小説
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"妊婦を狙う老人と十一月の凶刃" 第8話

涼は目を閉じ、く息を吸い込んだ。

すべてが腑に落ちた。

あのの朝。老は、自分がかつて妻をに追いやったその呪いの言葉――『妊婦はて、楽をすると奇形が産まれる』――を、見ずらずののふりをした結に向けて投げつけたのだ。自らの過の罪悪を、被害者である結に転嫁し、彼女を破壊することで、自らの破滅な正気を保つために。

そして、その老の元に、涼はあの言葉を突き刺したのだ。

『あなたのお母さん、今どんな気持ちでしょうね』 『苦しんで産んだのに。がって育てたのに』

老がびりるように逃げした本当の理由。

それは、涼の言葉が、老のんだ母親に向けられたものではなく、老がかつて殺した「自らの子供たちの母親」――すなわち、自らのでに追いやった先妻の霊の声を、完璧に再現してしまったからだったのだ。

老は、涼の言葉の向こうに、自らが殺した妻の血まみれの顔を見ていたのだ。

警察署での事聴取は、夕方くまで及んだ。

涼は事件の第発見者および現犯逮捕の協力者として詳細な調を取られたが、正当防の範囲内であり、老が確な殺を持って凶器を所持していたことから、涼に対するお咎めは切なかった。

署の玄関をた、空はすでに墨に暮れかかり、の葉をたい枯らしが揺らしていた。

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コートのポケットにを突っ込み、駅へ向かって歩きそうとした涼の背に、呼び止める声がした。

「あの……成瀬さん」

振り返ると、結がの体を気遣いながら、りで追ってきていた。その隣には、連絡を受けて駆けつけたのであろう、実直そうな代半ばの男性が付き添っていた。男性は涼のにつと、々とをげた。

「妻からすべて聞きました。……本当に、命の恩です。何とお礼を言ったらいいか……」

「いえ。私は何もしていません。ただ、腹の虫の居所が悪くて、あの男に絡みにっただけですから」

涼の突き放すような言葉に、結は静かに首を横に振った。

「成瀬さん。ので、あなたが言ってくださった言葉……私、忘れません」

結の瞳に、澄んだ涙がっていた。

「あの、お義父さんに鳴られて、私、怖くて、悔しくて……お腹の子を守れないんじゃないかって、絶望していました。でも、あなたがろから現れて、あのを追い払ってくれた……私のにあった真っ暗なが、吹きんだんです。あんな男の呪いなんかに、絶対に負けちゃいけないって、えたんです」

結はお腹に両をね、誇らしげに背筋を伸ばした。

「この子は、誰のまれ変わりでもありません。呪われた血の続きでもありません。私と、このがしって授かった、しい命です。

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私は、この子を命がけでして、育てていきます。絶対に、あの男のなんかに怯えてきたりしません」

その真っ直ぐな言葉の響きは、かつて涼の母が決してにすることのできなかった、靭な命の宣言だった。

耐え忍ぶのではなく、戦い、拒絶し、自らのでって未来を掴み取るという決。

涼の胸の奥で、凍りついていた何かが、ピキリと音をてて微かにひび割れた。

「……元気な赤ちゃんを産んでください」

涼のから、自然とそんな言葉が零れ落ちていた。

結と夫は顔を見わせ、からの温かい笑顔を浮かべて、もう度く礼した。夕暮れの雑踏のを、寄り添いながら歩いていくのろ姿を、涼はち止まったまま、い見つめ続けた。

数週、沼田義男の処分が決定した。

齢であることや持病を考慮されつつも、確な凶器を準備しての計画な犯であったこと、過にも複数の駅や公共ので齢者や女性に対する暴力・嫌がらせ為を繰り返していた余罪がるみにたことから、起訴勾留が決定した。弁護士を通じて精神鑑定の申してがなされたが、責任能力に問題なしと判断され、実刑判決は免れない見通しとなった。

老がかつて経営していた跡は競売にかけられ、彼がに入れたわずかな余は、たい鉄格子の向こうで孤独に費やされることになった。

誰からもされず、誰の記憶にも善きとして残らず、ただ自らが撒き散らした悪の残滓に窒息しながら朽ち果てていく。

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