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"妊婦を狙う老人と十一月の凶刃" 第11話

「まもなく、部に入ります。揺れますのでご注ください」

無質な内アナウンスが流れ、蛍灯のが瞬、圧のによって瞬いた。 窓の向こうに広がっていた郊の宅の景が、急速に切りった崖と、枯れの々に覆われた肌へと移り変わっていく。

が加速し、いトンネルへと突入していく。

界のが瞬にして断ち切られ、分いが窓ガラスを黒く塗りつぶした。 トンネルの反響音が、轟音となって内を激しく震わせる。元を直接揺さぶるその音のにを置きながら、涼は暗に包まれた窓のガラスを、じっと見つめた。

そこには、黒い硝子を鏡代わりにして、自分の顔がはっきりと映しされていた。

細く尖った顎のライン。淡さを滲ませていたい唇。 だが、その瞳の奥を覗き込んだ、涼は息を呑んだ。

そこには、もはや母ののに怯えるの姿はなかった。

のる朝、たくなった母のを握りしめ、言葉を失って震えていたあのの自分。なぜらなかったのか、なぜ逃げなかったのかと、者をので責めさいなみ、自らの無力さに絶望していたあのれな子供は、もう鏡の奥のどこにも見当たらなかった。

母のは、癒えることのない傷痕として涼の胸に残り続けるだろう。

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だが、それはもう涼を暗の底へと引きずりろす鎖ではなかった。理尽な暴力の痛みを、誰よりもくっているという、たく研ぎ澄まされた刃そのものへと昇華されていた。

ガラスに映る男の瞳には、え切った朝のを宿した、の男の静かな覚悟だけが、そこにあった。

自分はこれから、母が眠るあの寂れたへと向かう。 あの閉鎖で、誰もがの顔を窺い、沈黙ので暴力が温されていた、呪われた故郷のを踏む。

だが、今の涼には、もう恐れるものは何ひとつなかった。

逃げるためにに乗っているのではない。拒絶するためにを塞いでいるのでもない。 母の墓にち、静かにをわせ、彼女が耐え抜いて散っていったそののしみを、すべて受け止めるために向かっているのだ。

「母さん」

トンネルの轟音の、涼は声をさずに唇だけをかした。

――俺はもう、沈黙しない。 ――理尽にを垂れることも、の悪に怯えてを塞ぐこともない。 ――あんたが守れなかったもの、あんたを殺した世界の歪みを、俺はこのいた両で、この両で、最まで見届けていくよ。

列がさらに速度をげる。 暗の向こう側に、さな、針の先ほどのいが見え始めた。

を切り裂くようにして、のが急速に拡していく。

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轟音の圧力がふっと抜け、世界が気に反転した。

トンネルを抜けた瞬、純の景が界面に爆発するように広がった。 々にり積もったが、から差し込むの鋭い朝陽を浴びて、無数のの針のように眩く輝いている。

内がまばゆいで満たされ、窓ガラスに映っていた涼のは、透な景のへと溶けて消えった。

涼は目を細め、く息を吸い込んだ。 たい気が、換気の隙からわずかに内へと流れ込んでくる。その気には、懐かしいの匂いと、の匂いと、そしてこれからはじまる厳しいを越えようとする、力いの息吹が確かに混じりっていた。

誰だっていい。 名乗るべき肩きも、誇るべき功績もない、ただののとして。

涼は背筋を伸ばし、しっかりとを見据えた。 のドアがくその瞬を、自らの鼓膜を世界のすべての音へとけ放ったまま、静かに待ち続けていた。

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