みかん小説
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"黒い着物の女と三十台の車列" 第2話

蒼井はペンをに取ると、呼吸置き、欠確認欄の『御席』の文字を、迷いのない致で丸く囲んだ。その胸の奥には、単なる懐旧のなどではない、あるつの静かな、だが決して揺らぐことのない決が宿っていた。

同窓会当の夕刻、古い本の奥にある裳部で、蒼井はひとり、姿見のにっていた。

桁に掛けられているのは、沢を抑えたい漆黒の正絹で仕てられた、紋付の着物であった。それは彼女が歳を迎えた、祖父から渡された、き祖母の形見の品であった。

蒼井は襦袢のから、その黒い着物に静かに腕を通した。絹のややかな触が肌を滑り、に纏った瞬、まるで目に見えない本の芯が通ったかのように、彼女の背筋が自然とすっと伸びる。

の首には、季の入った黒檀の珠が連なる珠が、厳かに巻き付けられていた。祖父から「これを持っておけ」と渡されて以来、肌さず持ち歩いている守り刀のような仏具である。

蒼井は珠をの掌のでそっと握りしめ、鏡のに映る自分自を静かに見つめた。艶やかな黒髪を部で寸分の乱れもなくつに束ね、着物の袖に指を添えて、襟元のわせを静かにえる。鏡のの彼女は、代半という若さでありながら、幾もの修羅と責をくぐり抜けてきた者だけが持つ、冴え冴えとした静寂をそのに宿していた。

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支度を終えた蒼井が玄関のい引き戸をけると、にはすでに台の黒塗りのが静かにアイドリングの音を響かせて待していた。運転席から素くりてきた若い衆が々とをげ、部座席のドアを無言でける。

蒼井は静かに会釈を返し、内にを滑り込ませた。がゆっくりと滑りすと、の窓のには、夕に染まりゆく都の並みと、絶えなく流れる灯のが、の帯となって方へと流れていった。蒼井はに巻いた珠の黒檀の珠を、つつ、親指の腹で確かめるようにそっと握りしめた。たく滑らかなの触が、鳴ることのない彼女の臓の鼓を、さらにく、静かな境へと沈めていく。

がホテルのエントランスに滑り込み、蒼井がでエレベーターをがって宴会のに辿り着いた、扉の隙からはすでに、気配の籠もったざわめきと甲い笑い声が溢れしていた。

乾杯のグラスがぶつかりう澄んだ音、運ばれてくる豪華な料理の油とスパイスの匂い、そして広い空を照らす黄く温かみのあるシャンデリアの照。

蒼井がを決して会へとを踏み入れたその瞬、それまで部を満たしていた賑やかなざわめきが、まるで潮が引くかのように急速に止んでいった。

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会にいた数の男女の線が、吸い寄せられるようにして入りにつ蒼井の姿へと集まった。

パステルカラーの華やかなパーティードレスや、流の細のブランドスーツにを包んだ同世代の男女がひしめくで、紋の入った漆黒の着物を纏った蒼井の姿は、あまりにも異様であり、決定に異質であった。誰の目にも、それが単なる趣や着楽の装ではないことが、その佇まいのみから直に伝わっていた。

かつての同級たちはグラスを握ったまま言葉を失い、驚きと戸惑いを隠せない様子で、互いに顔を見わせ、眉をひそめた。

「おい、あれ……柊じゃないか?」

「え、嘘でしょ……何あの子、何してたの? なんで同窓会にあんな喪みたいな着物着てくんのよ……」

「でもさ、あの着物、素目に見てもタダ物じゃないだよな……何かヤバい世界に入ってんじゃないの?」

あちこちのテーブルから、ひそひそとした囁き声と値踏みするような線がんでくる。だが蒼井は、それらの好奇と侮蔑の線に切じることなく、会の受付にっていた幹部たちへ軽く礼すると、壁際に置かれた、まだ誰も座っていない隅の円卓へと静かに向かった。

席につき、テーブルのに置かれた氷のグラスにを添えながら、会全体を静かに見回す。

その、背から聞き覚えのある、品格の欠片もない嘲笑混じりの声がんできた。

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