みかん小説
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"黒い着物の女と三十台の車列" 第9話

「ハッ! マジで話かけやがったよ、この女! 面えじゃねえか、おい!」

赤は周囲を煽るようにを叩いた。

「いいぜ、待ってやろうじゃねえか! どうせ誰も来ねえに決まってんだからよ! ハッタリがバレて恥かくだけだぜ、おい!」

赤は元のウイスキーを気に喉に流し込み、仕のワゴンからしいグラスを乱暴にひったくった。

蒼井は赤の言葉に切を貸さず、静かな取りで会のきな窓際へと歩み寄った。

着物の袖をそっとえ、首に巻かれた珠の黒檀の珠を、掌ので静かに転がす。滑らかなの触が、界の喧騒から彼女の魂を完全に隔絶させていた。

背では、赤たちが再び酒を煽り、品な冗談をばしっている。だが蒼井は、背筋を真っ直ぐに伸ばしたまま、ただに広がる夜の並みを見つめていた。

それから、わずか分が過ぎた頃だった。

ホテルのの通りに、条の鋭いヘッドライトのが差し込んできた。

続いて、もう条。

漆黒の夜の帳を切り裂くように、をうなV8エンジンの唸りが、分いホテルの防音ガラスを震わせて微かに響いてきた。

赤がグラスを片に、ニヤつきながら窓のに目を向けた。

「あ? なんだあ? 本当になんか来たのか? タクシーでも台呼んだのかよ」

だが、窓のに現れたは、台や台では終わらなかった。

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台、台、台、台――。

連なるの帯は途切れることなく、夜ののから次々と姿を現した。

会のあちこちで、グラスを持つが止まり、笑い声がつ、またつと消えていった。

「え……何あれ……?」

「嘘でしょ……なんであんなにが……?」

「おい、あの列……全部、黒塗りのセンチュリーとレクサスじゃないか……?」

窓際にいた同級たちが、磁に引き寄せられるようにしてガラスに張り付いた。

赤もまた、引きつった笑みを浮かべたまま、ふらふらと窓際へと歩み寄り、の通りを見ろした。

その瞬、赤の顔から、完全に笑みが消え失せた。

ホテルの正面エントランスへと続く片側線のが、完全に黒塗りの最級によって埋め尽くされていた。

台、台、台、そして――台。

まるでの国葬か、巨組織の頂作戦を彷彿とさせる、圧倒な黒の鉄の壁。台の列が、寸分の狂いもなく然とホテルの寄せを取り囲み、した。

ブォン……という音の排気音が同に止し、に完全な静寂が訪れた。

窓ガラスに額を押し当てていた同級たちの顔が、見る見るうちに気へと青ざめていく。

赤の指が刻みに痙攣し、握っていたロックグラスので、氷がカチカチと狂ったように音をて始めた。

次の瞬、台ののドアが、まるでつの巨な械のように、斉にバチィンとかれた。

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りってきたのは、仕ての良い漆黒のスーツにを包んだ、総勢百名を超える男たちであった。

誰として私語を交わさず、無駄なきつなく、男たちは瞬くに然とした隊列を組みげた。そして、糸乱れぬ並みで、ホテルのメインエントランスへと向かって歩き始めた。

数の革靴が、乾いたアスファルトを規則正しく踏みしめるな音だけが、夜の静寂を切り裂いて宴会のガラス越しにまで響いてくる。

さっきまで赤と緒にゲラゲラと笑っていた同級たちの顔は、もはや恐怖によって完全に引きつり、呼吸の仕方すら忘れたように固まっていた。

宴会全体が、まるで氷点の極寒のに突き落とされたかのように、気な静寂に支配された。

ギイィ……と、会のな扉が、側から厳かに押しかれた。

密閉されていた会のに、夜のたい気と、質な革靴の匂い、そして濃密な煙とポマードの気が、音もなく流れ込んできた。

先にってを踏み入れてきたのは、く刈り込んだ髪に、い眉の皺を刻んだ初老の男であった。

藤堂誠治。

先代の代から柊組に仕え続け、裏社会の修羅を幾にもくぐり抜けてきた、泣く子も黙る古参幹部であった。

仕ての良い黒のダブルのスーツにを包んだ藤堂は、周囲の怯える同級たちを瞥だにせず、真っ直ぐな線で、部の央につ黒い着物の女――蒼井を見据えた。

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