みかん小説
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"黒い着物の女と三十台の車列" 第11話

藤堂の切れの双眸には、静かな、だが底れぬりの焔が宿っていた。

「……体、どなたでございましょうか」

藤堂の徹なが、砕けたグラスの破片のにち尽くす赤を、逃れようのない正確さで捉えた。

その瞬、赤の膝の関節が完全に砕けたかのように折れた。

ドサリと、赤はそのに崩れ落ちた。

にび散った酒とガラスの破片も構わず、赤は両をにつき、額を理に擦り付けるようにして体を丸めた。

「す、すいませんっ! すいませんでしたっ……!」

赤のから、みっともない鳴のような謝罪が絞りされた。全が痙攣するように震え、ポタポタと涙とや汗がに落ちていく。

誇示し続けてきたあの傲な態度も、虚勢に満ちたチンピラの態度も、っ端微に消えっていた。

それを皮切りに、壁際に固まっていた同級たちも、恐怖のあまり次々とそのに膝をつき、をげ始めた。

「らなかったんです……! 本当にすみませんでした!」

「ごめんなさい! 私たち、何もらなくて……!」

会全体が、咽び泣くような謝罪と願の声で埋め尽くされていった。さっきまで赤を囃して、蒼井を嘲笑っていた者たちが、今や涙で顔をぐしゃぐしゃにしてに額を擦り付けている。

蒼井は、ち尽くしたまま、その醜悪でれな景を、ただ無言で見ろしていた。

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首に巻かれた珠の珠を、親指で無識のうちにく握りしめている。

く息を吸い込み、蒼井は静かに、凛とした声を会に響かせた。

「――謝罪は、必ありません」

その言に、泣き叫んでいた同級たちがピタリとを閉ざし、赤が恐る恐る、涙とで濡れた顔をげた。その目は充血し、恐怖で赤く腫れがっていた。

「皆さんは、ただらなかっただけです。……ただ、それだけのことです」

蒼井の声には、侮蔑も報復の響きもなかった。ただののように穏やかで、慈に満ちた響きがあった。

その様子を傍らで見守っていた源郎が、満そうにさく、度だけ頷いた。

赤は信じられないものを見るような目で、にをついたまま蒼井を見つめた。

「な……なんで……なんで許すんだよ……! 俺はおに、あんな酷いことしたのに……!」

蒼井はその問いには答えず、ただ静かに線をした。

まさにそのだった。

け放たれた宴会の入りの向こうから、切羽詰まった、だが違いなほどにるく庶民な女の声が響き渡った。

「隼ー! 隼、あんた財布忘れてるわよ!」

緊張で凍りついていた会に、突然び込んできたその声に、誰もが息を呑んだ。

現れたのは、擦り切れたエプロンをつけたまま、息を切らしてってきた代半ばの女性だった。には、使い古された男物のつ折り財布が握りしめられている。

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額に汗を浮かべ、いかにものち仕事で疲れ果てた表をしていたが、その目元には隠しようのない温かさと優しさが宿っていた。

「か……母さん……!?」

にいつくばっていた赤隼の顔が、今度こそこの世の終わりのように青ざめた。

赤幸恵。

赤隼の実の母親であった。

幸恵は息を切らしながら宴会のへと駆け込んできたが、その取りは数歩んだところでピタリと止まった。

異様な景だった。

会の壁際を埋め尽くす数の黒スーツの威圧な男たち。面に散らばる割れたグラスの破片と、酒の匂い。同級たちが青ざめて壁際にへたり込み、そしてその央で、自分の息子がに両をついて泣き崩れている。

「隼……あんた、また職で何かやらかしたの……?」

幸恵の震える問いかけに、赤は声すらせず、ただ首を刻みに横に振るしかなかった。

その――。

蒼井の切れの瞳が、入りにち尽くす幸恵の姿を真っ直ぐに捉えた。

ドクン、と蒼井の臓がねがった。全の血が逆流するような衝撃がり、その体が瞬、直した。

あの着古したカーディガン。くたびれたエプロン。

そして何よりも、の砂りのの、自分を庇って良たちのにちはだかり、温かいのひらで頬のを拭ってくれた、あの優しい目元の皺。

違いない。

もの、片も忘れることのなかった、が命の恩――。

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