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"黒い着物の女と三十台の車列" 第12話

蒼井は震える息をえると、傍らにつ藤堂に向かって、静かに打ちした。

「藤堂さん。……私のにある、あの桐の箱を持ってきてください」

藤堂は切の私を挟まず、々と礼すると、音もなく会のへとりに向かった。

幸恵は突然の事態に完全に戸惑い、怯えたように周囲の黒スーツの男たちを見回しながら、息子のそばへ駆け寄ろうとした。

だが、それよりもく、藤堂が両にさな桐の箱を捧げ持って戻ってきた。

蒼井はその箱を恭しく受け取ると、ゆっくりとした、凛とした取りで、ち尽くす幸恵のへと歩み寄った。

幸恵のでち止まった蒼井は、静かに桐の箱の蓋にをかけ、それをした。

箱のに収められていたのは、しあせてはいるものの、寸分の汚れもなく純に洗いげられた枚の綿のハンカチと、丁寧に入れされ、折り目正しく畳まれた本の折りたたみ傘であった。

の歳が、そのさな箱のに、奇跡のように褪せることなく保されていた。

蒼井は箱を両で捧げ持ったまま、幸恵の瞳を真っ直ぐに見つめ、潤んだ声で語りかけた。

「……のののに。駅裏ので私を助けてくださいましたよね、お母様」

幸恵の目が、驚愕に見かれた。

箱のの傘とハンカチ。そして、目のにつ、凛とした気品を纏った美しい黒い着物の女性。

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の記憶の糸が、幸恵の脳裏で瞬にして結びついた。

「あ……! あ、あのの……だらけになって泣いていた、の女の子……!?」

幸恵の目から、堰を切ったように粒の涙が溢れした。

「まあ……! こんなにきくなって……こんなに派になられて……!」

にいつくばっていた赤が、そののやり取りを信じられないいで見つめ、ハッと息を呑んだ。

(母さんが……あの、あいつを助けた……おばさん……!?)

代、母が買い物帰りに良に絡まれていた見らぬ女子を万円で助けたという話を、かつてで聞いたことがあった。そのは「バカじゃねえの、見ずらずのに万円もドブに捨てるなんて」とで笑いばした記憶が、今、赤の脳をとなって直撃した。

だが、幸恵はふと、蒼井の着物に目を落とし、息を呑んだ。

胸元に広がる無残な琥珀の染み。漂ってくるいアルコールの匂い。

そして、幸恵の線はへと落ちた。砕け散ったグラスの破片。息子の元に広がる酒のたまり。

幸恵の表が、瞬にして凍りついた。

「……まさか、隼。あんた……」

幸恵はゆっくりと、にへたり込む息子の方を振り返った。その瞳には、いしみと、燃え盛るようなりが綯い交ぜになっていた。

「隼……あんた、このお嬢さんに……お酒をかけたの!?」

赤は喉を詰まらせ、何も言い返すことができなかった。

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その沈黙が、すべてを物語っていた。

幸恵はそのに、両膝から崩れ落ちた。

「ああ……なんということでしょう……! ごめんなさい、お嬢さん、ごめんなさい……! 私の育て方が悪かったんです……! 私がこの子を、こんな浅ましいに育ててしまったんです……!」

幸恵はに額を擦り付け、慟哭しながら何度も何度もをげた。

蒼井は慌てて首を横に振ると、膝をつき、幸恵の荒れて節くれだった両を、自らので優しく包み込んだ。

「お母様、顔をげてください。お母様のせいではありません」

蒼井は幸恵の体を支えながら、ゆっくりとそのにちがらせた。そのには、と変わらない、温かく力い敬のが込められていた。

「あの、砂りのので見ずらずの私を助けていただいたご恩を、私はたりとも忘れたことはありません。『受けた恩は、命に代えても必ず返せ』――私は祖父から、そう教わって育ちました」

蒼井はく呼吸を置くと、会の静寂の、静かに言葉を続けた。

「……赤さんのお母様。貴女様が今、くなられたご主の残された額の借を背負い、苦しんでいらっしゃることは、事に調べさせていただき、じげております」

幸恵の顔が、驚きと恥じらいで張った。

「えっ……な、なぜそれを……?」

にいた赤もまた、弾かれたように顔をげた。

「しゃ、借……? 母さん、何の話だよ!? 親父の借なんて、とっくに終わったんじゃなかったのかよ!?」

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