"奪われた手柄と残された受領印" 第1話
会議の乾いた空気の、机のに置かれた用を見つめる俺の指先がかすかに張った。
プリントアウトされたばかりの企画の表には、黒々と朝体の文字が並んでいる。だが、どこをどれほど探しても、そこに俺の名はしていなかった。
設計から仕様の策定、テスト環境の構築に至るまで、すべてを担ってきた発担当の欄には、別の男の名が印字されていた。
「成瀬省吾」という文字が、まるで最初からそうであったかのように鎮座している。
俺は隣に座る榊原課へ線を向け、喉の奥から絞りすように声を絞った。
「この企画、僕の名がありません。発担当の欄まで、成瀬さんになっています」
榊原課は元のコーヒーカップをわずかに傾け、面倒そうに線を泳がせた。湯気が揺れるカップを机に置き、背もたれにく体を預けて息を吐きす。
「ああ、直しました。発表するの名が載る方が、対にも分かりやすいでしょう」
俺は唇を噛み締め、膝ので握りしめた拳に力を込めた。
「基本設計もコードの検証も、すべて僕がで担当しました。役員への説が必なら、僕から直接います」
課は元のペンを指先で弄びながら、侮蔑の混じったややかな線を俺に投げかけた。
「おの説は理屈っぽくていんだよ。
広告
ここまで案件を持ってきたのは、成瀬の営業力だ」
ペンを机に放りす乾いたプラスチックの音が、静かな内に響き渡る。
「裏で臭く作業しただけのが、にるな」
その言葉に、胸の奥がたく凍りつくような覚を覚えた。
会議の隅で、それまで黙って類をめくっていた霞が、ゆっくりと顔をげた。俺と婚約してになる彼女は、たい目で俺の横顔を見つめていた。
「友。仕事の話だけじゃないの」
霞は元のボールペンを置き、姿勢を正して俺の目をまっすぐに見据えた。
「私たちのことも、今で終わりにしたいの」
俺は驚きで声がず、ただ目を見いて彼女の端正な顔ちを見つめ返した。
「……どういうことだ、霞」
霞はしの躊躇も見せず、えられたい爪を机の端に揃えて淡々と告げた。
「あなたといても、先が見えないの。省吾君となら、もっとを目指せるとったのよ」
彼女の隣に座っていた成瀬が、い笑みを元に浮かべながらを乗りしてきた。
ネクタイを指先で直すその所作には、勝者特の傲な余裕が滲みている。
「会社にも、霞さんにも必なのは俺です。牧野さん、もう無理して残らなくていいですよ」
ふと会議用テーブルの隙に目を落とすと、布のでのがぴったりとなりっていた。
広告
指を絡めわせるその景が、網膜の奥に焼け付くように焼きつく。俺がこのヶ、眠を削り、血の滲むようないで作ってきたシステムの設計図のだった。
それなのに、今この所で、俺だけが最初からいなくていいになっていた。会社は、俺が望むのであればそののうちに退職のを結ぶと淡々と告げてきた。
翌に控えたシステムの社内発表会に、俺のための席など最初から用されていなかったのだ。退職届の用を取りした課のろで、成瀬が笑いを浮かべながら告げてくる。
「引き継ぎなんて、共フォルダーに資料を置いておいてくれれば分ですから。俺が見れば分かりますよ」
課が判子を机に押し当て、ため息混じりに俺を見ろした。
「最くらい、余計な面倒を増やすなよ」
俺は元のメモ帳を握りしめ、必にいがった。
「まだ、全舗での負荷検証が終わっていません。発表のに、必ず確認していただきたい箇所があるんです」
課は苛たしげにを横に振り、俺の言葉を遮った。
「分かった、分かったから。どうしても必になったら呼んでやるよ」
淡な声が、の奥に突き刺さる。
「おは言われた通り、そういう裏方の作業だけしていればいいんだ」
このヶ、まともに布団に入って休んだ記憶がなかった。
輩が散らかしたコードの直し、顧客からってくる無理難題の追加望。
榊原課が社内政治のために独断で約束してきた、実現能な締め切りの数々。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
「死産」と告げた院長と20年目の出生記録
20年前、出産した娘を「死産でした」と告げられた私・佐藤しず子。しかし私は、麻酔の中で確かに聞いた産声を一度も忘れられなかった。 真実を確かめるため、私は清英産婦人科医院の清掃員として20年間働き続け、誰にも気づかれず院内の秘密を探ってきた。そんなある夜、若い看護師から「まだ間に合います。あなたの娘さん生きています」と書かれた紙を渡される。 やがて地下の保管庫へ忍び込んだ私は、自分の出産記録の隣に「佐藤女児――転送」と記された手帳を発見する。 さらにそこには複数の新生児と金銭の記録まで残されていた。娘を奪ったのは誰なのか。そして病院は20年間、何を隠してきたのか。見下され続けた“掃除婦”は、集めた証拠を手に院長・安藤剛と対峙する――。真相|修羅場2.1万字5 422 -
完結第11話
妊婦を狙う老人と十一月の凶刃
「妊婦は立て!奇形が産まれるぞ!」 早朝の電車内、妊婦を怒鳴りつける老人に激昂し、詰め寄ってホームへ追い払った会社員の成瀬涼。だが座席の下に落ちていた老人の定期券の裏には、戦慄のメモが挟まれていた。 『十一月十七日 東都産婦人科 産ませるな 絶対に殺す』 日付は明後日。七年前に母を自死で失った涼は、その朝、病院の物陰で張り込む。午前九時十五分、現れた老人のポケットから閃いた一本の果物ナイフ。 電柱へ組み伏せた涼の背後から、駆け寄った妊婦の悲鳴が響く。 「お義父さん……!?」 老人が隠し続けた、血塗られた過去とは。怒り|真相1.7万字5 1070 -
完結第27話
毒蛇から社長を救った男を笑った人事部長
「元自衛官の筋肉バカが東大卒だと嘘をつくな」――六本木のIT企業の面接で、主人公は人事部長・郷田に履歴書を床へ投げ捨てられた。 だが彼は、ただの求職者ではない。採用不正を暴くため正体を隠して潜入していた元特殊作戦群の自衛官であり、裏では巨大企業グループを率いる人物だった。調査を進めると、郷田と甥の健太が縁故採用と裏金工作を繰り返し、不正資金は約3億5000万円に達していることが判明する。 さらに2人は、親会社の名を騙って正義感の強い美咲社長を失脚させようとしていた。しかも美咲は2年前、山中で自分を救った名も知らぬ自衛官を探し続けていた。その救命者こそ、今「筋肉バカ」と嘲笑されている男だったのだ。そして決戦の日、美咲が差し出した古い認識票に刻まれていたのは、数兆円を動かす神道グループ頂点の紋章だった――。職場逆転|人生逆転4.1万字5 235 -
完結第11話
運転手は何歳?教室に響く告発
「お前の父さんはバス運転手なのに、自分の歳も教えないのか」 算数のテストで一人だけ理不尽な赤バツをつけられ、教室で嘲笑された小三の息子。 問題は『あなたはバスの運転手です。運転手は何歳ですか』。息子が記した答えは、震える文字の「わかりません」だった。 去年の11月20日夜8時45分、豪雨の中で少年の命を救いながら、有力者の妻に理不尽な土下座を強いられた父の姿を、息子はずっと心に刻んでいたのだ。 迎えた授業参観。正装の制服姿で現れた父が教室で再生した一本のドラレコ映像が、仕組まれた嘘を暴き出す。 その時、涙を拭った息子が黒板の前で下した「決断」とは――。真相1.6万字5 1761 -
完結第14話
式1時間前の略奪と百八十万円
「ごめん。結婚やめる。私この人と一緒になるから」 挙式まであと1時間。控室で純白のドレスを着た婚約者の隣に立っていたのは、家具職人の俺・蒼介の元上司だった。 新居のために手渡した180万円を持ち逃げされ、住まいも仕事も奪われ絶望の淵に立たされた俺。だがその時、息を切らして控室へ飛び込んできたのは、婚約者の妹・こよりだった。 大量の不在着信を残していた彼女の手には、姉が3週間前に交わしていた「別の賃貸契約書」が握られていた。 激昂する姉の前で、こよりは俺の冷え切った手を強く握り締め、真っ直ぐに言い放つ。 「じゃあ私が先輩を幸せにしても文句ないよね」夫婦|真相2.1万字5 353 -
完結第41話
無一文の清掃員に届いた出前丼(
「出ていけとは言わないけど、月6万じゃ足りないのよ」 父が遺した家も土地も兄夫婦に奪われ、実家で「居候の厄介者」と罵られる清掃員のみさえ。9年間の壮絶なワンオペ介護も義姉に「全部私たちがやった」と親戚中に嘘を吹聴され、反論すら許されない。 だが、父の一周忌の座敷で義姉が得意げに嘘を重ねていたその時、玄関の戸が開き、この街の頂点に立つ巨大企業の社長が喪服姿で姿を現す。男の腕に抱かれていたのは、底に藍色の焼き印が刻まれた「12年前の古い出前丼」だった――。 息を呑む親戚一同の前で、男は畳の上に丼を置き、冷ややかに告げた。 「このご家族は、私と彼女に何一つ関係ありません」相続|真相6.2万字5 299 -
完結第35話
七通の退職届と八十件の着信
父の葬儀の翌日、新社長となった私の前に並べられた七通の退職届。勤続三十四年の工場長は「ベトナム人と頑張れよ」と日本人職人全員を引き連れて会社を捨てた。機械の知識ゼロの私に残されたのは、残留したベトナム人三人と言葉を失うほどの短納期。だが五日後、私の携帯にその工場長から届いた着信は、実に八十件――。腕利きを誇った男が、なぜ無様に縋り付いてきたのか? その謎は、男が肌身離さず持つ「黒い手帳」と、父が遺した一冊の分厚い綴りに隠されていた。「……出ないわ」私は震え続けるスマートフォンの拒否ボタンに指を置いた。職場逆転|人生逆転5.3万字5 935 -
完結第15話
全盲の義母が言い当てた味噌汁の色
「お味噌、白味噌に変えたでしょう?」。11年前の事故で全盲になったはずの義母・かず子が、漆塗りの椀を抱えて微笑んだ。亡き実母への後悔から、365日欠かさず介護と手料理を捧げてきた嫁の私。だが翌朝、ゴミ袋の底から現れたのは、手つかずのまま無残に捨てられた私の料理と、1万8千円の銀座高級寿司やフレンチのデリバリーレシート30枚だった。夫は「お前の味付けが悪い」と冷笑し取り合わない。孤立無援の中、弁護士の助言を得た私はある罠を仕掛ける。そして勝手口の前で義母が放った「ある一言」で、11年間の嘘が音を立てて崩れ去る――。嫁姑|真相2.3万字5 3179 -
完結第11話
貧乏老人を嘲笑った行員の末路
「あんな貧乏臭い爺い、適当にあしらっとけばいいのに」ボストンバッグを抱えた老人に、新入行員は嘲笑の声を浴びせ、エリート課長代理は別の窓口へ強制的に追い返した。母親の入院費のため百万を引き出しに来ただけの、よれよれのジャケットを着た年寄り――。だが、彼こそが全日本経済の裏を牛耳るクオンホールディングスの会長・久音次郎その人だった。侮辱に耐えかねた新人の篠崎水希が一人で抗議する中、老人が静かに古びたバッグの金具を閉じた瞬間、端末の画面で一千万円、一億円と出金通知の数字が狂ったように跳ね上がり始めた。絶望の淵に立たされた傲慢な行員たちの運命を決定づける、驚愕の審判の行方は――。職場逆転|修羅場1.6万字5 2024 -
完結第25話
底辺受付嬢を見下す役員たちの誤算
父の会社は、最も信頼していた人間の裏切りによって無惨に食い物にされた。巨額の負債を背負い、絶望の中で病に倒れた父。私はその冷酷な真相を暴くため、ハーバード大の博士号を隠し、ただの「受付嬢」として敵の中枢である星空グループに潜入した。 誰からも見下され、理不尽な侮辱に耐え忍ぶこと3年。息を潜めて集めた証拠が示したのは、あまりにも残酷な真実だった。父を破産に追い込み、私から全てを奪った黒幕の正体は、父が家族のように慕っていた古参役員だったのだ。 「黒幕は役員会の中にいる」――私を守るため、父が命懸けで残してくれた最期のメッセージを知った時、胸の奥の悲しみは絶対的な冷酷さを持つ復讐の炎へと変わった。私の素性を知る新社長のハルトや、父の旧友たちと共に、私は決して逃れられない完璧な包囲網を密かに築き上げていく。 そして迎えた運命の役員会。全てを掌握したと信じ、私の前で勝ち誇る黒幕。だが彼はまだ知らない。無力な受付嬢だと思っていた私が、彼を社会的死の淵へと突き落とす致命的な罠を仕掛けていたことを。仮面を脱ぎ捨てた時、強欲な悪魔を地獄の底へと引きずり下ろす、容赦なき反撃が幕を開ける――。因果応報|真相|修羅場3.8万字5 2102