みかん小説
本棚

"奪われた手柄と残された受領印" 第2話

夜にい取りでアパートへ帰り着いても、休むもなく霞の担当する資料を代わりに作り続けた。

スマートフォンが震え、画面に霞からのいメッセージが表示された。

『鍵はポストに入れておいて。省吾君が部に来るから、荷物は週末に取りに来てくれる?』

俺は震える指先で、画面に文字を打ち返した。

『今、しだけ話せないかな。何が悪かったのか、俺にも教えてほしい』

すぐに既読がつき、たい返答が返ってきた。

『そういうところがいの。最まで私を困らせないで』

画面を見つめたまま、俺はさく息を吐きした。

『分かった』

そう返信するのが精杯だった。

もう何も残っていないと分かっているのに、嫌われたくなくて、最まで相の都ばかりを優先していた。

、もう度だけ会社へこう。

俺がまだこの発の役につと分かれば、しは考え直してくれるかもしれない。

そんな愚かな考えがをよぎった瞬、胸の奥がギリギリと音をててく縮みがった。

たい夜のがりしきる、横断歩の信号の青いが界のでぐにゃりと滲んでいく。

アスファルトのたさが元からいがってくるのをじた、ポケットのでスマートフォンが震えた。

元に当てた画面から、聞き覚えのある澄んだ声が微かに響いてきた。

広告

『椎名です。夜分に突然すみません。以お話しした採用の件、まだ諦めていなくて……まずはご飯だけでもどうでしょう?』

椎名さんだ、とのどこかで認識した。ずっと忙しさを理由にして、返事をせていなかった相だった。ご飯か。俺が最に誰かと向かいって、ゆっくり温かいものをべたのは、いつのことだっただろうか。

画面に触れて通話に応えようとしたが、指先が鉛のようにく、びくともかなかった。

激しい鳴りの向こうで、く誰かが叫んでいるような声が微かに聞こえてくる。

誰の名も呼べないまま、たいの匂いので、俺の最初のは静かに幕をろした。

暗の底で、ふわりと温かな気配が頬を撫でた。

「まだ、ページを閉じなくていいんですよ」

静けさのに響いたその声に、俺はい瞼をゆっくりと持ちげた。

周囲には無数の本が並ぶ本棚が果てしなく広がり、柔らかなランプの灯りが空を満たしている。

俺は目のにつ、穏やかな微笑みを湛えた女性を見げた。

「ここは……あなたは、誰ですか?」

女性は胸ので冊の革装丁の本を抱え、優しく会釈した。

「しおりと申します。誰かのために頑張り続けて、擦り切れてしまったあなたに、もう度だけ朝を届けに来ました」

俺は乾いた唇をいた。

「もう度、やり直せるんですか……?」

広告

しおりは静かに頷き、その瞳を真っ直ぐにこちらへ向けた。

「戻るのは、あなたが全てを失ってしまうです。けれど、その先にある結末を選ぶのは、の誰でもない、あなた自ですよ」

ランプの灯りがふわりと揺れ、彼女の声が温かく包み込んでくる。

「今度はどうか、あなた自のためにもきてくださいね」

自分のためにきる。

その言葉の温もりだけが、胸の奥底に消えることのない種となって残り続けた。

く息を吸い込むと、肺のに鮮な空気が満ちていく覚があった。

目をけると、そこは見慣れた自宅のアパートの、井の目だった。体を起こし、机のを見ると、昨会社に返却したはずの社員証が静かに置かれている。

枕元のスマートフォンをに取って画面を点灯させると、付はあの屈辱な会議のを示していた。

あの議な庫も、しおりと名乗った女性も、の淵で見た覚だったのだろうか。

けれど、肌に残る夜ののたさと、に残る温かな声の触は、今も消えずに々しく体に残っていた。

その、のでスマートフォンが甲い子音をてて震えした。

画面には「霞」の名が表示されている。

通話ボタンを押してに当てると、聞き覚えのあるな声が鼓膜を叩いた。

『起きてる? の会議、私もるから、発表用の資料を昼までに仕げてお願いね』

俺はベッドの端に腰掛け、毛布を握りしめながら聞き返した。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: