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"奪われた手柄と残された受領印" 第5話

成瀬は嘲笑うように肩をすくめた。

「能を役員に見せるのは俺なんでね。そこは俺が決めます」

俺は総務の類に線を落とした。

「わかりました。その変更は、成瀬さんがご自の判断で決定したものとして、記録をお願いします」

すべての資料とプログラムのデータを社内サーバーに残し、俺はちがった。

鞄に入っているのは、私物のペンと、退職の控えの切れ枚だけだった。

机のにロッカーの鍵を置いた、背から誰かに呼び止められるような気がしたが、振り返っても誰も俺の姿を見ていなかった。

ビルのエントランスをて歩を歩いていると、背からりの音が追いかけてきた。

「友! 待ちなさいよ!」

追いついてきた霞は、息を切らしながら俺の正面へ回り込んできた。

「本当に辞めるなんて、どういうつもりなの? 私のもしは考えてよ。婚約者が仕事を投げして逃げたなんて、社内で噂されたらどうするのよ」

俺はち止まり、たいので彼女の顔を見つめた。

「婚約を終わらせたいんだよね」

霞は瞬だけ言葉を失い、線を泳がせた。

「……誰に聞いたの?」

「昨から、そういう話し方だったよ。今は、君の本当の気持ちを聞いて、終わりにしたいんだ」

霞はき直ったように顎をげ、ややかに告げた。

「……省吾君と付きうことにしたの。

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あなたも、々分かっていたでしょう?」

「分かった」

俺は静かに頷いた。

「部にある俺の荷物は、受け取りにくを事に連絡する。鍵も、そのに返すよ」

霞は納得がいかないというように眉をひそめた。

「……それだけ? 普通はもっと、何か言うんじゃないの?」

「何か言えば、君の気持ちは変わるのか?」

「そういうことじゃなくて! 私が全部悪いみたいな顔をしないでよ」

俺はっていなかったわけではない。

胸の奥は焼け付くように痛んでいた。

それでも、その痛みを見せることで相が優しくなるという甘い期待を、もう度と抱きたくはなかった。

霞はバッグを握り直し、で求をねてきた。

「来週の展示用の資料だけは、自宅のパソコンから送ってね。途まで作ってくれてたでしょ? あれは会社の仕事とは別の、私個の伝いなんだから」

「共フォルダーにあるところまでで終わりにする。これからは、自分で作ってほしい」

霞は信じられないものを見るように目を見いた。

「友らしくないよ。困っているを放っておけないのが、あなたの唯のいいところだったのに」

その言葉に、俺の胸の奥から静かな声が漏れた。

「俺が困っていた、君にそばにいて欲しかったよ」

霞は息を呑み、言葉に詰まった。

「……今更、そんなこと言われても」

「うん。だから、もう君には何も頼まないよ」

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声は微かに震えていたが、俺は決して言い直さなかった。

霞は唇を噛み締めながらから婚約指輪をし、俺のいたのひらのへ投げ捨てるように戻した。

踵を返し、音を荒ててオフィスビルへと引き返していく彼女の背を、俺は見送った。

いつもなら、慌てて追いかけて嫌を取っていた背だった。

だが今は、歩もかなかった。

引き止めるための言葉を探す無駄なを、これからはすべて、俺自のために返そうとった。

のでスマートフォンがく震えた。

画面をくと、椎名凛からのメッセージが届いていた。

『駅の喫茶で待っています』

俺はく息を吸い込み、駅へ向かって歩きした。

駅の落ち着いた喫茶の扉をけると、奥の席からの女性がスッとちがった。

きちんとしたジャケット姿の椎名凛が、配そうに俺の顔を見つめていた。

「牧野さん、こちらです。……丈夫ですか? しお顔のが良くないですが」

俺はコートを脱ぎながら、ぎこちなくをげた。

「し々ありまして……急な連絡になってしまって、すみません」

椎名は優しく微笑み、向かいの席を掌で示した。

「急にお誘いしたのは私の方ですよ。まず座ってください。事はまだ召しがっていませんよね?」

俺は席に着きながら、焦るように言葉をねた。

「お話を先に伺ってからにさせてください。採用の条件や、僕に何ができるのかを……」

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