みかん小説
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"奪われた手柄と残された受領印" 第9話

楽しいからこそ、俺はを忘れて画面に没してしまっていた。

オフィスのがすっかり夜のに包まれた頃、椎名が俺のデスクの横に歩み寄ってきた。

「牧野さん、今はここまでにしませんか?」

俺はキーボードから目をさず、画面をスクロールした。

「あとしなんです。椎名さんは先に帰ってください。この画面の完成までなら、今夜にきげられますから」

椎名の声が、ピタリと止まった。

「……今夜にというお約束は、していませんよね」

俺はを止めずに答えた。

「の午に、緒に作確認をする予定でしたよね。途で作業を止めてしまうと、迷惑をかける気がして……」

椎名のが伸びてきて、俺の打鍵を遮るようにキーボードの横へそっと置かれた。

「途のものを『途です』と正直に教えてくだされば、私は何つ困りません。黙って無理をして倒れられる方が、私はずっと困ります」

俺の指先が、空で止まった。

その反応に気づいた椎名は、しだけ声音を柔らかく緩めた。

「っているわけではありませんよ。私も、この能の続きがとても気になります。でも……今は緒に、美しい晩ご飯をべにきたいんです」

俺は驚いて彼女の顔を見げた。

「……仕事の相談ですか?」

椎名はふわりと微笑んだ。

「純粋な晩ご飯です。お仕事の相談がなくても、お付きいいただけますか?」

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俺は数秒迷った、ファイルを保してエディタの画面を閉じた。

席をちがるまでの数秒、まるで仕事から逃げしているかのような奇妙な罪悪を覚えたが、それでも椎名の隣に並んで夜のへと歩きした。

連れてかれた定のテーブルで、椎名は楽しそうにお品きを広げた。

「このお、定の種類がとても豊富なんですよ。牧野さんは何がお好きですか?」

俺はメニューを見つめながら答えた。

「何でも丈夫です。椎名さんのべたいものにわせます」

椎名はさく首を横に振った。

「私にわせなくていいんです。牧野さんが、今本当にべたいものを教えてください」

「……姜焼き定を。最、べていなかったので」

「じゃあ、私は焼き魚定にしますね。しずつおかずを交換しませんか?」

俺はわず吹きしてしまった。

「それ、最初から姜焼きもべたかったんじゃないですか?」

椎名は悪戯が見つかった子供のように、で元を隠して笑った。

「あ、気づかれてしまいましたか」

彼女が笑うと、目尻が優しく柔らかくがる。

仕事の件を淀みなく説しているの凛とした表とは、全く違う素顔だった。

俺も自然と笑っていた。

温かい料理がめるに、仕事とは全く関係のないもない話をして、箸をめた。

週末、俺は荷物を引き取るため、かつて霞と暮らしていたマンションのにっていた。

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インターホンを押すと、ドアがき、玄関先に段ボール箱がつ無造作に置かれていた。

霞は部の奥へ招き入れる様子もなく、腕を組んで淡に告げた。

「これで全部よ。あなたの本とかケーブルとか。鍵、返してくれる?」

俺はポケットから鍵を取りし、受領にサインをして差しした。

「うん。受け取りの確認も、ここにサインしたよ」

霞はペンを受け取りながら、わざとらしくため息をついた。

「そんなに、儀にしなくてもいいじゃない」

玄関の靴箱のに、俺が分揃えて買ったペアのマグカップが見えた。

その片方の位置には、すでに別の見慣れないデザインのカップが置かれていた。

胸が痛まないと言えば嘘になるが、俺は何も言わずに線を戻した。

霞が探るような目で俺をからまで見つめてきた。

「しい仕事、もう決まったって聞いたわよ。椎名さんの会社なんですって?」

「そうだよ」

「あの、からあなたのことをに欲しがっていたわよね。会社を辞めるから、何か特別な関係でもあったんじゃないの?」

俺はい線で彼女を見つめ返した。

「採用の返事をしたのは、君との婚約が終わっただ。疑うなら、そこは確に違うと言っておく」

霞はバツが悪そうに線を逸らした。

「……別に、責めてるわけじゃないわよ。ただね、今度の社内発表、省吾君がし困っていて……あなたがちょっと見てくれたら、すぐに直るとうの」

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