みかん小説
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"奪われた手柄と残された受領印" 第10話

「担当者に相談してくれ。俺はもう、あの会社の業務をすべて終えている」

「くらいで済む話じゃない! なら、頼めば文句も言わずにやってくれたのに」

俺は段ボール箱を両腕で抱えげた。

「そのを、今の俺は別のことに使いたいんだ」

振り返ることなくマンションのエントランスをて、バスへと歩きした。

空が急に暗くなり、たいの雫がポツポツと肩を叩き始めた。

灯の黄いが、粒ので滲んでいく。

その瞬、胸の奥が急激に締め付けられ、喉の奥がカラカラに渇いて呼吸が浅くなった。

あの夜と同じだ。

信号が滲み、がり、胸が縮みがった、あのの直の記憶が鮮烈にフラッシュバックする。

ここで息ができなくなったら、今度こそ本当に終わってしまうのではないか。

俺はたまらず、くのバスのベンチに座り込み、濡れたでスマートフォンを取りした。

いつもの俺なら、に迷惑をかけまいとで痛みに耐え、うずくまっていただろう。

だが今は、震える指先で、たったつの話番号をタップしていた。

『はい、椎名です! 牧野さん、どうされましたか?』

スピーカーから聞こえてきた声は、すぐに異変を察して声音を変えた。

『声が、いつもと違います。今、どちらにいらっしゃいますか?』

俺は途切れ途切れの呼吸のに、なんとか言葉を絞りした。

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「駅の、つのバスです……を見ていたら、しだけ怖くなってしまって……」

『ベンチに座れていますか? 私、ちょうどくの取引先の事務所にいます。無理に歩かず、そのままそこで待っていてください。すぐにきますから!』

数分、激しくなる煙の向こうから、い傘を差したがたまりを撥ねて駆け寄ってきた。

息を切らしてち止まった椎名は、事を問い詰めることもせず、濡れた段ボール箱をの当たらないベンチの奥へ素く移してくれた。

「荷物、半分持たせてくださいね。今は、帰りの方向が同じになりましたから」

俺は傘のから彼女の濡れた肩を見つめた。

「……呼んでしまって、すみませんでした」

椎名は優しく微笑み、俺の目を見つめた。

「呼んでもらえて、本当によかったです。次からも、絶対に慮しないでくださいね」

傘を並べて歩きながら、椎名が荷物の隙を覗き込んだ。

「随分とたくさんの本がありますね。普段から読をなさるんですか?」

「昔はよく読んでいました。最は、買うだけでく余裕がありませんでしたけど」

椎名はを見つめながら、し照れくさそうに言葉を紡いだ。

「よかったら、今度の曜、緒にかけませんか? ってみたい本さんがあるんです」

俺は驚いて彼女の横顔を見た。

「……仕事で使う技術資料でしょうか?」

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椎名はち止まり、傘をし傾けて俺を正面から見げた。

「休です。お仕事の相談という名目にしないと、来てくれませんか?」

俺は胸の奥が温かくなるのをじながら、しっかりと頷いた。

「きます。休として、んで」

曜の午、待ちわせののへくと、椎名は約束のよりもしく到着していた。

いつもの仕事用のジャケットではなく、柔らかないの私をにまとい、さなハンドバッグを両で握りしめていた。

「お待たせしてしまいましたか?」

俺が声をかけると、彼女は嬉しそうに振り返った。

「私がく着きすぎただけです。今は、計を見すぎない練習のにしましょう」

のをで並んで歩き、椎名は料理本のコーナーのでを止めた。

冊のレシピ本をに取り、難しそうなの込んだ料理のページをいて、すぐにパタリと閉じる。

俺は横から覗き込んだ。

「作るんですか?」

椎名は恥ずかしそうに頬を染めた。

「作るつもりで買うんです。実際に作るところまで、なかなか辿り着けないんですけどね」

俺はわず笑ってしまった。

「さっきの俺の積ん読本と、全く同じですね」

「ふふ、仲がいましたね。じゃあ、まずは番簡単そうなページから挑戦してみます」

併設されたカフェスペースに座り、コーヒーを頼んだ。

椎名のスマートフォンが卓でさく震え、画面に『投資との協議』という通が表示されたが、彼女はそれを伏せて見えないようにした。

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