みかん小説
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"八万八千円のスカーフと離婚届" 第1話

の、曇りの朝だった。

キッチンの勝に置かれたプラスチックのゴミ箱をけた瞬、ゴミの微かな饐えた匂いに混じって、価なの残のようなものが先をかすめた。佐伯志津は、ゴミ袋を縛ろうとしていたをふと止めた。

透な指定ゴミ袋の底、昨夜の夕飯で使った野菜屑の隙に、見慣れない艶やかな袋が押し込まれていた。

黒にの箔押しで刻まれた、座の老舗百貨に入っている級ブランドのロゴマーク。その横に、さく丸められたレシートが張り付いている。

志津は胸の奥にたいものがるのをじながら、吸い寄せられるようにそのレシートを指先でつまみげた。

印字された付は昨。第曜の――つまり、母ののだった。

『シルクツイルスカーフ ラ・フルール・ド・ソワ ¥88,000』

クレジット決済の署名欄には、見慣れた几帳面な跡で『佐伯拓』とサインされていた。

志津はその数字を見つめたまま、しばらく呼吸の仕方を忘れていた。

昨夜の景が、鮮やかな棘となって脳裏に蘇る。

昨は母のだった。

学を卒業して都内のIT企業で働き始めて目になる男の拓と、このに私学のになった女の真帆。が揃って夕方にリビングへ現れたとき、志津の胸はささやかなびに満ちていた。

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拓が差ししてきたのは、駅ビルので売られている、千百円ほどの焼き菓子のさな詰めわせだった。リボンすらついていない、簡易包装の箱。

「はいこれ、いつもありがとね」

拓はスマホの画面から目をさず、片でそれを志津ののダイニングテーブルに置いた。

「真帆からも緒だから。ちょっと今、卒論の準備とかみ会で欠でさ」

真帆はといえば、リビングの鏡ので髪の毛先を指でえながら、振り返りもせずに「ごめんねー、志津さん。来はちゃんとするから!」と軽やかに笑っていた。

志津はそのとき、の底から嬉しかったのだ。

「ううん、いいのよ。とも社会になったり就活で変な期なのに。気持ちだけで本当に充分。ありがとうね」

事そうに箱を受け取り、賞期限のシールを眺め、仏壇にをわせてからつをに含んだ。パサついた焼き菓子を、茶で流し込みながら、の苦労が報われたような温かいいに浸っていたのだ。

自分はなんて愚かで、れなピエロだったのだろう。

万千円のシルクスカーフ。

拓の取り与の分のくを吹きばすようなその贈り物が、こののどこにもしない理由を、志津は痛いほどよくっていた。

階の階段から、トントンと軽な音がりてきた。

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「おはよう、志津さん。朝ごはん、もうできてる?」

真帆だった。洗いての髪を揺らし、部着のスウェット姿でキッチンを覗き込んでくる。その首元には、志津が見たこともない、繊細なピンクゴールドのネックレスが揺れていた。

「……真帆、そのネックレス、どうしたの?」

志津ができる限り平静を装って尋ねると、真帆の目が瞬だけ泳ぎ、すぐにわざとらしい笑顔が張り付いた。

「あ、これ? 友達と渋で買った物だよ。千円くらい」

嘘だった。留め具の部分に刻まれたハイブランドのさな刻印を、志津の目は逃さなかった。

「そう。朝ごはん、焼き魚とお噌汁、もう並べてあるわよ」

「ありがと。あ、私、今お昼いらないから。友達とちょっと座でランチの約束あるの」

真帆はそう言い捨てると、ダイニングの子に浅く腰掛け、スマホをテーブルに置いた。画面がパッと点灯し、LINEの通が表示される。

『ママより:昨は本当にありがとう! 拓のスカーフも真帆のバッグもすっごく素敵。パパには内緒ね。今のランチ、楽しみにしてるわね♡』

真帆は慌てたようにスマホを裏返し、志津の顔を伺った。

志津は何も言わず、ただまな板ののネギを刻み続けた。トントン、トントンと、包丁が規則正しい乾いた音をてる。

元が狂いそうになるのを、奥歯を噛み締めて必に堪えていた。

ママ。

その文字が、志津の臓を無残にえぐり取っていく。

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