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"八万八千円のスカーフと離婚届" 第4話

志津は、胸をナイフで抉られるような痛みを覚えながら、それでも無理に角をげて微笑んで見せたのだ。

「……ええ。ってあげて。おじいちゃん、きっと待ってるわ」

言ってしまった。

言ってはいけない言だった。

あのとき、鬼になってでも「くな」と鳴り散らしていれば。敷居を跨ぐなら縁を切ると突き放していれば。

だが、志津は「物分かりのいい、優しいお母さん」の仮面を脱ぎ捨てることができなかった。その甘さが、すべての破滅の引きとなったのだ。

宗郎の葬儀をきっかけに、度解かれた封印は、濁流のように佐伯を侵していった。

葬儀から戻った子供たちの様子は、らかに変わっていた。

「恵理子さん……すごく痩せてて、ずっと泣いてたよ。私たちがさかった頃の写真、ボロボロになるまでお財布に入れて持ってた」

真帆がリビングでぽつりと呟いた。

「男に騙されて、財産も全部取られて、ずっと酷い目に遭ってたんだって。私たちを置いてったのも、借取りから私たちを守るためだったらしいよ。『わせる顔がないから、くからずっと見守ってた』って……」

「そんなの、嘘に決まってるじゃない!」

志津はわず声を荒らげた。

「あの女がどんなでお父さんの貯を奪って、あなたたちを放置して男と逃げたか、お父さんから聞いてないの!? 借取りから守るため? ふざけないで! 借を作ったのはあの女自よ!」

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だが、志津の必の訴えは、子供たちのには届かなかった。

拓がややかな線を志津に向けた。

「志津さん、落ち着いてよ。別に実の母親の方をしてるわけじゃないよ。でもさ、も経ったんだよ? 反省してボロボロになってるに対して、そんなに目くじらてなくてもいいだろ。それに、俺たちを産んでくれたのは事実なんだから」

産んでくれたのは事実。

その言葉が、志津の胸にく突き刺さった。

どれだけを注いでも、どれだけにまみれて育てても、「産んだ事実」という血の呪縛のには、の歳などただの屑に過ぎないというのか。

雅也もまた、煮え切らない態度に終始した。

「まあまあ、志津。子供たちももうなんだからさ。自分の目で母親を確かめたいんだろ。放っておけばそのうちもめるさ」

だが、がめるどころか、事態は急速に悪化していった。

恵理子は巧妙だった。

子供たちに直接会う頻度をしずつ増やし、自分の幸を嘆き、母性をアピールした。

恵理子は現、都内でさな輸入雑貨のサロンを経営していると自称していた(にそれが真っ赤な嘘だと判するのだが)。

「今まで何もしてあげられなかった罪滅ぼしに」と、真帆には価なブランドバッグや化粧品を買い与え、拓には級レストランでの事を奢り、著名なIT起業を紹介すると持ちかけた。

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若く、世らずな子供たちは、あっというに恵理子の張り巡らせた甘い罠に絡め取られていった。

ので、志津の居所はにに狭くなっていった。

志津が丹精込めて作った夕に、子供たちはをつけなくなった。「恵理子さんとフレンチべてきたからいらない」「胸焼けするからお茶漬けでいいや」。

志津が洗濯したシャツを見て、拓が「なんか乾きの匂いがするんだけど。恵理子さんがくれた柔剤使ってよ」と顔をしかめた。

志津が話しかけても、子供たちは返事しかしなくなり、休は揃って恵理子のマンションへ入り浸るようになった。

そして極め付けが、昨の母のだったのだ。

志津にはスーパーの片隅の焼き菓子。

恵理子には、座で買った万千円の最級シルクスカーフと、真帆が選んだ級ブランドのバッグ。

リビングの壁にかかった計の針が、夜のを回っていた。

ダイニングテーブルのの、め切った夕の残骸を片付けながら、志津は玄関のドアがく音を聞いた。

「ただいまー」

酒の匂いを漂わせながら帰ってきたのは、夫の雅也だった。

営業の接待だと言っていたが、その襟元から漂ってくるのは、居酒の煙の匂いではなく、甘ったるい女物のオーデコロンのりだった。

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