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"八万八千円のスカーフと離婚届" 第6話

志津の臓が、ドス黒い凶器で貫かれた。

目眩がした。っていられなくなり、ダイニングテーブルの縁を両で掴んで辛うじて体を支えた。

恵理子はそこまで子供たちに吹き込んでいたのか。

自分が命を削って捧げてきたのすべてが、あの女の真っ赤な嘘によって、「子供を奪った奪者」の物語へとき換えられていたのだ。

「拓、それは違う……! 私は……!」

「もういいよ、言い訳なんか聞きたくない」

拓は吐き捨てるように言った。

「俺も真帆も、もう全部ってるんだよ。親父、もういいだろ。こんなヒステリックな女とはく婚して、母さんとやり直そうぜ。俺たち族でさ」

雅也は困ったような顔をしながらも、拓の言葉をく否定しなかった。ただ曖昧に「まあ、それは追々話しうとして……」と濁すだけだった。

勝負は、ついていた。

このので、佐伯志津というは、最初から「都のいい政婦」でしかなかったのだ。

をすすり、借を返し、夜尿症のシーツを洗い、学の学費を稼ぐための具。

子供たちが自し、と美貌を持つ本物の母親が戻ってきた瞬、ゴミ箱の焼き菓子の箱のように、用済みとして捨てられる。

――ふざけるな。

志津の胸の奥底で、何かが音をてて崩壊し、同に、青い炎のようなものが燃えがった。

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しみは消えった。

涙の滴すらなかった。

ただ、どこまでも徹で、絶対なりだけが、志津の全の神経を支配していた。

「……そう」

志津は静かに顔をげた。その瞳から切のが消え失せ、底れぬ漆黒のが広がっていた。

「よく分かったわ。あなたたちの本が」

「なんだよ、その顔。き直る気か?」

拓が気悪そうにを引いた。

志津は何も答えず、自分の寝へと向かった。

背で雅也の「おい、志津!」という呼び声が聞こえたが、度と振り返ることはなかった。

翌朝、志津は始発のに乗っていた。

向かった先は、都内の等に事務所を構える『倉田総法律事務所』だった。

代表弁護士の倉田亮介は、志津の学代の輩であり、彼女が商社に勤めていた頃から親交のある、極めて優秀な事事件・相続専の弁護士だった。

「志津先輩から連絡をもらうなんて、何ぶりですかね」

応接に現れた倉田は、代半ばの精悍な顔ちを崩して微笑んだが、志津のやつれた顔と、その奥に宿る異様なを見るなり、すぐに表を引き締めた。

「……ただ事じゃありませんね。何があったんですか」

志津は、の来事から、半の恵理子の現、昨夜の夫と息子の裏切りに至るまでのすべてを、を挟まずに淡々と、克に語った。

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持参したバッグからは、昨夜持ち帰った万千円のレシート、雅也のホテルの領収、そしてに自分が計簿代わりに記録していた、恵理子の借返済の記録と通帳のコピーを取りしてテーブルに並べた。

倉田は腕を組み、い沈黙のにいため息をついた。

「典型な、自己型パーソナリティによる庭の乗っ取りですね。しかし、先輩……話を聞く限り、腑に落ちない点がいくつもあります」

「腑に落ちない点?」

「ええ。神崎恵理子という女の原理です」

倉田は鋭い指先でデスクを叩いた。

「も音信通で、養育費も払わず逃げ回っていた女が、父親の危篤をきっかけに突然現れ、子供たちや元夫に異常なまでの執着を見せている。

しかも、価なプレゼントを買い与え、羽振りのいい起業を装っている。本当に子供へのや、元夫への未練だけでここまでのリスクを冒しますかね?」

「……どういうこと?」

「神崎宗郎氏の遺産ですよ」

倉田の目が怪しくった。

「神崎は、元でも数の主です。宗郎氏がくなったとなれば、く遺産の額は億単位になるはずだ。恵理子はその遺産を巡って、何らかの巨な罠を仕掛けている能性があります。先輩、しをください。私のツテを使って、神崎宗郎氏の相続関係と、神崎恵理子の現の辺を徹底に洗ってみます」

「お願い、亮介。私、もう絶対に泣き寝入りなんてしない。あいつらが私から奪ったの代価を、円残らず支払わせてやるわ」

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