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"八万八千円のスカーフと離婚届" 第11話

この自宅のあなたの持分は、仮差押えの続きに入っています」

雅也はそのにへたり込み、ガタガタと震えながらを抱えた。

「志津……頼む、許してくれ! 俺が悪かった! 恵理子に騙されてたんだ!やり直そう、な? 今まで通り、みんなで暮らそう!」

みっともなく縋り付いてくる雅也のを、志津はたく払い落とした。

その瞳には、軽蔑のすら残っていなかった。ただの傍のを見るような、絶対な無関だった。

「昨、あなたが私に突きつけてきた婚届よ」

志津はバッグから、綺麗に折り畳まれた婚届を取りし、雅也のに落とした。

志津の署名と捺印が、寸分の狂いもなく記されていた。

「提しておきなさい。あなたの顔は、度と見たくないわ」

「志津さん……!」

泣き叫びながら、に膝をついて志津の元に縋り付いてきたのは、拓と真帆だった。

はに額を擦り付け、涙とで顔をぐしゃぐしゃにしながら、志津の喪の裾を掴んだ。

「ごめんなさい……! 俺が馬鹿だった! 俺、最なだ! 志津さんを傷つけて……あんな酷いこと言って……!」

「お母さん、かないで! 私たちを捨てないで! お母さんがいなきゃ嫌だよ! ごめんなさい、ごめんなさい……!」

の子供たちの絶叫が、静まり返った寺の境内に響き渡った。

かつて、嵐の夜に置きりにされ、飢えと恐怖に震えていたあの幼い子供たちの姿が、瞬だけ志津の脳裏をよぎった。

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志津の胸の奥底で、痛切な痛みがった。

完全に割り切れるほど、という歳はくない。自分が注いできたは、紛れもなく本物だったのだから。

だが。

志津はゆっくりと、子供たちのをそのの裾からした。

度引き剥がされた指先が、再び志津を掴もうとするが、志津は歩、ずさってそれを拒絶した。

「拓。真帆」

志津の声は、震えていなかった。どこまでも静かで、どこまでも澄み切っていた。

「私はね、あなたたちをしていたわ。自分の命よりも切にっていた。血が繋がっていなくても、さえ通いっていれば、私たちは世界で番い族になれると信じていたの」

子供たちは顔をげ、すがるような目で志津を見つめた。

「でもね、あなたたちは言ったわ。『血の繋がりもないくせに』って。『所詮はだ』って」

「あれは……あれは嘘なんだ! 恵理子に唆されて……!」

「いいえ、あれがあなたたちの本音よ」

志津はしげに、だが毅然と首を横に振った。

「にない言葉は、どんなに唆されてもからはないわ。あなたたちは、私とのよりも、万千円のスカーフで買えるっぺらな『血の繋がり』を選んだの。私のを、私の捧げてきたを、自分たちの都で踏みにじったのよ」

「お母さん……!」

「親子の絆はね、血で作られるものじゃないわ。

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々の積みねと、お互いへの敬と信頼で作られるものなの。それを壊したのは、恵理子さんじゃない。あなたたち自よ」

志津はから線をし、寺の院のへと歩きした。

「志津さん! かないでくれ! 志津さん!!」

「お母さん!! ごめんなさい!!」

背から、引き裂かれるような子供たちの泣き叫ぶ声が追いかけてくる。

だが、志津のが止まることは度となかった。

院の敷居を跨ぎ、初のがり注ぐ境内へとた瞬、志津の肩から、にわたって背負い続けてきたいい鉛の鎖が、音をてて滑り落ちていくのをじた。

ヶ。

都の喧騒からしれた、緑豊かなのさなマンションのに、志津の姿があった。

向きの窓から、よい初のが吹き込んできている。

部のには、しく買い揃えた簡素な製のダイニングテーブルと、いベッド、そして実母の形見の着物を収めた桐の箪笥があるだけだった。

神崎宗郎の残した億千万円の遺産は、遺言通りすべて志津が相続した。

志津はその半を、かつての自分と同じように、親のネグレクトや庭崩壊で苦しむ子供たちを支援する児童養護施設や奨学財団へと寄付する続きを済ませていた。

元に残したのは、自分がこれからで慎ましくきていくための、わずかな活資だけだった。

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