みかん小説
本棚

"二千四百万の罠と偽りの解雇" 第1話

「ピッ、エラーです」

無質な子音が、曜の静まり返ったオフィスビルのエントランスに鋭く響き渡った。

私のにあるプラスチック製の社員証は、いつも通りにセンサーの央部へ押し当てられている。

しかし、目のにある自閉式のフラッパーゲートは、頑なに閉ざされたまま青いランプを赤く滅させていた。

私は眉をひそめ、社員証の表面に付着した埃を親指の腹で払い、もう度だけ読み取りにかざしてみた。

「ピッ、エラーです」

まったく同じ、淡な警告音が再びフロアに鳴り響いた。

私の背に続いていた同じフロアの同僚たちが、異変を察して次々とそのにを止めた。

靴底が擦れる乾いた音が止み、周囲の空気がわずかに緊張を帯びて張っていくのが肌に伝わってきた。

「瀬」

く濁った、聞き覚えのある声が背から私の朶を打った。

私がゆっくりと踵を返すと、そこには仕ての良いスーツにを包んだ黒川俊介部が仁王ちしていた。

そのすぐ隣には、事部を務める佐伯さんが、線を泳がせながら所なさげに佇んでいる。

黒川部は私の元にある社員証を瞥すると、顎をわずかにへと突きした。

「もう入らなくていい。本付で解雇だ」

黒川部の唇から放たれた言葉は、あまりにも唐突で、そして傲な響きを帯びていた。

広告

私はそのにち尽くしたまま、しばらくの、何の言葉も返さずに彼のたい瞳を見つめ返した。

エントランスの周囲では、改札を抜けようとしていた社途の社員たちが、驚きの目をこちらに向けている。

好奇の線を隠そうともせず巻きに眺める者もいれば、見て見ぬふりをしてに通り過ぎる者もいた。

黒川部は周囲の線など気にも留めない様子で、エレベーターホールの脇にある応接スペースを顎で示した。

「で話すぞ。いつまでもこんな所で晒し者になっているつもりか」

促されるまま案内された階のさな会議には、窓がなく、えた空調のだけがく唸っていた。

細いテーブルの央には、すでに通のい類が、あらかじめ用されたように置かれていた。

いの最部には『解雇通』という々しい表題が太字で印刷されていた。

通先の欄には、私の名である『瀬咲』という文字が瞭に印字されている。

そして、そのにある解雇理由の欄には、たった、『な報管理違反』とだけ記されていた。

何何に、どの案件で、どのような規則を破ったのかという具体な記述は、どこにもしなかった。

「具体に、私が何をしたことになっているんですか」

私は類から顔をげ、正面のパイプ子に腰をろした黒川部を静かに見据えた。

広告

黒川部は背もたれにく寄りかかり、太い腕を胸ので組むと、馬鹿にしたようにを鳴らした。

「そこまで取り取り説されないと、自分の胸にを当てても分からないのか」

「分からないから、事実を確認するために聞いています」

私の返答に黒川部が苛ちをわにしかけた、隣に座っていた事の佐伯部が慌てて割って入った。

佐伯部は鏡のブリッジを差し指で押しげながら、宥めるような調で言った。

「瀬さん、まずは会社としての正式な判断を受け止めてください。になっても事態は変わりませんよ」

「になどなっていません。ただ、された判断の客観な根拠を確認しているだけです」

黒川部が再び先でたく笑った。

「なら好きにすればいい。労基署の相談窓でも労働組でも、きたければどこへでもけばいいだろう」

そう言い放つと、黒川部は佐伯部の元にある別のファイルを太い差し指で叩いた。

「会社側には顧問弁護士も控えているんだ。裁判にでも持ち込んで引かせたいというなら、いくらでも付きってやるぞ」

私は黒川部の脅しのような言葉を聞き流しながら、肩に掛けていたビジネスバッグのファスナーをけた。

から自分のスマートフォンを取りすと、画面を操作して録音アプリケーションを起させた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: