"離婚を知らずに生活費25万円を催促する夫" 第1話
「今の活費万円。まだ振り込まれてないぞ。俺をらせたいのか」
スマホのスピーカーから、苛った夫の声が響いた。ビジネスホテルの静かな部に、その声だけが自然に響き渡る。
私は鳴り返すことも、泣き叫ぶこともしなかった。ただ元にある枚の類を静かに撫でていた。それは役所の印鑑がはっきりと押された『婚届受理証』だった。
夫はまだ何も気づいていない。私が今、仕事の張でくにいると信じきっている。そして自分が使っている族カードが、の朝には全て使えなくなることにも気づいていない。
この、夫は完全に勝ったつもりでいた。私を脅せば、すぐにでも座におが振り込まれるとっていたのだろう。
「おい、聞いてるのか。おみたいにげのない女、俺がもらってやっただけでも謝しろよ」
夫の声はさらにきくなった。私はベッドの端に座り、めかけた缶コーヒーをんだ。窓のには見らぬの夜景が広がっている。
胸のにあるのはりでもしみでもなく、ただとても静かで徹なだけだった。
「ごめんなさい。仕事の資料を読んでいて聞こえなかったわ」
私はできるだけ平坦な声で答えた。夫を刺激しないための、この数ずっと使ってきたを消した声だ。
広告
「言い訳はいいんだよ。の朝番で絶対に万振り込め。俺だって付きいがあるんだ。これ以俺をらせたら、本当に婚するぞ」
その言葉を聞いて、私はわずさく息を吐いた。夫は何かあるとすぐに『婚』という言葉をにする。
私がフリーランスの設計士として必に働きこのを支えているのに、に仕事を辞めた夫は起業の準備をすると言いながらずっと無職のままだ。
それなのに夫はいつも私を見していた。女のくせに稼いでいるからと、私が威張っているとい込んでいるのだ。
だから自分のプライドを保つため、婚という言葉を武器にしていた。私がになることを恐れていると本気で信じていたのである。
「わかったわ。でも今はどうしてそんなに必なの?」
私が静かに尋ねると、夫はし言葉に詰まった。
「だ、だから起業のための脈作りだよ。おみたいなでパソコン叩いてるだけの女には、社会の繋がりなんてわからないだろうが」
がった声の奥に、ほんのしだけ焦りが混じったのを私は聞き逃さなかった。話の向こうから微かに音楽が聞こえる。静かなジャズのメロディと、グラスが軽く触れうような音だ。
どう考えても夫は自宅にはいなかった。刻は夜のを回っている。
広告
義母と同居しているあので、こんな音楽が流れるはずがない。
私は元にあった類から目をし、もうつの古い具にを伸ばした。それは分い冊のノートだった。
表には何もかれていないが、にはこの半の記録がびっしりと詰まっている。夫のクレジットカードの細のコピー、夜のコンビニのレシート、級レストランの予約履歴、女性物のブランドバッグの保証。
私はそれらの証拠を、夫にも義母にも気づかれないようしずつ集めてきた。夫が寝静まったや、義母がデイサービスにかけているのわずかなを使って。
ただに問い詰めても、夫は絶対に認めないと分かっていたからだ。義母も必ず息子を庇い、私を悪者にするに決まっている。
「お義母さんはどうしているの?」
私が話題を変えるように聞くと、夫は舌打ちをした。
「母さんなら寝たよ。おがいないから、俺が夕飯の世話までしたんだぞ。本当に気が利かない嫁だよな」
嘘だった。私は張にる、蔵庫に分の事を作り置きしてきた。義母が温めるだけでべられるように、タッパーに細かく付箋まで貼ってある。夫が義母の夕飯の世話などするはずがない。
私はノートのページをゆっくりとめくった。そこにはの付でかれた、義母からののコピーが貼られている。
義母が誰かに宛てていたきの便箋だった。ゴミ箱の底に丸めて捨てられていたのを、私が拾いげてシワを伸ばしたものだ。
広告
おすすめ作品
-
完結第28話
父の治療費70万円を拒んだ夫と、葬儀で開いた黒い封筒
父の治療費70万円を「俺には関係ない」と拒んだ夫・浩一。しかもその裏で愛人との旅行を予約していた彼は、美咲に離婚を突きつけながら、「離婚後も母さんの介護は続けろ」と要求する。5年間、美咲が義母のために支払った金額は2280万円を超えていた。 だが浩一たちは知らなかった。地方の医師だと思っていた美咲の父が、全国に介護・医療事業を展開する巨大企業の創業者で、株式63%を管理する信託の受益者が美咲だったことを。 さらに義弟・修二が美咲名義の委任状を偽造し、密かに口座を調べていた事実まで発覚。 そして1ヶ月後、父の葬儀に現れた浩一は、なおも「母さんの介護に戻れ」と命じる。美咲は親族全員の前で、父が遺した黒い封筒を静かに開いた――。夫婦|親不孝|修羅場4.2万字5 3 -
完結第26話
特上寿司と、消えた妻の半年
3月31日22時、激務を終えて帰宅した私の席にあったのは、冷え切った白米一杯だけだった。目の前で1万8900円の特上寿司を頬張る夫と義母は、「反省したらおかずをあげる」と大笑いする。家計の大半を私が支えているにもかかわらず、9ヶ月間も「罰」として食事を奪われ、夫は横で嘲笑っていた。だが二人は知らない。私が半年かけて集めた出前明細の履歴と、義母が隠し持っていた一枚の申告書の存在を。「じゃあ、外で食べてきます」――二度と振り返らずにドアを閉めた夜、経理の私が仕掛けた冷徹な清算が幕を開ける。嫁姑|夫婦4.0万字5 608 -
完結第34話
妻の葬儀の夜、義母が外した指輪と娘の写真
妻・美保の葬儀が終わった夜、修二の結婚指輪を外したのは、亡き妻の母・麗子だった。「もう美保に隠す必要はないでしょう」と唇を寄せたその瞬間、娘・咲から1枚の写真が届く。そこには半年前の病院で抱き合う修二と麗子、そしてガラス越しに2人を見つめる病衣姿の美保が写っていた。 闘病中の妻を支える献身的な夫を演じながら、修二はいつしか自分の弱さを理解してくれる義母へ逃げ込み、越えてはならない境界を越えていた。しかも麗子は「美保も知っていた」「私がいなくなったら修二さんを1人にしないでと頼まれた」と主張し、その証拠となる録音まであるという。 だが翌朝、咲が告げたのは「お母さんの声を最後まで聞いて」という一言。 亡き妻が本当に残した言葉を前に、2人が都合よく信じてきた“許し”が崩れ始める――。夫婦|修羅場5.1万字5 761 -
完結第14話
余命3か月と嘘をついた夫は、離婚後の3000億円を知らない
夫・翔太から「すい臓がん末期で余命3か月」と告げられ、突然離婚を求められたゆい。だが診断書は偽物で、翔太には2年以上関係を続ける愛人・リナがいた。 ゆいは騙されたふりをして離婚に応じる。なぜなら父が残した信託には、婚姻関係が解消された瞬間、3000億円の一族資産が彼女へ移る条件が設定されていたからだ。 さらに翔太には会社資金約5000万円の横領まで発覚する。 莫大な資産を手にしたゆいは、父の顧問弁護士ハルトと共に元夫とその一族へ反撃を開始。ところが調査の果てに、翔太がゆいへ近づいた本当の理由が、20年以上前から続く両家の復讐にあったことを知る。 金と裏切りだけでは終わらない、父世代から仕組まれていた巨大な秘密が姿を現していく――。夫婦|修羅場|不倫2.2万字5 148 -
完結第12話
八万八千円のスカーフと離婚届
ゴミ箱で見つかった高級スカーフ「八万八千円」のレシート。母の日に私へ渡されたのは、千五百円の安菓子だった――。 十四年前に幼子を捨てて逃げた元嫁が突然現れ、泥水をすすって育てた継子たちは一変。「血の繋がらない赤の他人」と罵られ、夫からは一方的に離婚届を突きつけられる。 家族四人でやり直すと私を追い出す夫たち。だが、元義父の四十九日法要に乗り込んだ私の手には、周到に集めた録音データと、二億八千万円の公正証書遺言があった。 そこには、裏切り者たちを戦慄させる「ある解除条件」が記されており――。 弁護士が冷徹に告げる。「全遺産を相続するのは、あなた方ではありません」夫婦1.7万字5 284 -
完結第11話
認知症に仕立てた息子夫婦が奪った実印は偽物だった
雪の降る夕方、はる子は息子・健二と嫁・さやかに「ドライブへ行こう」と誘われ、そのまま人里離れた介護ホームへ置き去りにされる。携帯電話まで奪われ、外出も自由にできない中、彼女はようやく「息子夫婦に捨てられた」と悟った。 さらに2人は、はる子に正体不明の薬を飲ませて混乱させ、認知症の診断を取ろうとしていた。 目的は、失敗したカフェ経営で消えた3000万円と、闇金から借りた2000万円を穴埋めするため、成年後見制度を利用して母の通帳と家を奪うことだった。 しかしはる子は密かに認知症のふりを続け、ズボンに隠したペン型録音機で「後見人になれば通帳も家も私たちのもの」という嫁の声を記録する。 何も分からない老人を演じながら、彼女は息子夫婦が自ら罠に入る瞬間を静かに待ち始める――。親不孝|金銭問題|修羅場1.6万字5 310 -
完結第11話
出世ゴルフの朝、沈黙した妻
「一生話しかけるな。口を開いたら即離婚だ」 そう怒鳴り散らし寝室に鍵をかけた夫。翌朝、出世が懸かった役員ゴルフの起床予定から2時間半が過ぎていた。真琴は夫の言いつけを忠実に守り、一切声を出さず「起きる時間だよー」とLINEを1通だけ送信する。 午前7時15分、泡を吹いてパニックで飛び出していく夫。だが、彼が置き忘れた鍵で書斎を開けた真琴は息を呑む。そこにあったのは、3400万円に及ぶ不正なリベート記録と、真琴の実印を悪用して設立されたペーパーカンパニーの書類だった。 夫の恐るべき企みを知った真琴は、冷たく微笑み受話器を取る。「もしもし、弁護士先生――」夫婦|真実1.7万字5 786 -
完結第27話
月5000円を貯めて泊まった旅館で、妻が「お嬢様」と呼ばれた
手取り23万円の配送ドライバー・かずやは、毎月5000円を5年間貯め、妻・彩佳と10歳の娘・ゆいを初めての家族旅行へ連れていく。ところが山奥の旅館へ着いた瞬間、出迎えた老紳士は彩佳に深々と頭を下げ、「お嬢様、お帰りなさいませ」と告げた。 実は彩佳は、創業150年を超える老舗旅館の一人娘だった。 かつて父の勧めで結婚した夫は旅館の信用と財産を利用しようとし、離婚して幼いゆいを連れ戻った彩佳に対しても、父は娘の苦しみより「旅館の評判」を優先した。 それ以来、実家を離れ質素に生きてきた彼女は、5年越しの旅行を機にようやく過去と向き合う決意をする。突然明かされた妻の素性に戸惑うかずやだったが、「俺が家族になりたかったのは彩佳とゆいだ」と伝える。 そしてこの旅は、長く閉ざされていた親子3代の関係を大きく動かしていく――。夫婦|第二の人生|修羅場4.1万字5 1218 -
完結第14話
式1時間前の略奪と百八十万円
「ごめん。結婚やめる。私この人と一緒になるから」 挙式まであと1時間。控室で純白のドレスを着た婚約者の隣に立っていたのは、家具職人の俺・蒼介の元上司だった。 新居のために手渡した180万円を持ち逃げされ、住まいも仕事も奪われ絶望の淵に立たされた俺。だがその時、息を切らして控室へ飛び込んできたのは、婚約者の妹・こよりだった。 大量の不在着信を残していた彼女の手には、姉が3週間前に交わしていた「別の賃貸契約書」が握られていた。 激昂する姉の前で、こよりは俺の冷え切った手を強く握り締め、真っ直ぐに言い放つ。 「じゃあ私が先輩を幸せにしても文句ないよね」夫婦|真相2.1万字5 370 -
完結第14話
夫の遺品から出た三十年目の嘘
四十九日を終えた亡き夫の書斎。引き出しの隠し底から現れたのは、銀座の老舗宝飾店の高級ネックレスだった。添えられたカードには夫の筆跡で「麻美へ 誕生日おめでとう」の文字。結婚三十二年、私には花一輪すら贈らなかった無口な夫が、見知らぬ女へ遺した甘い贈り物。裏切りの証拠を握りしめ、私は封筒に記された住所の呼び鈴を鳴らした。現れた四十歳の女性にネックレスを突きつけ、夫の名を告げた瞬間――女は息を呑み、大粒の涙をこぼして言った。 「奥さん……ご主人から、何も聞いていないんですか?」夫婦|不倫2.1万字5 1286