"クラウドが暴いた午前一時の密会" 第8話
『志保……待て、違うんだ、あれは……あれは魔が差したっていうか、あいつがどうしても祭りに連れてってくれって言うから――』
「言い訳は、裁判所で聞くわ」
私は拓の言葉を徹に遮った。
「あなた宛ての内容証郵便は、、あなたの会社の事総務部、およびコンプライアンス委員会宛てに送達されるはずになっているわ」
『は……? 会社……? おい、待て! 会社は関係ないだろ! 会社を巻き込むなよ!』
狂乱の叫び声をげる拓。
社内倫、それも妻の救急搬送と乳児の育児放棄が絡むスキャンダルが、コンプライアンスをする企業でどう扱われるか、営業職の彼が理解できないはずがなかった。
「関係なくないわ。倫相は同じ会社の直属の輩。おまけに、ホテルの領収の部を経費精算に回していた形跡まで、あなたのPCデータから見つかったのよ」
『志保!! 頼む! 頼むからやめてくれ! 話しおう! 顔を見て話そう! 俺が悪かった! 謝るから! 座でも何でもするから!!』
「さようなら、拓」
私は通話を切り、着信拒否に設定した。
通話が切れた部に、再び静寂が戻る。
ベビーベッドので、悠真がお気に入りのガラガラを握りしめ、無邪気にクーと喉を鳴らしていた。
私はそのさな頬を指先で優しく撫でた。
「丈夫よ、悠真。ママが、全部終わらせるからね」
翌週、都内の等にある宮法律事務所の特別会議。
広告
なオーク材のテーブルを挟んで、つの陣営が対峙していた。
私の隣には、黒いパンツスーツにを包み、徹な性を漂わせる宮弁護士。
対面に座っているのは、やつれ果てて気を失った拓と、そのろに控える配の男性弁護士。そして、拓の隣で俯き、指先を刻みに震わせている女性――宮本綾乃だった。
綾乃は、祭りの夜に見せていた華やかな浴姿とは打って変わり、化粧気のないな紺のワンピースを着ていた。肩をすぼめ、私の線を頑なに避けている。
「それでは、当事者が揃いましたので、本協議を始いたします」
宮弁護士の凛とした声が会議に響いた。
「本件は、被請求・佐々拓および宮本綾乃による共同法為、すなわち期にわたる貞関係、ならびに本夜における請求・志保氏およびその乳児に対する保護責任の遺棄に起因する精神苦痛への損害賠償請求、および婚条件の確定に関する協議です」
宮弁護士は、元の分いファイルをバサリといた。
から取りされたのは、A4サイズにきくカラー印刷された写真の数々だった。
祭りの混みで腕を組む拓と綾乃。ホテルのロビーで抱きう。そして、客のベッドサイドに置かれた、々しい私物の数々。
広告
「いやあ、見事な証拠能力ですね」
宮弁護士が、ややかな笑みを浮かべながら相側の配弁護士を見つめた。
「Exifデータによる位置報、の完全な致。
さらに、過半にわたるメッセージアプリの全履歴。これらを見る限り、単なる過性の過ちではなく、婚姻関係の破綻を確に図した継続な貞為であることはです。裁判官に見せるまでもなく、争う余はありませんね?」
相側の弁護士は、額の汗をハンカチで拭いながら、苦しげに頷いた。
「……ええ。貞の事実関係については、争う図はございません。ただ、慰謝料の請求額についてですが……双方わせて百万円というのは、過の判例に照らしわせても、あまりに過ではないかと……」
「過?」
宮弁護士の声の温度が、気に氷点までがった。
「先、本件の特殊性をお忘れですか? 貞為の当、請求である妻は急性腎盂腎炎による度いで救急搬送され、ヶの乳児が同伴していました。
被請求・佐々拓は、その事実を医師および救急隊から直接告されていたにもかかわらず、である宮本綾乃との逢瀬を優先し、以にわたって放置しました」
宮弁護士は、枚の診断と、児童相談所の公証をテーブルの央に叩きつけた。
「結果として、乳児は脱症状の危に晒され、夜の児童相談所による緊急保護という、極めて異常かつな事態へと発展したのです。
広告
おすすめ作品
-
完結第19話
母の葬儀を拒んだ叔父と、消えた教育資金350万円
母を突然失った18歳のまほは、葬儀の方法すら分からず父方の本家へ助けを求める。しかし叔父・正尾は「最後まで自分たちだけでやれ」と突き放し、亡き母まで恩知らずだと罵った。 それから15年、まほは苦学の末にIT企業を立ち上げ、約300人を率いる社長へ成長する。そこへ会社が傾いた正尾が現れ、自分の息子・優と娘・沙耶を「親戚だから」と縁故採用するよう要求。だがまほは「親戚枠も縁故枠もない」と公平な選考を突きつける。 やがて従兄妹が本家の納戸から発見したのは、母が祖父母へ何年も仕送りを続けていた証拠と、父がまほの大学進学のために残した約350万円の信託預金だった。しかも、その金は叔父の会社口座へ流れていた。 15年間母を悪者にしてきた叔父の嘘が、ついに物証によって崩れ始める――。親子関係|金銭問題2.8万字5 270 -
完結第12話
離婚を知らずに生活費25万円を催促する夫
3年間無職の夫・浩司から毎月25万円を要求され続けてきた設計士の美保は、出張先のホテルで「振り込まなければ離婚する」と脅されながら、すでに役所で受け取った離婚届受理証明書を静かに見つめていた。 夫は愛人と豪遊し、義母まで共謀して、美保が亡き父から受け継いだ家の名義を書き換えようとしていた。美保は実印を密かに変更し、カードと生活費口座を停止。さらに3年間集めた不正利用、浮気、恐喝、名義変更計画の証拠を弁護士へ渡す。帰宅した彼女に夫は顧客資料を盾に300万円を要求するが、そのファイルは最初からダミーだった。 そして美保がテーブルへ置いた1枚の「離婚届受理証明書」を見た瞬間、自分たちが奪うはずだった家も金も、すでに手の届かないものになっていたと夫と義母は初めて知る――。夫婦|金銭問題1.8万字5 243 -
完結第14話
余命3か月と嘘をついた夫は、離婚後の3000億円を知らない
夫・翔太から「すい臓がん末期で余命3か月」と告げられ、突然離婚を求められたゆい。だが診断書は偽物で、翔太には2年以上関係を続ける愛人・リナがいた。 ゆいは騙されたふりをして離婚に応じる。なぜなら父が残した信託には、婚姻関係が解消された瞬間、3000億円の一族資産が彼女へ移る条件が設定されていたからだ。 さらに翔太には会社資金約5000万円の横領まで発覚する。 莫大な資産を手にしたゆいは、父の顧問弁護士ハルトと共に元夫とその一族へ反撃を開始。ところが調査の果てに、翔太がゆいへ近づいた本当の理由が、20年以上前から続く両家の復讐にあったことを知る。 金と裏切りだけでは終わらない、父世代から仕組まれていた巨大な秘密が姿を現していく――。夫婦|修羅場|不倫2.2万字5 177 -
完結第12話
八万八千円のスカーフと離婚届
ゴミ箱で見つかった高級スカーフ「八万八千円」のレシート。母の日に私へ渡されたのは、千五百円の安菓子だった――。 十四年前に幼子を捨てて逃げた元嫁が突然現れ、泥水をすすって育てた継子たちは一変。「血の繋がらない赤の他人」と罵られ、夫からは一方的に離婚届を突きつけられる。 家族四人でやり直すと私を追い出す夫たち。だが、元義父の四十九日法要に乗り込んだ私の手には、周到に集めた録音データと、二億八千万円の公正証書遺言があった。 そこには、裏切り者たちを戦慄させる「ある解除条件」が記されており――。 弁護士が冷徹に告げる。「全遺産を相続するのは、あなた方ではありません」夫婦1.7万字5 332 -
完結第24話
銀2両で売られた盲目の花嫁
不作の年、盲目の竜児は、弟の嫁取り資金を欲しがる継母によって、恐ろしいと噂される山の猟師・陸炎山へ半ば売られるように嫁がされる。 ところが待っていたのは暴力ではなく、彼女を娘のように迎える姑と、「安心して暮らせるまで絶対に触れない」と約束する不器用で優しい夫だった。 薬屋で働いた経験を持つ竜児は、失明していても薬草を見分ける知識を生かし、炎山の狩りと力を合わせて貧しい一家の暮らしを立て直していく。 やがて名医から「治療できる可能性がある」と告げられ、失っていた視力にも希望が差し始める。 しかし陸家が豊かになるほど、金を狙う継母や炎山の過去に関わる女まで現れ、竜児の新しい家族と幸せを脅かし始める――。嫁姑|親子関係3.5万字5 374 -
完結第11話
出世ゴルフの朝、沈黙した妻
「一生話しかけるな。口を開いたら即離婚だ」 そう怒鳴り散らし寝室に鍵をかけた夫。翌朝、出世が懸かった役員ゴルフの起床予定から2時間半が過ぎていた。真琴は夫の言いつけを忠実に守り、一切声を出さず「起きる時間だよー」とLINEを1通だけ送信する。 午前7時15分、泡を吹いてパニックで飛び出していく夫。だが、彼が置き忘れた鍵で書斎を開けた真琴は息を呑む。そこにあったのは、3400万円に及ぶ不正なリベート記録と、真琴の実印を悪用して設立されたペーパーカンパニーの書類だった。 夫の恐るべき企みを知った真琴は、冷たく微笑み受話器を取る。「もしもし、弁護士先生――」夫婦|真実1.7万字5 802 -
完結第27話
月5000円を貯めて泊まった旅館で、妻が「お嬢様」と呼ばれた
手取り23万円の配送ドライバー・かずやは、毎月5000円を5年間貯め、妻・彩佳と10歳の娘・ゆいを初めての家族旅行へ連れていく。ところが山奥の旅館へ着いた瞬間、出迎えた老紳士は彩佳に深々と頭を下げ、「お嬢様、お帰りなさいませ」と告げた。 実は彩佳は、創業150年を超える老舗旅館の一人娘だった。 かつて父の勧めで結婚した夫は旅館の信用と財産を利用しようとし、離婚して幼いゆいを連れ戻った彩佳に対しても、父は娘の苦しみより「旅館の評判」を優先した。 それ以来、実家を離れ質素に生きてきた彼女は、5年越しの旅行を機にようやく過去と向き合う決意をする。突然明かされた妻の素性に戸惑うかずやだったが、「俺が家族になりたかったのは彩佳とゆいだ」と伝える。 そしてこの旅は、長く閉ざされていた親子3代の関係を大きく動かしていく――。夫婦|第二の人生|修羅場4.1万字5 1229 -
完結第19話
娘を冷凍倉庫に閉じ込めた男は、父の正体を知らない
銀行支店長のキム・ドフンは、妻を亡くして以来、高校生の娘ミンジを男手1つで育ててきた。争いを避け、どんな屈辱にも耐える平凡な父親――それが娘の知る姿だった。 しかしミンジは、権力者チュ会長の娘・ヘリから長期間いじめを受け、ついに夜の学校へおびき出され、瀕死の重傷を負わされる。父が手がかりを追い詰めた瞬間、彼の体に刻まれた無数の銃創と傷跡が露わになる。実はドフンは、北朝鮮から亡命後、韓国情報機関で数々の極秘任務を成功させた伝説の特殊工作員だった。 娘を守るため封印していた力を解放した彼は、裏社会を1人で追跡。しかしミンジはまだ生きたまま連れ去られ、やがて氷点下30度の冷凍コンテナへ閉じ込められてしまう。 しかも父娘を追うのは犯罪組織だけではない。ドフンの生存を知った北朝鮮からも、兄の仇を討つ最強の工作員が送り込まれていた――。親子関係2.9万字5 125 -
完結第19話
10年間外に出ていない妹が妊娠、母は病院を拒んだ
10年間も寝たきりの妹・知恵の腹部が、ある日わずかに膨らんでいることに気づいた和美。妊娠検査薬はすべて陽性だったが、父親を尋ねても知恵は「彼が誰か知ったら家族が壊れる」と口を閉ざす。 妹の命を守ろうと中絶を決意した和美は、やがて自分自身の記憶にも不自然な空白があることに気づく。そして母を問い詰めた末、2年前、和美が権力者から襲われかけて抵抗し、刑務所へ追い込まれていた過去が判明。さらに、知恵は姉を救うため、自らその一族との取引を受け入れていたのだった。 和美が「自分が妹を守ってきた」と信じていた10年間。しかし本当に人生を犠牲にして姉を守り続けていたのは知恵の方だった。そして今、彼女のお腹に宿った子の父親こそ、封印されていた過去へ繋がる人物だった――。親子関係|修羅場|不倫2.9万字5 861 -
完結第14話
式1時間前の略奪と百八十万円
「ごめん。結婚やめる。私この人と一緒になるから」 挙式まであと1時間。控室で純白のドレスを着た婚約者の隣に立っていたのは、家具職人の俺・蒼介の元上司だった。 新居のために手渡した180万円を持ち逃げされ、住まいも仕事も奪われ絶望の淵に立たされた俺。だがその時、息を切らして控室へ飛び込んできたのは、婚約者の妹・こよりだった。 大量の不在着信を残していた彼女の手には、姉が3週間前に交わしていた「別の賃貸契約書」が握られていた。 激昂する姉の前で、こよりは俺の冷え切った手を強く握り締め、真っ直ぐに言い放つ。 「じゃあ私が先輩を幸せにしても文句ないよね」夫婦|真相2.1万字5 370