"港の消失船長" 第2話
はそう言ったという。族への産も買うつもりだと話していた。から見ても、は嫌がよく、の仕事を楽しみにしているようだった。
午630分ごろ、2はをた。と別れ、は自宅へ向かった。
帰宅したのは午7ごろだった。ゆき子の供述によれば、はに着くとシャワーを浴び、夕を取った。夕は豚汁だった。はテレビでニュースを見て、子供たちともく言葉を交わした。男には勉のことを話し、女のを撫でた。
午10ごろ、話が鳴った。
受話器を取ったのは、ゆき子だった。
「健さんからよ」
話の相は、ゆき子の弟、佐藤健だった。
は受話器を受け取り、1で別へ入った。ゆき子には通話の内容は聞こえなかった。通話は約10分続いた。
やがてがリビングに戻ってきた。表は特に変わっていなかったという。
「のけ方、航に健とし会ってくる」
はそう言った。
「埠の方で?」
ゆき子が尋ねると、はく頷いた。
「うん。しだけだ」
ゆき子はく疑わなかった。健はにとって義弟であり、港のコンテナ置きの管理会社で働いていた。仕事の都で朝に会うことがあっても、自然だとはわなかった。
午11ごろ、は眠りについた。
なくとも表向きは、穏やかな夜だった。
広告
翌朝、午340分にアラームが鳴った。は起きがり、顔を洗い、を着替えた。ゆき子も緒に起き、簡単な朝を用した。トーストと牛乳だった。
午410分ごろ、は玄関で靴を履いた。
ゆき子は見送りにた。
「気をつけてってきて」
は軽く頷き、をた。
それが、ゆき子が夫を見た最の瞬だった。
は自用を運転して横浜港へ向かった。自宅から港までは約10分。朝のは空いており、予定通りなら余裕を持って到着できるだった。
午427分、港の入の防犯カメラに、の黒いセダンが映った。はゆっくりと港内へ入り、7番埠の方向へんでいった。
しかし、そのが7番埠へ到着した記録はなかった。
港内は広い。はいくつにも分かれていた。埠へ向かうもあれば、倉庫や貨物置きへ続くもある。巨なコンテナが積まれたエリアもあり、界を遮る所はかった。当、防犯カメラは主点にしか設置されておらず、全ての通を記録していたわけではなかった。
のは、その角のどこかへ入ったようだった。
やがて午6を過ぎ、のが会社へ報告され、捜索が始まった。
のは、コンテナ置きのくで発見された。7番埠から約300mれた所だった。ドアは施錠されておらず、内は乱れていなかった。
広告
争った痕跡も、血痕もない。鍵はエンジンに差されたままだった。
捜査員は、内を丁寧に確認した。座席、元、トランク、ドアの取っ。採取された指紋のほとんどは自のものだった。の確な痕跡は見つからなかった。
は、自分のでをりたように見えた。
警察はまず、事故の能性を考えた。朝の港でを滑らせ、へ落ちたのかもしれない。岸壁や周辺の域が調べられ、保庁も捜索に加わった。潜士がを探した。だが、遺体も所持品も見つからなかった。
次に、族への事聴取がわれた。
ゆき子は、夫に経済な問題はなかったと話した。借もなく、収入も定していた。ギャンブルや酒の問題もない。女性関係についても、彼女はきっぱり否定した。
「夫はそんなではありません。結婚して15、疑ったことは度もありません」
敵はいなかったかと尋ねられても、ゆき子は首を横に振った。
「温なでした。誰かと争うようなではありません」
警察は、夜に話をかけてきた佐藤健も呼びした。
健は当35歳。ゆき子の弟で、にとっては義弟にあたる。彼は港のコンテナ置きの管理会社で働いていた。
健は取調でい表をしていた。
「義兄が失踪したなんて信じられません。いいだったのに」
捜査員が夜の話について尋ねると、健は「したことではなかった」と答えた。だが、詳しく聞くと、とけ方に会う約束をしていたことを認めた。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第14話
雑用係の逆襲――百億の商談と偽りの女社長
病気の母の療養のため帰国し、学歴を「中卒」と偽って中小IT企業「藤山システム開発」に入社した森本大河。しかし傲慢な女社長・藤山薫からは「引きこもりの変人オタク」と蔑まれ、社運を賭けた百億円の新システム開発から外され雑用掃除係に追いやられてしまう。 だが大河の真の姿は、ハーバード大学を早期卒業しMIT大学院を修了した、世界が畏怖する伝説のスーパーホワイトハッカー「ミスター・モリティー」だった。迎えた海外メガIT企業首脳陣との商談当日、手配されていた通訳3名が全員ドタキャンし絶体絶命の危機に陥る。 「失敗したらクビ」と責任を押し付ける女社長の前で、大河が手元のコントローラーを操作して口を開いた瞬間、会議室の空気が一変する。そして明かされる社長の巨額不正と、タブレット端末に隠された決定的な証拠の行方は――。職場逆転|裡の顔1.9万字5 232 -
完結第21話
妹のドレスを二十センチ切った
妹の結婚式を数時間後に控えた深夜二時、私はリビングで特注のウェディングドレスに裁ち鋏を入れた。事故で右足に傷が残る妹に対し、相手の家族は配慮という名目で足を隠す重いドレスを強要し、当日は動かず座り続けるよう言い含めていた。母の怒声が響き、私の頬に平手打ちが飛ぶ。泣き崩れる妹の足元には、前裾だけが二十センチ切り落とされた純白の布が散らばっていた。私は鋏を置き、「今日これを着て出なさい」とだけ告げた。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場3.1万字5 94 -
完結第24話
目覚めた部下にクビを問われた
地方旅館の火災で客を救い出し重傷を負った部下が目を覚ました。だが彼女の記憶は直近の二年分が抜け落ち、着任初日の私が冷酷に解雇を迫った日のまま止まっていた。会社は避難扉が開かなかった責任を彼女の記憶喪失に乗じて背負わせようと、退職金の支払いを口実に過失を認める書類への署名を病室で迫る。何も思い出せない部下は震える手でペンを握り、かつて自分を追い詰めたはずの私を怯えた目で見つめた。職場逆転|真実|裡の顔|修羅場3.7万字5 691 -
完結第21話
母を遠ざける姉の嘘
長野で一人暮らす母の介護を一手に担う姉から「母の体調が悪化するから来るな」と言われ、私は五年間帰省を控え、毎月五万円の仕送りを続けていた。だがある夜、母から五年ぶりに直接電話が入る。「まだ怒ってるの。あんたが私の顔も見たくないと言っていたと姉から聞いた」と母は怯えていた。直後に受話器を奪った姉は「母の被害妄想だ」と言い放つ。不審に思った私は姉に告げず始発の新幹線に乗り、五年ぶりに実家の引き戸を開けた。兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|介護3.2万字5 166 -
完結第20話
教室の最後列に座る元教員
定年退職した元教員の私は、一度も教えたことのない男子生徒の保護者会に、身元を偽って六年間通い続けていた。教室の最後列から見つめる先には、油まみれの作業着を着た父親が座っている。受付簿の不審な記録に気づいた校長から昇降口で問い詰められた帰り道、桜が散る坂道でその父親が私の前に立ちふさがった。二十四年前の元教え子だったその男は、振り返りもせず、私の背中に向けて「あの席、あと何年座るつもりですか」と低く告げ怒り|真実|親子関係|修羅場3.1万字5 122 -
完結第21話
優しい教室で震える息子
息子が突然学校に行けなくなり、担任は「いじめなどなくクラス全員に愛されている」と胸を張った。不審に思った私が息子のランドセルを調べると、底板の裏から三十七枚の給食費受領書が出てくる。我が家は困窮などしていないのに、三ヶ月間、生徒全員が日替わりで息子の昼食代を立て替えていた。私が学校へ確かめに行こうとした瞬間、息子は「言わないで」と叫んで床に泣き崩れ、その紙片を必死に胸へ抱え込んだ。怒り|裡の顔|親子関係|金銭問題3.2万字5 6057 -
完結第15話
五人の元彼と三万一千円
結婚式当日の朝、ホテルのフロントに差出人不明の現金書留が五通届いた。中身はすべて、三万一千四百八十円という奇妙な端数のご祝儀だった。面識のない私の歴代の元彼五人からだと気づき、私は血の気を引かせて金庫への保管を頼み込む。だが、不審に思った夫が私の手提げから抜き取ったのは、三週間前に私がその五人へ同額を送金した明細だった。親族紹介まであと十五分、夫は控え室の鍵を閉め、冷たい目で私を見下ろした。夫婦|裡の顔|金銭問題|修羅場2.2万字5 166 -
完結第23話
十八年ぶりの切符「次は三人で来い」
「二度と敷居を跨ぐな」――十八年前、父・源蔵の激しい怒声を背に村を飛び出した美雪。母の葬儀すら拒絶し、東京で夫の高一、息子の蒼太と平穏な家庭を築きながらも、心の奥に深い罪悪感を抱え続けていた。 ある秋の日、頑固一徹だった父が倒れたとの報せが届く。恐る恐る帰郷した美雪を迎えたのは、小さく老いさらばえた父の姿だった。互いに素直になれぬまま病室で交わしたわずかな言葉。だが、生家から持ち帰らされた重い桐箱と古いボストンバッグを開けた瞬間、美雪の息は止まる。 そこには、出金記録ゼロのまま膨れ上がった美雪名義の通帳と、十三年前の日付が記された「高一君へ」という父の手紙が眠っていた。父が十八年間隠し通してきた、想像を絶する真実とは――。真実|修羅場3.5万字5 1026