"月2万円の老後" 第3話
健のに来て1かが過ぎた頃、良子はもう限界にかった。
美佐の目つきはごとに鋭くなり、会話はくなっていた。良子が台所に入るだけで、美佐の肩がこわばるのが分かった。
ある朝、良子は健に言った。
「健、お母さんもし良くなってきたから、恵子のところにもってみようかとうの」
健は瞬戸惑った。けれどすぐに、ほっとしたような表を浮かべた。
「そうですか。恵子もぶでしょう。いつにしましょうか。私が送ります」
その言葉の端々に、くってほしいという本が透けて見えた。
翌、健は良子を次女の恵子のまでで送った。
内で健は申し訳なさそうに言った。
「お母さん、美佐がうまくお世話できなくてごめんなさい。狭くて便だったでしょう」
「いいえ、丈夫よ。あなたたちも忙しいし、子どもたちもいるんだから」
良子はそう答えたが、健は苦笑いした。
「でも、恵子のところは婚だから、もっと便かもしれません。だから……私たちが良い老ホームをいくつか調べておきました」
その瞬、良子の胸が張り裂けそうになった。
息子はもう、自分をどこかへ移す計画をてている。
「健、お母さんはまだ老ホームにく気はないわ」
「でも、お母さん1で暮らすのも危険ですし」
「いつ1で暮らすと言ったの。
広告
恵子のところにしばらくいて、もうし体が良くなったら、そのに考えるわ」
健はそれ以言えなかった。
恵子のに着くと、娘は笑顔で良子を迎えてくれた。
「お母さん、やっと来たね。部、準備してあるよ」
婚のは広くはなかった。けれど、さな部には清潔な布団といテーブルが置かれ、恵子がを込めて準備したことが伝わってきた。
最初の数は穏やかだった。
恵子は良子が便しないよう気を配り、夜には緒にテレビを見て話もした。
しかし、ここでも空気はしずつ変わった。
「お母さん、今は会社のみ会があるから、蔵庫のおかずを適当にべておいてね」
恵子の夫、純也も最初は礼儀正しかったが、が経つにつれて数が減っていった。やがて挨拶もの空になった。
ある夜、壁越しに恵子と純也の声が聞こえてきた。
「お母さん、いつまでにいさせるつもりなんだ」
「じゃあどうしろっていうの。私のお母さんが体を悪くしているのに」
「お兄さんのところにもいたでしょう。なんでうちだけに来るの」
「お兄ちゃんも変だって。老ホームを調べているって言ってた」
「老ホームの費用も馬鹿にならないんじゃないのか」
「お母さんのと、私たちがし補えばいいんじゃないかな」
良子は布団をまでかぶり、声を殺して泣いた。
広告
、子どもたちのために尽くしてきた。
自分のことを回しにしてきた。
そして自分が本当に助けを必とした、子どもたちは自分を荷だとっていた。
翌朝、恵子はいつもよりるく振るった。
「お母さん、膝はし良くなってきた?」
良子は静かに頷いた。
「ええ、しずつね」
恵子は迷うように線を落とした、言った。
「実は、お兄ちゃんが昨話してきたの。老ホームをいくつか調べてくれたって。良いところみたいで、お母さんのでも……」
良子は娘の言葉を遮った。
「恵子、お母さんはそんなところにはかないわ」
「そういうじゃなくて、お母さんの体が配で」
「お世話してくれとは頼んでいないわ。ただ、しの、を置く所が必だっただけよ」
恵子はを閉じた。けれど顔には、満と困惑がにじんでいた。
その夕方、良子は荷物をまとめ始めた。
「お母さん、何してるの?」
「帰るわ」
恵子は驚いてづいてきた。
「急にどうして?何かあったの?」
「言葉にしなくても、あなたたちの目つきやで全部見えているのよ。お母さんも、ので肩の狭いいをしてきるのに疲れてしまったの」
その夜、純也も帰宅し、3で話しった。
純也は慮がちに言った。
「お義母さん、老ホームは本当に良い施設ですよ。私の母も3いますが、満しています」
その言葉は、良子の胸に刺さった。
この夫婦にとって、両方の親をへ移すことは、現実な選択肢なのだろう。
良子は静かに答えた。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
二十人分の祝い膳を押しつけられたので、家を出ました
義母から「家族のお祝いだから」と押し付けられたのは、二十人分の料理作りと高額な費用負担。 夫も義妹も、私を一人の家族ではなく、都合よく使える存在として扱っていた。 五年間、我慢し続けた嫁・美咲は、ある決断をする。 それは、義妹の息子の一歳祝いの前日に、すべてを捨てて家を出ることだった。 しかし、静かに準備を進める中で、美咲は夫と義母が隠していた驚くべき事実を知る。 そこには、単なる身勝手な家族関係では終わらない、彼女を縛り続けるための計画が隠されていた。 そして迎えた祝いの日。 親戚二十人が待つ食卓に残されたのは、豪華な料理ではなく、誰も予想しなかった「空っぽの祝い膳」だった。 奪われ続けた人生を取り戻すため、美咲が選んだ静かな反撃とは――。嫁姑|親子関係|修羅場2.2万字5 284 -
完結第16話
血染めの写真と三文字のSOS
夕方のコンビニの床に落ちていた一枚の写真。微笑む少女の横には、まだ乾ききっていない赤黒い生血がべっとりと付着していた。 裏返した瞬間、息が止まる。震える筆跡の住所と、指先の血で擦り付けられた『SOS』の三文字。 妻に捨てられ、八歳の息子と写真館を営む私には分かった。この血は付着して数分も経っていない――今すぐ行かなければ手遅れになる。 警察に通報し駆けつけた古い民家の階段下には、右足を骨折し倒れ伏す母親と、自らの手のひらを切り裂いた六歳の少女がいた。 「……だれ?」 母を庇い、血まみれの手で私を睨み据える少女の瞳が訴えていた、あまりに残酷な真相とは。親子関係|金銭問題2.4万字5 200 -
完結第19話
深夜2時、隣家の物置で赤ん坊を抱く4歳児
心臓の不整脈で消防士を辞め、故郷の民宿「緑海荘」へ戻った27歳の相馬蒼太。 ある深夜2時、隣家から突然途切れた赤ん坊の泣き声に異変を感じて駆けつけると、物置のような暗い部屋で、全身に青あざを負った4歳のひなが、痩せた妹メイを必死に抱いていた。 「泣いたらまた叩かれるんですか?」――その一言に、蒼太は2人を必ず守ると決意する。民宿へ連れ帰り、常連客の旅行ライター・りんや両親と共に食事と温かな寝床を与え、児童相談所へ連絡。 しかし保護の朝、ひなは「お兄ちゃんと離れたくない」と蒼太の服を握りしめる。初めて見る海の前で、ようやく声を上げて泣いた少女を前に、蒼太とりんは“助ける”だけでは終われない未来を選び始める――。親子関係|修羅場2.8万字5 251 -
完結第23話
義母が突然、結婚指輪をくれた
夫が亡くなった日、義母は「もう家族じゃない」と私と娘を雨の中に追い出した。それから二年、一度の連絡もなかった義母が娘の小学校入学を控えた夕暮れ、四十年間外さなかった結婚指輪を私の指に無理やり嵌めて頭を下げた。翌日、親族が集まる祝いの席で和解を受け入れようとした私の前で、義母は冷たい笑みを浮かべ、夫が生前に娘の氏の変更書類を用意していたのではないかと問い詰めてきた。私の手の中で箸が止まった。裡切られた|祖父母と孫|嫁姑|親子関係|修羅場3.5万字5 127 -
完結第20話
長女にだけ渡された鍵
父の四十九日。「お前が一番しっかりしている」と病床の父から金庫の鍵を託された長女の私は、弟と妹の前で鉄の扉を開けた。だが中にあった私の通帳は残高一万円で、二百八十万円あった預金は弟の名義で全額引き出されていた。問い詰める私に弟は「親父に頼まれた」と父の直筆の手紙を突きつけ、妹も父と交わした別の密約を叫び始める。そこへ男が現れ、父が実家を担保に借りた五百万円の借用書を突きつけてきた。裡切られた|兄弟姉妹|相続|金銭問題|修羅場3.0万字5 92 -
完結第21話
母がナイフで砕いた自分の名前
母の七十歳の祝いで、私は家族に尽くし続けた母に自分の人生を取り戻してほしい一心から、ケーキのプレートに書かれた夫の姓を削り落とし、母の旧姓を書き直した。これで母は喜んでくれるはずだった。しかし母は青ざめ、「誰が戻りたいなんて言ったの」と私を睨みつけると、ナイフを掴んで自分の名前を何度も突き刺し粉々に叩き割った。家族全員から責め立てられた私は、母の部屋で底面を無残に削り取られた大量の人形を見つける。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係|修羅場3.1万字5 137 -
完結第19話
棺の中の男を、夫は知らない
親を捨てて逃げた冷酷な男だと親族中から罵倒される義兄の葬儀で、義母は涙を流し、夫を支えの孝行息子だと称えていた。だが焼香台へ進む夫の前に立ちはだかった私は、「あなた、本当に棺の中にいるその人を知っているの」と告げた。夫が隠していたのは、過去五年間、毎月義兄へ送り続け、そのたびに全額突き返されていた六十回分の送金記録だった。血の気を引かせる夫と親戚の前で、私はその明細を祭壇の上に広げた。兄弟姉妹|親不孝|絶縁|親子関係|修羅場2.8万字5 88 -
完結第21話
妹のドレスを二十センチ切った
妹の結婚式を数時間後に控えた深夜二時、私はリビングで特注のウェディングドレスに裁ち鋏を入れた。事故で右足に傷が残る妹に対し、相手の家族は配慮という名目で足を隠す重いドレスを強要し、当日は動かず座り続けるよう言い含めていた。母の怒声が響き、私の頬に平手打ちが飛ぶ。泣き崩れる妹の足元には、前裾だけが二十センチ切り落とされた純白の布が散らばっていた。私は鋏を置き、「今日これを着て出なさい」とだけ告げた。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場3.1万字5 94 -
完結第25話
祖父が私に遺した最後の拒否権
亡くなった祖父の果園を三千二百万円で売却するため、東京で働く私は十年ぶりに実家へ呼び戻された。生活苦に喘ぐ父と妹の結婚資金のため、名義を持つ父は契約を急いでいたが、司法書士が出したのは「長孫である私の書面同意がなければ売却は無効」という祖父の遺言だった。早く終わらせようとペンを握った私は、ふと買い手企業がここを何にするつもりなのか尋ねた。山を削り大型トラックの夜間中継所にすると聞かされた瞬間、私は手元のペンを静かに机へと置いた。祖父母と孫|相続|親子関係|金銭問題3.7万字5 111