"42人が消えた渚" 第2話
さち子はたまらなくなり、分いアルバムを胸元でく抱きしめた。先ほど響いた廊の軋み音は、本当にただのの悪戯だったのだろうか。それとも、どこにも帰ることのできない息子が、母に宛てた声なき叫びだったのだろうか。
「気のせいよ、落ち着きなさい、さち子」
彼女は何度も首を振り、自分を落ち着かせようとした。ここは古い造のだ。いが吹けば、どこかしらの板や柱が軋むのは当たりのことなのだ。それでも、度胸の奥で爆ぜたさな疑いの炎は、消えるどころか、じりじりと周囲の肉を焦がしていくかのように、さち子のを蝕んでいった。膝のにあるアルバムが急にずしりとくなり、まるで消えた42分すべての命のさが、そのまま自分の両腕にのしかかってきているかのようにじられた。
さち子は、胸元にアルバムを抱えたまま、より陽のが差し込むるい縁側へとゆっくり移した。午の柔らかなのが、静かな畳のに細いを落としている。
彼女は縁側に腰をろすと、もう1度、膝ので例の集写真のページをいた。遮るもののない太陽ののでしっかりと観察すれば、先ほどじた得体のれない違の正体がはっきりと分かるかもしれないとったからだ。
1枚の平らなのに然と並んだ、42の若い笑顔。
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27経った今でも、何度見ても胸が締めつけられる景だった。勇気のしはにかんだような困った笑顔。そのすぐ隣で、い歯を見せて活に笑う野球部の。れた窓際で、控えめに微笑む物静かそうな女。この子たち11に確かに名があり、する族がいて、それぞれに輝かしいがあったはずなのだ。そのすべてが、あの、あの宿所で、何の触れもなく唐突に途絶えてしまった。その途方もない現実の残酷さに、改めて眩暈がしてになるのを、さち子は奥歯を噛み締めて堪えた。
さち子は度ちがり、居の机の引きしから、夫が遺した古い虫メガネを取りしてきた。指先でレンズの縁に溜まった埃をそっと拭うと、それを集写真のにかざした。勇気の顔を、もう1度だけきく、その瞳の奥まで見つめたかったのだ。
レンズ越しにきく拡された勇気の瞳は、まるで静かに何かを訴えかけているかのようにく見えた。さち子はおしそうにレンズを見つめ、それから線をゆっくりと、勇気のすぐ隣に写っている徒へと移した。その瞬、さち子は「あっ……」とさく息を漏らし、きを止めた。
勇気のすぐ隣に写っている、お坊坊のの顔写真。そのの目のすぐの皮膚の部分に、ごくさな黒い点が、まるでインクを滴落としたかのように黒々と滲んでいたのだ。
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最初は、経劣化による印刷の汚れか、虫の糞の跡か何かだろうとった。しかし、虫メガネをさらにづけて観察すると、それは印刷ミスのような均な械な汚れでは決してなかった。まるで写真のの内側から、じわりと何かが染みしてきて、の繊維に沿って規則に広がっていったかのような、おどろおどろしいな形をしていたのだ。
穏な胸騒ぎが急激にきくなる。さち子は震えるで虫メガネを握り直し、隣の徒、そのまた隣の徒へと、1また1、徒たちの顔を恐る恐る確認していった。
ほとんどの徒の顔写真には、何の変哲もない、変化も見られない。だが、列の端にいた別の、そしてろの方でさく写っている女の顔。全部で5。その5の顔写真の肌にだけ、まったく同じような、じわりと滲む気な黒いシミが、まるで痣のように、あるいは何かの印のように確に付着していたのだ。
さち子は虫メガネを写真にぐっとづけた。その瞬、古いの匂いとはらかに違う、何かが焦げたような、あるいは古いインクのような、ツんとをつくかすかな異臭が漂ってきた。それは、い、たい暗の底に封じ込められていた秘密の匂いのようでもあった。
彼女は指先を伸ばし、その黒いシミのを恐る恐るなぞってみた。
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