"大晦日の離婚届" 第2話
だしなみをえていると、すぐろの洗面台の鏡越しに、みさきの声が聞こえた。
「ねえ、今は私も遅くなるから」 「パートか?」 「うん。で、ちょっと残業になりそう」
みさきは半から、元のさな産「アァ産」で事務のパートを始めていた。週3、午10から午1までのい作業だ。ショ太もきくなり、がかからなくなったため、にて働きたいという彼女を、俺は「分かった、気をつけて」と全面に応援していた。
「遅くなったらごめんね。先に寝てて」
軽い調でそう言い残し、みさきは洗面所をていった。だが、その瞬の彼女の表を鏡越しに見た俺は、胸の奥がザワつくのをじた。瞬だけ、彼女の瞳に罪悪のような、奇妙ながった気がしたのだ。
いや、ただのい込みだ。そう自分に言い聞かせながら、俺は洗面台の横の棚に線を落とした。そこには、やはり朝のりの原因となった瓶が置かれていた。黒とゴールドのエレガントなデザイン。ラベルを見ると、の級ブランドの品だった。
みさきのパート代はに5万円程度だ。活費や彼女の美容代はすべて俺の座からしている。みさき自に、こんな級なを軽に買うような余裕があるはずがなかった。へそくりだろうか。だが、説のつかないモヤモヤとした違が、俺の胸にたく澱のように残った。
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玄関をると、6の爽やかなが頬を撫てた。梅入りの貴なれだ。俺はに乗り込み、エンジンをかけた。
事務所まではで20分。いつもの通勤のをりながら、俺ののは朝のみさきの表と、あの級の瓶のことで占められていた。、残業、そして瞬の目の泳ぎ。すべては些細なことかもしれない。
しかし、公認会計士という職業柄、俺は数字の裏に隠されたさな矛盾から企業の正を暴くことを業としてきた。財務諸表のわずかな歪みを見逃さない俺のプロとしての直が、「何かがおかしい」と執拗に囁きかけていたのだ。
事務所に着くと、スタッフの田がすでにデスクでパソコンを叩いていた。
「おはようございます、所」 「おはよう。いな、田」 「今は午に監査があるので、準備を」
田は俺より10歳若い優秀な会計士で、真面目で几帳面な、俺の信頼できる腕だった。
俺は自分のデスクに座り、パソコンをちげた。メールをチェックし、午は顧問先の企業での監査、午は類作業、夕方には別の打ちわせといういつもの予定を確認する。だが、仕事の資料を目で追っているも、朝の違がかられなかった。あのしいブランドの級、体誰が買ったんだ?
昼休み、俺はコンビニで買った弁当をデスクに広げ、1で静かにべた。
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スマートフォンをくと、みさきからいメッセージが届いていた。
『今は本当に遅くなりそう。夕飯は適当に済ませてね』
い文章、絵文字も何もない。いつものみさきなら、もうし気遣いに満ちた文面を送ってくるはずだった。俺は『解。気をつけて』とだけ返信し、送信ボタンを押した。
画面を見つめながら、俺ののに再び計算がる。みさきのパート先は午1までのはずだ。それなのに夜まで遅くなるような残業が、たかが週3の事務パートにあるのだろうか。審のが濃くなっていく。
午の仕事を終え、夕方の打ちわせも無事に終した。計を見ると午7。俺はをらせ、帰宅途のスーパーで1分の惣菜を買った。
自宅に帰ると、のはを打ったように静まり返っていた。ショ太も模試の解説や勉で引いているのだろう。俺は静かな卓で1、買ってきた惣菜をに運んだ。テレビをつけて経済ニュースや政治の話題を流すが、内容は全くに入ってこない。
計の針は午8、9とみ、午10を回った頃、ようやく玄関のドアがく音がした。
「ただいま……」 「お帰り。遅かったな」
リビングに入ってきたみさきを、俺はソファからちがって迎えた。彼女の顔を見ると、いつもより化粧がし崩れていた。疲れた表の隙に、どこか満たされたような、満げな空気が漂っている。
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