"消された両親の席" 第4話
「それに比べて郎側は……」
麗華さんも、得げな顔をしました。
「父は会社をつも経営しているんです。この程度、まったく問題ありませんの」
お母様も誇らしげに頷きました。
「本のゲストも、皆様それなりの方ばかりですのよ。企業の社様、医師、弁護士……」
健太郎も、し胸を張っていました。
その姿を見て、私はく息を吸いました。
おの価値。
の価値。
息子は、そのつを完全に取り違えてしまったようでした。
私たちは、どれだけ切なことを伝えようとしてきたのでしょう。
でも、その全ては届いていなかったのです。
私は静かに答えました。
「なるほど」
そして、穏やかに微笑みました。
夫も同じように微笑んでいました。
「では、警備を呼ぶに、どうぞ」
麗華さんのお父様が、での方を示しました。
その仕は、まるでなものを片づけるようでした。
健太郎も麗華さんも、そして麗華さんのご両親も、私たちを見した目で見ていました。
その瞬、私ははっきりと確信しました。
息子は、切なことを忘れてしまったのだ、と。
を見た目や肩きで判断してはいけない。
おや位だけでの価値を決めてはいけない。
私たちが懸命伝えてきたはずのことを、息子はすべて忘れてしまったのです。
周囲のゲストたちのざわめきは、さらにきくなっていました。
広告
「あれが郎のご両親?」「お気の毒に」「でも、このにいるのは確かに……」
ひそひそと交わされる言葉がに届きます。
そのつひとつが、鋭い針のように胸へ触れていきました。
けれど、私は涙をこぼしませんでした。
夫の貴を見ると、彼も私を見つめ返しました。
連れ添った夫婦には、言葉にしなくても分かることがあります。
こので鳴っても、息子には届かない。
ここで泣き崩れても、何も変わらない。
本当に切なことを学ばせるには、それにふさわしい方法が必なのです。
「あなた」
私が静かに呼びかけると、夫はさく頷きました。
「こう」
その言だけで分でした。
私たちは、ゆっくりとへ向かって歩き始めました。
背に、健太郎たちが堵した気配をじました。
麗華さんのお母様が、ほっとしたように息を吐いたのも分かりました。
きっと、厄介ながってくれてしたのでしょう。
けれど、私たち夫婦の表は、まだ穏やかなままでした。
むしろ、静かに微笑んでいました。
これから何が起こるのか、ともっているかのように。
ロビーにると、先ほどまでとは違う静けさがありました。
理のは美しく磨かれ、井のシャンデリアはやわらかなを落としていました。ロビーの窓からは、入れのき届いた庭園が見えます。
広告
本当に美しい式でした。
この所で、息子のを祝いたかった。
ただ、それだけだったのです。
「あなた」
私はもう度、夫に声をかけました。
「そうだな」
貴は静かに答え、スーツの内ポケットからスマートフォンを取りしました。
夫は画面を見つめ、ある番号に話をかけました。
「もしもし、私だ」
声はいつもと変わらず穏やかでした。
「ああ、例の件だ。今からう。頼む」
い会話でした。
けれど、その言葉には確かなみがありました。
話を切った夫は、私を見て静かに微笑みました。
今度は私の番でした。
私はバッグからスマートフォンを取りし、別の番号に話をかけました。
「田さん、私です。です」
受話器の向こうから、驚いたような声が聞こえてきました。
「ええ、今こちらにおります。はい、ではお願いします」
私は落ち着いた調でそう伝え、話を切りました。
夫と顔を見わせると、とも静かに微笑んでいました。
「これでよかったんですよね」
私が尋ねると、夫は静かに頷きました。
「あの子には、切なことを学んでもらう必がある」
私はく息を吸い、ゆっくりと頷きました。
ロビーのソファに腰をろすと、窓のの庭園にはの差しがり注いでいました。
式ので何が起ころうとしているのかを、私たちはっていました。
けれど、は議なくらい静かでした。
「お茶でもむか」
夫が優しく声をかけてくれました。
「ええ。いただきましょう」
広告
おすすめ作品
-
完結第19話
棺の中の男を、夫は知らない
親を捨てて逃げた冷酷な男だと親族中から罵倒される義兄の葬儀で、義母は涙を流し、夫を支えの孝行息子だと称えていた。だが焼香台へ進む夫の前に立ちはだかった私は、「あなた、本当に棺の中にいるその人を知っているの」と告げた。夫が隠していたのは、過去五年間、毎月義兄へ送り続け、そのたびに全額突き返されていた六十回分の送金記録だった。血の気を引かせる夫と親戚の前で、私はその明細を祭壇の上に広げた。兄弟姉妹|親不孝|絶縁|親子関係|修羅場2.8万字5 88 -
完結第23話
母の職場で死んでいた私
母の定年退職をサプライズで祝うため、私は東京から新幹線に乗り宴会場へ駆けつけた。お祝いの品を手にして扉を開けた瞬間、母の同僚は手にしたグラスを取り落とし、顔を青ざめて後ずさりした。毎年盆と正月には実家へ顔を出し、仕送りも続けていたはずの私は、母が二十八年勤めた職場では十五年前に事故で亡くなった娘として扱われていた。ステージを駆け下りてきた母は私の手首を強く掴み、そのまま非常階段へと力任せに引きずり出した。親不孝|親子関係|退職金|修羅場3.5万字5 781 -
完結第21話
解雇された職人が未明に餡を練る
創業五十周年を控えた和菓子屋で働く私は、常連客の前で二十五年尽くした職人が店主に突然解雇される場に居合わせた。跡を継ぐため会社を辞めて戻った一人息子がいるものの、看板である漉し餡の技術はまだ誰にも継がれていない。店が立ち行かなくなると焦った私が翌朝四時に店へ駆け込むと、暗い厨房で追い出されたはずの職人が大鍋を振っていた。仕上がった餡を前に、朝一番に出勤した店主は無言で味見の木さじを口へ運んだ。裡切られた|親不孝|親子関係|修羅場3.2万字5 172 -
完結第19話
席次表から消された姉
披露宴の席次表を確認していた時、婚約者は親族席にある私の姉の名前を赤ペンで乱暴に塗りつぶした。介護士の姉を親戚に見せるのは家の格に関わると吐き捨てる彼に、私は必死で抗議した。だが、両親のいない私を育ててくれた姉は、侮辱されても取り乱すことすらしなかった。ただ、赤線の引かれた名前を静かに見つめ、「彼のお父さんが去年入院した時、毎晩誰が付き添っていたか聞いてごらん」と私に告げた。裡切られた|兄弟姉妹|親不孝|介護|修羅場2.9万字5 428