"自由を返した春" 第6話
母さんの施設からも連絡が来ている。おがやっていたことがったよりかった。どうしたらいいのかわからない』
紀子は画面を最まで読んだ。
すぐには返信しなかった。
スマホをテーブルに伏せる。
プリンの容器を洗い、布巾で拭く。
返す言葉はいくつか浮かんだ。
でも、今でなくていい。
そうった。
自分のペースでく。
それだけだった。
窓のは暗くなっていた。
紀子は子に座り、空になったテーブルを見た。
誰かに振り回されない夜が、静かに始まっていた。
に入った頃、夫から話がかかった。
紀子は回目の着信でようやくた。
「もしもし」
話の向こうの夫の声は、しかすれていた。
「紀子か」
「何ですか」
「施設のことで類が来てる。どうしたらいいかわからない。し教えてくれないか」
紀子は黙った。
以なら、すぐに予定を確認し、必な類を揃え、話をかけ、施設に連絡していた。
けれど今は違う。
「担当の方に聞けば分かります」
「聞いたんだ。でも言葉が難しくて」
「何度も連絡しましたか」
「した」
夫の声はかった。
かつて紀子に婚を告げた夜の、妙な自信はもうなかった。
「今週の曜、図館の帰りならしが取れます」
「わかった。ありがとう」
話が切れた。
曜、待ちわせた喫茶に夫は先に来ていた。
髪が増えたように見えた。
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コートには皺があり、髭もし伸びていた。
テーブルのには封筒が置かれている。
「来てくれてよかった」
紀子は向かいに座り、封筒をに取った。
施設からの類だった。
族連絡先の変更続き。
面談程の確認。
した内容ではなかった。
「ここに記入して返送すれば済みます」
「そうか。助かった」
夫はコーヒーカップを両で持った。
指先がし震えている。
紀子はそのを見た。
、そののために事を作り、を洗い、薬を用してきた。
でも今、そのはもう紀子を命令するではなかった。
「事はどうしてるんですか」
「コンビニがい。たまにする」
「そうですか」
「体が落ちた」
紀子は類を封筒に戻した。
「部の掃除もできてない」
夫は線を落とした。
「紀子」
紀子は夫を見た。
「俺は……自由になりたかったんだ」
「ええ」
「でも、っていたのと違った」
紀子はしだけ息を吸った。
「自由には、活がついてきますから」
その言葉に、夫は何も返せなかった。
紀子は静かに続けた。
「俺は自由になりたい、とおっしゃったのはあなたでしたよね」
責める調ではなかった。
ただ、事実を置いただけだった。
夫はを閉じた。
「類、忘れずにしてください」
紀子はちがり、財布をした。
夫が慌てて言った。
「いい。俺が払う」
「自分の分は自分で払います」
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紀子はコインを置き、コートをに取った。
をると、がたかった。
それでも紀子はを止めなかった。
夫のろ姿を振り返ることもなかった。
自由とは、誰かを置いていくことではない。
自分で自分の活を引き受けることなのだ。
紀子はそのことを、ようやく理解し始めていた。
になると、図館に子どもたちが増えた。
休みがづき、絵本コーナーには親子連れがくなった。
紀子はカウンターにち、返却された本を冊ずつ棚へ戻していく。
いつもと同じ仕事だった。
けれど、何かが違った。
急いでいなかった。
以は閉館がづくと、夕飯の献を考え始めた。
蔵庫には何があったか。
夫は魚がいいと言うか、肉がいいと言うか。
母の施設への連絡は済んだか。
洗濯物は取り込んだか。
そんなことばかり考えながら帰りを歩いていた。
今は違う。
帰ったら、自分の好きなものをべればいい。
疲れていれば、お茶だけでもいい。
それを誰にも責められない。
田さんが隣に来た。
「紀子さん、最顔がいいですね」
「そうですか」
「なんか、すっきりされたじ」
紀子はし考えてから答えた。
「そうかもしれないです」
そういえば、と田さんが声を落とした。
「先、駅でのご主らしき方を見かけて。ずいぶんお痩せになったなとって」
紀子は本を棚に戻した。
「お弁当さんので、しばらくってらして」
「そうですか」
それ以、何もかなかった。
が痛まないわけではない。
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