"次の駅で降りなさい" 第5話
実へ戻った。
美は何事もなかったように夕飯を作っていた。
炊き込みご飯のりが漂う。
兄はテレビを見ている。
母は笑っていた。
穏やかな景だった。
でも私はっている。
この平ので何がんでいるのかを。
夕の席。
私は湯呑みを置いた。
全員の線が集まる。
「お母さん」
母が顔をげた。
「通帳の残、確認したことある?」
空気が止まった。
美だけが笑顔を崩さない。
「丈夫よ」
母は言った。
「美ちゃんに任せてるから」
私は静かに続けた。
「定期預、減ってるよ」
兄が箸を置いた。
ガチン、と音が響く。
美がゆっくりをく。
「固定資産税です」
完璧な説だった。
「私がて替えていたので」
だが私はもう騙されなかった。
「じゃあ、このを担保にしているのは?」
母の顔が凍った。
兄がちがる。
「何言ってるんだ!」
私は兄を見た。
「で聞いてきた」
沈黙。
美の笑顔が初めて消えた。
その夜。
私は誠と向きった。
座敷の机のに契約を並べる。
誠は青ざめた。
「これ、あなたの署名よね」
誠は頷いた。
「そうだ」
「どうして黙ってたの?」
誠は目を伏せた。
い沈黙。
やがてさく言った。
「面倒だった」
私はを疑った。
「何?」
「美さんが全部やるって言ったから」
誠の声は震えていた。
「波てたくなかった」
私は目を閉じた。
りではなかった。
しみでもない。
もっとたい。
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失望だった。
誠は弁護士だった。
契約の危険性も理解していた。
それでも確認しなかった。
いや。
確認したくなかった。
楽だったから。
その瞬、私は気づいた。
兄も。
母も。
誠も。
全員が美に依していたのだ。
そして美もまた、その状況を利用していた。
誰も悪ではない。
だが全員が責任から逃げていた。
翌。
。
午。
運命のが来た。
応接には全員が揃っていた。
母。
兄。
美。
誠。
そして私。
司法士のが類を広げる。
「こちらに署名をお願いします」
母のにボールペンが置かれた。
ケースもある。
母がペンを持ちげる。
その瞬。
チャイムが鳴った。
全員が顔をげる。
玄関の扉がく。
そして現れた。
。
幹線で私の腕を掴んだ老婦だった。
部の空気が変わる。
美の顔が変わった。
は静かに席へ座る。
そして登記簿を机に置いた。
「私はこのの共名義です」
誰も声をせなかった。
「私は売却にも融資にも同していません」
司法士の顔が変わる。
類を確認する。
共名義の欄。
そこにの名はない。
私の名もない。
が美を見る。
「同はありますか」
沈黙。
美は答えられなかった。
「ありません」
初めてだった。
美が言葉を失ったのは。
は類を閉じた。
「本の続きは止です」
その言で全てが終わった。
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誰も話さなかった。
い沈黙。
最初にをいたのは美だった。
「私が支えてきたんです」
声が震えていた。
「」
涙が流れる。
「誰も助けてくれなかった」
それは嘘ではなかった。
通院。
役所。
固定資産税。
庭の入れ。
全部本当だった。
美はこのを支えてきた。
だが。
母は静かにちがった。
「ありがとう」
母は言った。
「本当に謝してる」
美が泣いた。
だが母は続けた。
「でも」
部が静まり返る。
「売ることまで任せた覚えはない」
その言葉で全てが決まった。
母はケースをに取る。
そして言った。
「もう誰にも預けません」
静かな声だった。
でも誰も逆らえなかった。
父の遺が見ていた。
母は初めて自分で決めたのだ。
。
融資は正式に保留となった。
仮登記も取りげられた。
は守られた。
美はをた。
兄は何も言わなかった。
誠は謝罪した。
「怖かった」
そう言った。
面倒なことから逃げたかった。
そのさを認めた。
私は許したわけではない。
だが、しだけ理解した。
は悪だけで違うわけではない。
楽をしたい。
任せたい。
見ないふりをしたい。
そんなさで取り返しのつかないことになる。
母は変わった。
通帳を自分で管理するようになった。
役所へもでく。
固定資産税も確認する。
ケースは引きしの奥ではなく、自分の元に置いている。
父の墓参りの帰り。
母が言った。
「お父さん、よく言ってたのよ」
私は振り返った。
母は笑った。
「に流されて売るもんじゃないって」
が吹いた。
私はようやくそのを理解した。
それはの話だけではない。
も同じだ。
誰かに任せて。
誰かを信じて。
自分で見ない。
自分で決めない。
それが番危ない。
幹線の窓に映る自分の顔を見る。
週とは違う顔だった。
私は静かに目を閉じた。
もう逃げない。
もう任せない。
自分で見て。
自分で確かめて。
自分で決める。
父の言葉が胸に響く。
――に流されて売るもんじゃない。
そして私はを向いた。
度と誰にも、この族を利用させないために。
【完】
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