"十年介護を捨てた日" 第3話
私は器を洗うを止めた。
「無料で介護してくれて」
の音だけが流しに響いた。
私はゆっくり振り返った。
「無料?」
「ああ」
勝は笑ったまま言った。
「無料の介護士で、政婦だ」
その瞬、胸の奥がすっとえた。
りでくなるのではなく、逆に氷のように静かになっていく。
私はそので何も言わなかった。
でものどこかで、確かに何かが壊れ始めていた。
「理由を聞かせてもらえる?」
婚を告げられた夜、私は勝の目を見てそう尋ねた。
リビングには、義母の部から聞こえるさな寝息と、壁計の音だけがあった。
勝は瞬だけ線をそらした。
その仕に、私は嫌な予を覚えた。
ただ介護に疲れたという話ではない。
もっと別の何かがある。
そう直した。
勝はしばらく黙っていたが、やがてき直ったように顔をげた。
「実はな、しい女性ができた」
私はを疑った。
言葉のが、すぐには理解できなかった。
「……しい女性?」
自分の声が震えているのが分かった。
勝はし顎をげた。
まるで勝ち誇っているようだった。
「ああ。会社の派遣社員だ。由美子という名で、38歳」
38歳。
私はその数字をので繰り返した。
勝は70歳。
30歳以もの女性。
現実がなかった。
けれど勝の表は、冗談を言っているものではなかった。
「いつから?」
私が尋ねると、勝はためらいもなく答えた。
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「2からだ」
2。
私はすぐにその頃をいした。
腰を痛め、痛み止めをみながら介護していた期だった。
夜に義母の体位交換をして、朝方にようやく眠り、また5に起きる。
その繰り返しで、も体も限界だった頃。
勝の帰宅が遅くなるが増えたのも、その頃だった。
「仕事で遅くなる」
「み会がある」
「付きいだから仕方ない」
私はそれを信じていた。
いや、信じるしかなかった。
勝はく笑った。
「おはらなかっただろうが、俺は毎週曜と曜、由美子と会っていた」
曜と曜。
私はわず息を止めた。
そのは訪問護師に義母を任せて、買い物や通院続きを済ませるだった。
私がわずかにへられる。
勝はその隙を使っていたのだ。
「ホテルで過ごして、級レストランで事して。楽しかったよ」
勝はまるで自分の武勇伝のように言った。
私のが膝ので震え始めた。
「おはどうしたの?」
「俺のだ」
勝は即答した。
「50万円の収入から、おには5万円しか渡してなかったからな。残りは自由に使えた」
私は目のが暗くなるのをじた。
私が介護費用で退職を切り崩している、勝は若い女性との事やホテル代におを使っていた。
義母の介護を私に押し付け、活費も分に入れず、自分だけはで楽しんでいた。
それだけでも分に残酷だった。
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だが勝は、さらに言葉を続けた。
「それだけじゃない」
彼は元を歪めた。
「由美子、妊娠したんだ。3かになる」
私はしばらく息ができなかった。
妊娠。
3か。
70歳の夫が、38歳の女性を妊娠させた。
その事実があまりにも異様で、屈辱で、理解が追いつかなかった。
勝は私の反応を見るように、得げな顔をしていた。
「だから婚が必なんだ」
「……お母さんの介護は?」
私はやっとのいで尋ねた。
勝は面倒そうに肩をすくめた。
「ああ、それなら施設に入れる」
「施設?」
「もう限界だろう。あの婆さんも」
私はわず勝を見つめた。
あの婆さん。
実の母親を、そんなふうに呼んだ。
この10、私はそのの体を拭き、事をべさせ、おむつを替え、夜も起き続けてきた。
その実の息子が、あの婆さんと言った。
「でも施設の費用は、おの貯がまだあるだろう? それを使えばいい」
私は言葉を失った。
「私の貯は、私の老のための……」
「婚するんだから関係ないだろう」
勝は吐き捨てるように言った。
「慰謝料代わりに母の施設費用を払え。10もまわせてやったんだから、それくらい当然だ」
「まわせてやった?」
私はわず聞き返した。
このを建てる、500万円をしたのは私だった。
助産師として働き、しずつ貯めたおだった。
勝はで笑った。
「名義は俺だ」
「あなた、正気なの?」
「正気だよ」
勝はちがり、私を見ろした。
「おは本当に便利な女だった。文句も言わずに母のの世話までしてくれて」
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