"水亀の下に消えた嫁" 第1話
2006、京都杉並警察署の犯係のオフィスに、通のが届いた。差欄は空欄で、インクは滲んで読みにくかった。封筒をに取った展示警部補は、ゆっくりと封を切る。からてきた便箋には、きで文字ずつ丁寧にかれた文章がだけ残されていた。
「19934、杉並区佐賀の瓦根のの庭。古い亀のを掘ってみてください。」
署名も連絡先もない。最初、警部補はいたずらだとった。しかし、指定された所をシステムで確認すると、背筋が寒くなる。そこは13に取り壊され、現はアパートが建っている所だった。そして、その所にんでいた30代半の女性が、当失踪届をしていた記録が残っていたのである。
捜査結果の類には、ただ文字だけが記されていた。「での疑い」。科学捜査研究所による鑑定の結果、亀のから発掘された遺骨には、部に陥没骨折の痕跡が残り、妊娠期の胎児の痕跡も緒に確認されていた。つまり、彼女はなどしていなかった。
1993の、杉並区佐賀には古い瓦根の軒があり、塀のには古い亀や鉢植えが並んでいた。庭の片隅には本の柿のがつ。所の々はそのを「斉藤さんの」と呼んでいた。主は斉藤ふみさん、58歳。夫は5にくなり、以でを守り続けていた。
広告
隣民はふみさんを働き者で気の良い女性として認識していた。毎朝夜けと共に庭を掃き、お寄りの誕には必ず版を炊き、祝いを配る。誰もが彼女を尊敬していた。しかし、1992の、そのにしい族が入ってきた。ふみさんの息子、斉藤隆博さんとその妻、さゆりさんである。
さゆりさんは当29歳、京学文学部卒業の学歴女性だった。卒業版社に勤めていたが、結婚をに退職。隣民は「礼儀正しく、しっかりしている」と々に評した。
最初の数ヶは平穏だった。さゆりさんは朝に起きてご飯を炊き、ふみさんが好む副菜を用した。ふみさんもんで受け取り、さゆりさんのを気に入っている様子だった。夫、広さんは張がかったが、にいるはで卓を囲んでいた。表向きは何の問題もない庭に見えた。
ところが、1993初め頃から、しずつ異変が起こり始めた。隣の渡辺恵子さんは、塀越しにのから聞こえる声を覚えていた。最初は嫁と姑の些細な論だろうと軽くった。しかし、その頻度と声の鋭さは徐々に増していった。ふみさんの声はく鋭く、さゆりさんの声はく震えていた。正確な内容は聞き取れなかったが、緊迫はらかだった。
同期、さゆりさんは妊娠期に差し掛かっていた。
広告
びのはずのらせを聞いたふみさんの態度は異常だった。ぶどころか、表はこわばっていたという。さゆりさんが実の姉に話で打ちけた内容もに捜査記録に残された。「母が私に接する態度が変わった」。
1993411、曜の朝、タカヒロさんはの夕方から張で、にはふみさんとさゆりさんだけがいた。隣民の渡辺恵子さんは、午10頃、さゆりさんとすれ違ったと証言した。軽くをげて挨拶したとき、顔がし青く見えたが、普段ときく変わりはなかった。これが渡辺恵子さんがさゆりさんを見た最である。
そのの夜、さゆりさんは姿を消した。翌、張から戻ったタカヒロさんは、が空っぽになっているのを発見した。妻のコートも財布も靴もそのまま残されていた。ふみさんは息子に告げた。「昨の夜、荷物をまとめててった。何も言わずに、ただてった」と。
妊娠の女性がコートや財布を置いたまま突然姿を消すだろうか。夫がのその夜に体何があったのか。この解な状況が、19934の杉並区佐賀ので起きた事件の始まりだった。
広さんが警察に届けたのは、さゆりさんが姿を消してから3、1993414のことだった。
杉並警察署の受付で、広さんは青ざめた顔のまま類に名をいた。
元には妻の写真が1枚あった。結婚式のに撮られた写真で、さゆりさんはいを着て、控えめに笑っていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 75 -
完結第13話
八百万円の泥棒とされた妹、九年目の審判
九年前に八百万円を持ち逃げして失踪したとされる妹。その金庫が、元婚約者の実家の庭、厚さ二十センチのコンクリート直下から未開封のまま掘り出された。 「腹いせに捨てたのよ」と喚く元義母だが、金庫の底にあった妹の携帯には、未送信の悲痛な下書きが残されていた。 泥棒の家族として親を失い、蔑まれて生きてきた姉・綾乃は、完璧に塗り固められた「被害者一家」の嘘と対峙することを決意する。真実|裡の顔|行方不明|金銭問題|修羅場2.0万字5 26 -
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 142 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 95