"母を逃がした電話" 第7話
けれど、話の向こうの優は驚くほど静かでした。
「そうか」
「そうかって、配じゃないの?」
「配だよ。警察には連絡したのか」
美はその自然な静さに違を覚えました。
けれど、そのはまだ気づいていませんでした。
優がすでにすべてをっていたことを。
警察が来た、美は診断を見せ、「認症の徘徊」と説しました。
しかし警察官は言いました。
「実は今朝、田節子さんについて、田法律事務所の弁護士から当署に連絡が入っています。田さんは自らので自宅をれ、現全な所にいるとのことです。徘徊ではないと」
リビングの空気が凍りました。
美の顔から血の気が引きました。
幸の貧乏ゆすりが止まりました。
は台所の入で、蒼な顔をしてち尽くしていました。
そのを境に、3の計画は崩れ始めました。
から正式な通が届きました。
田節子名義の座について、本以による正引きしの疑いがあるため、座を凍結するという通でした。
幸は受話器を持ったまま、しばらくけませんでした。
美が焦った声をしました。
「調査って、バレるの?」
「防犯カメラがあるだろうが。おが窓で引きしてる映像が残っているに決まってる」
「だって、お父さんが丈夫だって言ったから」
広告
2の言い争いが始まりました。
その方で、法務局への登記申請も止められていました。産には信託が設定されており、第者への譲渡も売却もできない状態だったのです。
さらに庭裁判所からも連絡が入りました。
成見の申してについて、別の医療関から「認症の所見なし」とする診断が提されたため、審理は保留になったのです。
幸はソファに崩れ落ちました。
「全部塞がれてる……もも見も、何ひとつかせん」
その翌、優はシンガポールから帰国しました。
成田空港からまっすぐ田法律事務所へ向かい、そこで私と再会しました。
「母さん」
「優」
言葉はそれ以ませんでした。
私たちはただ、しばらく向かいっていました。
田先は現状を説しました。
成見の申しては事実止。
座は凍結。
正引きしの調査は。
防犯カメラ映像から、美が窓で引きしをっていたことはほぼ特定済み。
跡鑑定も依頼済み。
産は信託により保全。
刑事告訴の準備もっていました。
優は言いました。
「先、そのに内容証を送ってください。こちらが何をっているか、何ができるかを全部示したいんです」
田先は私を見ました。
私は頷きました。
「私も、自分ので言いたいことがあります。
広告
私はボケてなんかいない。全部っていたって」
内容証郵便が届いたのは、1015の朝でした。
宛先は、祝井幸、祝井、田美。
通内容は確でした。
1つ、自宅からの即退。
2つ、正に引きされた1200万円の全額返還。
3つ、虚偽の認症診断に関する刑事告訴の通告。
4つ、応じないは、窃盗、詐欺、印私文偽造、齢者虐待防止法違反で刑事告訴をうこと。
幸は面を読み終えると、顔面蒼になりました。
「終わりだ。全部終わりだ」
美は必に言いました。
「こんなの脅しよ。あのボケ老に何ができるっていうの」
けれど、その言葉にはもう力がありませんでした。
そして数、私、優、田先、警察官が世田のへ向かいました。
玄関先で美が私を見た、その目はきく見かれました。
私はきちんとした紺のジャケットを着て、髪をえていました。痩せた頬にはまだ元の肉は戻っていませんでしたが、背筋は伸びていました。
リビングに全員が集まりました。
幸とはソファに座り、美は青ざめた顔でっていました。
私は3の正面に座りました。
しばらく沈黙が落ちました。
庭から犀のりが漂ってきます。
沈黙を破ったのは、私でした。
「美さん」
美の体がびくりと揺れました。
「私はね、ボケてなんかいませんよ」
声は穏やかでした。
けれど、自分でも驚くほどはっきりしていました。
「あなたたちが夜にひそひそ話していたこと、全部聞こえていました。
広告
おすすめ作品
-
完結第19話
棺の中の男を、夫は知らない
親を捨てて逃げた冷酷な男だと親族中から罵倒される義兄の葬儀で、義母は涙を流し、夫を支えの孝行息子だと称えていた。だが焼香台へ進む夫の前に立ちはだかった私は、「あなた、本当に棺の中にいるその人を知っているの」と告げた。夫が隠していたのは、過去五年間、毎月義兄へ送り続け、そのたびに全額突き返されていた六十回分の送金記録だった。血の気を引かせる夫と親戚の前で、私はその明細を祭壇の上に広げた。兄弟姉妹|親不孝|絶縁|親子関係|修羅場2.8万字5 88 -
完結第23話
母の職場で死んでいた私
母の定年退職をサプライズで祝うため、私は東京から新幹線に乗り宴会場へ駆けつけた。お祝いの品を手にして扉を開けた瞬間、母の同僚は手にしたグラスを取り落とし、顔を青ざめて後ずさりした。毎年盆と正月には実家へ顔を出し、仕送りも続けていたはずの私は、母が二十八年勤めた職場では十五年前に事故で亡くなった娘として扱われていた。ステージを駆け下りてきた母は私の手首を強く掴み、そのまま非常階段へと力任せに引きずり出した。親不孝|親子関係|退職金|修羅場3.5万字5 781 -
完結第21話
解雇された職人が未明に餡を練る
創業五十周年を控えた和菓子屋で働く私は、常連客の前で二十五年尽くした職人が店主に突然解雇される場に居合わせた。跡を継ぐため会社を辞めて戻った一人息子がいるものの、看板である漉し餡の技術はまだ誰にも継がれていない。店が立ち行かなくなると焦った私が翌朝四時に店へ駆け込むと、暗い厨房で追い出されたはずの職人が大鍋を振っていた。仕上がった餡を前に、朝一番に出勤した店主は無言で味見の木さじを口へ運んだ。裡切られた|親不孝|親子関係|修羅場3.2万字5 172 -
完結第19話
席次表から消された姉
披露宴の席次表を確認していた時、婚約者は親族席にある私の姉の名前を赤ペンで乱暴に塗りつぶした。介護士の姉を親戚に見せるのは家の格に関わると吐き捨てる彼に、私は必死で抗議した。だが、両親のいない私を育ててくれた姉は、侮辱されても取り乱すことすらしなかった。ただ、赤線の引かれた名前を静かに見つめ、「彼のお父さんが去年入院した時、毎晩誰が付き添っていたか聞いてごらん」と私に告げた。裡切られた|兄弟姉妹|親不孝|介護|修羅場2.9万字5 428