"孫放置の報い" 第1話
「ばあば……」
玄関の隅から聞こえたさな声に、私はを止めました。
そこにいたのは、歳の孫・蓮でした。パジャマ姿のまま、膝を抱え、涙とで顔をぐしゃぐしゃにして震えていたのです。
「蓮ちゃん……どうしたの」
私はしゃがみ込み、そっと肩にを置きました。さな体は氷のようにえていました。
蓮は私を見げ、かすれた声で言いました。
「パパとママ……旅にくって」
その瞬、私の全から血の気が引いていきました。
「いつからなの?」
問いかける私の声も震えていました。
蓮は唇を震わせながら、途切れ途切れに答えました。
「昨の夜から……ぼっちで……」
私は言葉を失いました。
私、恵子、歳。介護福祉士として、齢者施設で働いてきました。齢者の活を支え、虐待や放置の兆候を見逃さないよう、常に現で目を配ってきたです。
だからこそ分かりました。
これは、ただの留守番ではありません。
確なネグレクトです。
私はすぐに蓮を抱きげました。玄関の鍵はいたまま。誰でも入れる状態でした。
「丈夫よ。ばあばが来たからね」
そう言いながらのへ入ると、さらに胸がたくなりました。
リビングは散らかり放題。テーブルにはべ残しのカップ麺がつ。蔵庫をけると、はほとんど空でした。
広告
蓮の部はカーテンが閉め切られ、暗く、気がありませんでした。
「お腹、空いた?」
私が尋ねると、蓮はさくうなずきました。
「ママが……しなさいって。でも、何もなかった」
その言葉を聞いた瞬、私は蓮をさらにく抱きしめました。
誠が結婚した、私は頼まれるままに支えてきました。蓮がまれてから、週、朝から晩まで面倒を見ました。マイホーム購入のに百万円、の購入資に百万円、育児支援にも百万円以。計百万円もの援助をしてきたのです。
それなのに、この様。
私を無料のベビーシッターだとっていたのでしょうか。
いいえ、それだけではありません。
この子を、親として守るべきだとすらっていなかったのです。
私は震えるでスマートフォンを取りし、夫の博に話をかけました。
「あなた、今すぐ誠たちのに来てください」
「どうした、恵子。何があったんだ」
「蓮ちゃんが虐待されています。すぐに来てください」
話を切ると、私はく息を吸いました。
だけでいてはいけない。
今必なのは、りではなく証拠です。
介護福祉士として、私は何度も見てきました。虐待は、論だけでは裁けません。事実を残し、順序を踏み、法に守らなければならないのです。
私は蓮を毛布で包み、ソファに座らせました。
広告
「蓮ちゃん、ばあばが全部守るからね」
蓮はそうに私の袖を握りました。
そのさなの力に、私は静かに決しました。
絶対に許さない。
たとえ相が、自分の息子であっても。
分、夫の博が到着しました。
玄関をけた瞬、ソファで毛布に包まっている蓮の姿を見た博は、そのでち尽くしました。
「……なんだ、これは」
く漏れた声には、りと揺が混ざっていました。
博はゆっくり蓮のにしゃがみ込み、震えるさな肩を抱き寄せました。
「蓮、丈夫か。じいちゃん来たぞ」
蓮は博の胸に顔を埋め、さくすすり泣きました。
その姿を見ながら、私は既に次のを考えていました。
証拠を残す。
それが最優先です。
私はスマートフォンを取りし、のを撮し始めました。
空っぽの蔵庫。散乱したリビング。べ残しのカップ麺。洗われていない器。暗い子供部。
刻表示が入るよう、枚枚丁寧に記録していきます。
博がい声で言いました。
「ここまで酷いとは……」
「まだ終わりじゃありません」
私は静に答えました。
次に、蓮の証言を録音しました。
「蓮ちゃん、いつからだった?」
「昨の夜から……」
「パパとママは何て言ってた?」
「ばあばが来るから丈夫って……」
私は瞬、目を閉じました。
私に連絡は本もありませんでした。
つまり、偶然を提に歳児を放置したのです。
もし今、私が来なかったら。
もし数来られなかったら。
考えるだけで背筋が凍りました。
広告
おすすめ作品
-
完結第19話
棺の中の男を、夫は知らない
親を捨てて逃げた冷酷な男だと親族中から罵倒される義兄の葬儀で、義母は涙を流し、夫を支えの孝行息子だと称えていた。だが焼香台へ進む夫の前に立ちはだかった私は、「あなた、本当に棺の中にいるその人を知っているの」と告げた。夫が隠していたのは、過去五年間、毎月義兄へ送り続け、そのたびに全額突き返されていた六十回分の送金記録だった。血の気を引かせる夫と親戚の前で、私はその明細を祭壇の上に広げた。兄弟姉妹|親不孝|絶縁|親子関係|修羅場2.8万字5 88 -
完結第23話
母の職場で死んでいた私
母の定年退職をサプライズで祝うため、私は東京から新幹線に乗り宴会場へ駆けつけた。お祝いの品を手にして扉を開けた瞬間、母の同僚は手にしたグラスを取り落とし、顔を青ざめて後ずさりした。毎年盆と正月には実家へ顔を出し、仕送りも続けていたはずの私は、母が二十八年勤めた職場では十五年前に事故で亡くなった娘として扱われていた。ステージを駆け下りてきた母は私の手首を強く掴み、そのまま非常階段へと力任せに引きずり出した。親不孝|親子関係|退職金|修羅場3.5万字5 781 -
完結第21話
解雇された職人が未明に餡を練る
創業五十周年を控えた和菓子屋で働く私は、常連客の前で二十五年尽くした職人が店主に突然解雇される場に居合わせた。跡を継ぐため会社を辞めて戻った一人息子がいるものの、看板である漉し餡の技術はまだ誰にも継がれていない。店が立ち行かなくなると焦った私が翌朝四時に店へ駆け込むと、暗い厨房で追い出されたはずの職人が大鍋を振っていた。仕上がった餡を前に、朝一番に出勤した店主は無言で味見の木さじを口へ運んだ。裡切られた|親不孝|親子関係|修羅場3.2万字5 172 -
完結第19話
席次表から消された姉
披露宴の席次表を確認していた時、婚約者は親族席にある私の姉の名前を赤ペンで乱暴に塗りつぶした。介護士の姉を親戚に見せるのは家の格に関わると吐き捨てる彼に、私は必死で抗議した。だが、両親のいない私を育ててくれた姉は、侮辱されても取り乱すことすらしなかった。ただ、赤線の引かれた名前を静かに見つめ、「彼のお父さんが去年入院した時、毎晩誰が付き添っていたか聞いてごらん」と私に告げた。裡切られた|兄弟姉妹|親不孝|介護|修羅場2.9万字5 428