"居候の更地返し" 第5話
夜勤当、残業代、賞与。
こつこつと積みねてきた数字が、通帳のに残っていた。
1冊目には、3000万円。
裕子は指先で数字をなぞった。
もう1冊は、夫の命保険が振り込まれた通帳だった。
2000万円。
これも、裕子は度も使っていなかった。
「裕子、おは優しすぎる。だからこれは絶対に誰にも言うな。おの老のための切なおだ」
夫の声が、元で聞こえた気がした。
計5000万円。
そしてこの。
だけでも3000万円はらないはずだった。周辺は発がみ、価もがっている。
裕子は通帳を閉じ、夫の写真を見た。
「あなた、ちゃんと守ってくれていたのね」
声にすと、議と涙はなかった。
代わりに、胸の奥が静かに澄んでいった。
裕と里は、裕子を居候と呼んだ。政婦と扱った。15万円を絞り取り、最は施設に送るつもりだった。
そして、こので2だけの活を続けるつもりだったのだろう。
裕子はもう度、裕のメモを見返した。
「施設も検討か」
自分を施設に入れて、このを乗っ取るつもりだったのだ。
裕子は窓のを見た。庭の桜のが、のに揺れている。夫が好きだっただった。毎、が咲くたびに、夫は縁側に座って黙って眺めていた。
「今も咲いたな」
それだけを言って、お茶をんでいた。
そので、自分は10もしてきた。
裕子はく息を吸った。
広告
31、護師として働いてきた。
護師の仕事は、ただ優しく寄り添うことだけではない。には、患者を救うために厳しい判断をしなければならない。腐った部分を放置すれば、全が蝕まれる。必な処置は、ためらわずう。
今、このに必な処置は何か。
答えはもうていた。
このは、夫が残してくれた自分だけの。
けれど、そこにはもう、腐った関係がく入り込んでいる。
裕子は静かに微笑んだ。
「処置を始めましょう」
ハワイにった2が帰ってくるのは、1週。
分ながある。
裕子はスマートフォンをに取り、元で評判の良い解体業者を検索した。
そして、迷わず発信ボタンを押した。
「お忙しいところ恐れ入ります。松裕子と申します。自宅の解体について、ご相談があるのですが」
朝が差し込む寝で、裕子は呼吸を繰り返した。窓のでは桜のびらがひらひらとい、庭の鈴がかすかに音をてる。31の護師経験が、ので静かに回転していた。
「よし……」
元には産登記簿、通帳、印鑑。全てが揃っている。今からこのの主は、自分だけだ。裕子はまずスマートフォンを取りし、元で評判の良い解体業者「伊建設」に話をかけた。
「お忙しいところ恐れ入ります。松裕子と申します。自宅の解体についてご相談があるのですが」
広告
受話器の向こうで男性の声がし驚いた様子で答えた。
「え、どちらの物件でしょうか?」
所を伝えると、担当者は瞬息をのむ。
「派な物件ですね……解体ですか?」
裕子は即答した。
「はい。できれば今週に、集して、すぐにさらにしてください。所者は私です。族の同はです」
相はし躊躇したが、承諾してくれた。裕子は受話器を置くと、通帳と分証をに取り、最寄りのへ向かった。
通帳をに窓のを見つめ、ので夫に話しかける。
「夫さん、見ていてください。私、やっと自分のを取り戻します」
のカウンターで、裕子は3000万円の引きしと、夫の命保険2000万円も続きした。計5000万円。にした封筒はずっしりとく、これまでしてきたのさが詰まっているようだった。
そので産に向かう。事にインターネットで探していた、湘のが見える1LDKマンションを現括で購入するためだ。営業担当の若い男性がドアをけ、にこやかに迎えた。
「いらっしゃいませ。どのような物件をお探しですか?」
裕子は封筒を抱え、静かに答えた。
「の見える物件を、現で括購入したいのです」
パンフレットを見せてもらうと、最階の角部。リビングからは青いとくの平線が広がる。夕が沈む様子も窓から見える。
キッチンも能で、1暮らしには分すぎる広さだった。
「購入します」
裕子はサインを済ませ、振込を完させた。
広告
おすすめ作品
-
完結第22話
側溝の底のGPS
六年前に娘を事故で亡くし、近所から「不注意な母親」と後ろ指を指されながら暮らしてきた私。ある朝、向かいの名士宅との境界にある側溝の泥から、泥まみれの「娘の見守りGPS」を掘り出した。壊れた端末のログを開くと、六年間、豪雨の深夜になるたび、向かいの家のWi-Fiと通信を繰り返していた。問い詰めた夫が無言で開けた物置には、壁一面に貼られた隣家の行動記録と、五年間密かに改造されていた配管図面があった。ミステリー|因果応報|裡切られた|真相3.3万字5 223 -
完結第11話
五十万円の便利妻
義父の四十九日を終えた日曜の朝、商社の係長へ昇進した夫から緑の離婚届を突きつけられた。「腰を壊したお前は出世の邪魔。手切れ金50万で出て行け」。4年間、排泄の世話まで一人で背負い続けた私を、夫は「無償の介護要員」として切り捨てたのだ。愛人とタワマンへ移る気満々の夫。だが、冷え切った私の手元には、四年間の一切を記した【介護日誌】と、義母から託された反撃の鍵が握られていた。因果応報|裡切られた|介護|金銭問題|不倫1.7万字5 105 -
完結第25話
底辺受付嬢を見下す役員たちの誤算
父の会社は、最も信頼していた人間の裏切りによって無惨に食い物にされた。巨額の負債を背負い、絶望の中で病に倒れた父。私はその冷酷な真相を暴くため、ハーバード大の博士号を隠し、ただの「受付嬢」として敵の中枢である星空グループに潜入した。 誰からも見下され、理不尽な侮辱に耐え忍ぶこと3年。息を潜めて集めた証拠が示したのは、あまりにも残酷な真実だった。父を破産に追い込み、私から全てを奪った黒幕の正体は、父が家族のように慕っていた古参役員だったのだ。 「黒幕は役員会の中にいる」――私を守るため、父が命懸けで残してくれた最期のメッセージを知った時、胸の奥の悲しみは絶対的な冷酷さを持つ復讐の炎へと変わった。私の素性を知る新社長のハルトや、父の旧友たちと共に、私は決して逃れられない完璧な包囲網を密かに築き上げていく。 そして迎えた運命の役員会。全てを掌握したと信じ、私の前で勝ち誇る黒幕。だが彼はまだ知らない。無力な受付嬢だと思っていた私が、彼を社会的死の淵へと突き落とす致命的な罠を仕掛けていたことを。仮面を脱ぎ捨てた時、強欲な悪魔を地獄の底へと引きずり下ろす、容赦なき反撃が幕を開ける――。因果応報|真相|修羅場3.8万字5 1809 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第12話
社長夫人と平社員の妻
夫が勤める製造会社の先代社長の遺児であり、全株式の六割を握る筆頭株主である白石遥。彼女はその正体を隠し、現場社員の妻として慎ましく暮らしていた。しかし、先代の跡を継いだ新社長の妻・藤崎麗華は、夫が平社員である遥を見下し、婦人会の席で髪を掴んで「奴隷」と罵倒する。耐えかねた遥が「では、社長を解任します」と告げると、麗華はあざ笑うのだった。数日後、遥の名の入った「臨時株主総会招集請求書」が会社に届き、夫が密かに集めていた四千万円の不正流用の証拠が突きつけられる。窮地に陥った社長夫婦の前に、本当の支配者の正体が暴かれるとき、冷酷な因果応報の幕が上がる。職場逆転|因果応報1.8万字5 228 -
完結第22話
恩人弁護士の不可解な書類
満員電車の切り取り動画で炎上し、派遣先を不当解雇された私を、着手金ゼロで救ってくれたのは小さな事務所の弁護士だった。彼の尽力で示談を勝ち取り日常を取り戻した二ヶ月後、私は元上司のパワハラを訴えた見知らぬ後輩の裁判資料を目にする。そこには、私が弁護士の相談室で泣きながら話したはずの告白が、そのまま証拠として並んでいた。震える手で開いたその裁判記録の送達先には、私を救った恩人弁護士の事務所名が記されていた。職場逆転|因果応報|裡切られた|怒り3.4万字5 395 -
完結第14話
年商一兆円の父にワインをかけた婚約者
創業家の御曹司との顔合わせ当日。ボロ車で駆けつけた私の父を見た義母は、「貧乏人の娘が」と父の頭から赤ワインを浴びせかけた。婚約者も冷笑し、父を詐欺師呼ばわりしてロビーで土下座を迫る始末。 だが、父は一言も取り乱さず、静かにワインを拭った。 「この縁談はなかったことに」 指輪を投げ返し、父の向かった先は日本中が恐れる巨大財閥の最上階。傲慢な親子が信じていた“金と権力のルール”で、静かな断罪劇が幕を開ける。因果応報|人生逆転|金銭問題|修羅場2.1万字5 129 -
完結第12話
午前五時の朝餉
母・加奈子を理不尽に追い出して七日目の朝。二重ロックで施錠されたはずの台所で、炊飯器のランプが黄色く灯っていた。「保温:28分」。蓋を開けると、湯気を立てる筍ご飯と、包丁立てから消えた一番重い三徳包丁。電源を抜いても、暗証番号を変えても、毎朝午前五時に届き続ける温かい米。やがて米の底から現れた“ある金属片”を境に、父と祖母の顔から血の気が引いていく。母はどこから入り、この家で何を見つめているのか。因果応報|嫁姑|真実|修羅場1.8万字5 1024