"霧の峠に消えた後継者" 第8話
「事件のしでした。総郎が私を訪ねてきて、こう言ったんです。俺はもう継ぎでいるのが耐えられない。当主も、族のことも、全部捨てて自由になりたい、と」
涼介は窓のへ目を向けた。
「私は止めませんでした。いや、止められなかったと言うべきかもしれません。あいつの目を見れば分かりました。これはもう、誰にも止められない。あいつは本気で、すべてを捨てる覚悟を決めていた」
佐子が息をんだ。
「あのの夜、総郎は軽井沢へ向かうふりをして、別荘にち寄りました。そこで継者としての持ち物をすべて置いていったんです。肌さず持っていた鍵入れも、背広も。そしてごく普通の着替えに替え、わずかなだけを持って、誰もらない所へ消えていきました」
沢田はい声で尋ねた。
「あなたは、それを伝ったんですか」
涼介はゆっくり頷いた。
「を峠まで運ぶのを、ほんのし伝いました。それだけです。あとは総郎が1でやったことです。私は座のに戻り、何事もなかったようにと会っていました」
涼介は苦く笑った。
「あのアリバイは嘘ではありません。私は本当に、あの晩、にいたのですから」
すべての糸が、そこでつながった。
があるのに、完璧なアリバイがあった理由。
涼介が総郎を消したのではなかった。
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総郎が自ら消えるのをりながら、その準備の部を伝っただけだった。
けれど沢田は、涼介から目をそらさなかった。
「涼介さん。あなたはなぜ15く、それを誰にも言わなかった」
涼介の顔から、表が消えた。
「総郎さんがきていると分かっていれば、佐子さんも、これほど苦しまずに済んだはずです」
涼介はく、いため息をついた。
そして初めて、その顔に15分の苦悩のを見せた。
「総郎が戻らなければ、当主の座は私のものになる」
涼介は絞りすように言った。
「私はそれを望んでいなかったとは言えません。総郎を見送ったあの夜、私の胸には確かにろめたいいがありました。あいつの自由を願う気持ちと、あいつがいなくなれば自分が当主になれるという浅ましいい。その2つが入り混じっていたんです」
涼介は佐子の方を向いた。
「だから私はをつぐみました。総郎が自分ので消えたとりながら、それを誰にも告げず、結果として当主の座をに入れた」
佐子は何も言わなかった。
「あなたがお兄さんを案じて苦しんでいるのをりながら、私は何も言わなかった。それが、私の15く背負い続けてきた罪です」
涼介の声は震えていた。
「私は誰も殺していません。をしたこともありません。ただ、本当のことを言わなかった。
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それだけです。けれど、その言わなかったことが、こんなにもく私の胸を締めつけ続けるとはいませんでした」
部には、けゆく町のざわめきだけがかすかに届いていた。
沢田はしばらく何も言えなかった。
15く追い続けてきた事件。
その結末は殺でも誘拐でもなかった。
1の青が荷をろして自由を求め、それをる1の男が、自らの欲のためにをつぐんだ。
ただそれだけのことだった。
だが、その「ただそれだけ」が、どれほどくを苦しめるのか。
沢田は今、そのさを目のに見ていた。
「お兄ちゃんは、きているんですね」
佐子が涙の滲んだ声で尋ねた。
涼介は静かに頷いた。
「の便りに聞いたことがあります。のさな港町で、別の名を名乗りながら、古い本を営んでいる初老の男がいると」
佐子の指先が震えた。
「確かめたわけではありません。けれど、あれが見ていた暮らしを、総郎はに入れたのかもしれません」
その言葉を聞いた瞬、佐子の頬を涙が流れ落ちた。
兄がきている。
子どもの頃から見ていた、誰も自分をらない静かな町で、本に囲まれて暮らしているかもしれない。
自分を苦しめてきた涼介への複雑ないはあった。けれどそれ以に、兄があのたい荷物をろし、ようやく自由になれたのだという堵が、佐子の胸を温かく満たしていった。
佐子は涙を拭い、静かに言った。
「よかった。
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