"24年目の手紙" 第2話
学の授業料は2ヶも滞納しており、健の履いている靴もボロボロになっていました。だから、働きにないわけにはいかなかったのです。
普段、よし子は午3になると、の入りでって待っていました。学から帰ってくる健を迎えるのが、1で番幸せなだったからです。しかしそのはの仕事が遅くまでかかりそうでした。健が1で鍵をけ、に帰らなければならないだったのです。
健は朝ご飯をべ終え、学のカバンを持ちました。そして駄箱のでピタリとち止まりました。数によし子が無理をして買ってあげた、いスニーカーを取りしたのです。穴のいた黒い靴の代わりに、初めて買ってあげた品の靴でした。健は靴を履いて玄関のタタキで踏みをし、嬉しそうによし子を見げて笑いました。 「お母さん、今これ履いていってもいい?」
よし子は息子の輝く瞳を見つめ、優しい微笑みで答えました。 「ええ、履いていきなさい。汚さないようにね」 「はーい!」
健が勢いよく玄関をびし、を駆けりていきました。真っなスニーカーが、急な坂のでぴょんぴょんとねていました。よし子はのにち、そのさなろ姿を幸せそうに、見えなくなるまでいつまでもいつまでも、見つめていました。
広告
それが健の最の姿でした。
午6、仕事を終えてよし子が急いでに帰った、のはしんと静まり返っていました。最初は、友達のでになって遊んでいるのだろうと、して気にとめていませんでした。しかし、計の針が午8になりました。そのから、よし子の胸は激しいで突き始めました。
よし子はをごちへとびしました。夜のが迫るをりながら、「健! 健!」と声を限りに叫びました。所ののドアを片っ端から叩いて回りました。「うちの健を見ませんでしたか」と狂ったように聞きましたが、誰も見ていないと言いました。
その、同じにむ佐藤が、怪訝そうな顔でドアをけて言いました。 「ああ、夕方4頃に見かけたわ。健ちゃん、らない男のと緒に笑いながらバスに乗ったの。楽しそうに笑いながらかけていったわよ」 その言葉を聞いた瞬、よし子の全からスーッと血の気が引いていきました。
よし子はそのまま交番へと駆け込み、息子の失踪を必に訴えました。しかし、担当した若い警察官は、よし子の腫れがった顔を見ながら、さほど刻に受け止めている様子もなく、類にペンをらせてこう言いました。 「お母さん、子供は々、数くらいをするものです。
広告
学で叱られたとか、で言えない事ができたとかね。とりあえずまで待ってみましょう」 「うちの健はそんな子じゃありません! 今の朝まで何も変わったところはなかったんです。お弁当も持たせたのに、学にもってないんですよ!」 よし子は交番の机を叩いて泣き叫びましたが、警察官は「とにかく待て」と言うだけでした。
その夜、よし子はもできませんでした。健の部のドアをけ放ち、晩、玄関を見つめて帰りを待ち続けました。古いストーブの規則な音と、に吹きすさぶの音だけが空虚に響き、健は帰ってきませんでした。
そして、おかしなことがありました。で担任の先が自宅を訪れ、よし子に教えてくれた事実です。健はあの、学に来ていなかったのです。よし子がお弁当を作って送りした、健は学へは向かっていませんでした。
さらにもう1つ、奇妙なことがありました。混乱するのまま、よし子が健の勉机の引きしをけたのことです。引きしの奥から、古い赤いノートを見つけました。よし子は、本の輪ゴムで留められたノートのゴムをし、ページをきました。
そこには、子供のぎこちない跡で、付と数字がびっしりとかれていました。付の横に10円、50円、100円。
そして、番には計額がかれていました。 『450円』
よし子はそのノートを両でく握りしめたまま、に崩れ落ち、いくことができませんでした。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第24話
目覚めた部下にクビを問われた
地方旅館の火災で客を救い出し重傷を負った部下が目を覚ました。だが彼女の記憶は直近の二年分が抜け落ち、着任初日の私が冷酷に解雇を迫った日のまま止まっていた。会社は避難扉が開かなかった責任を彼女の記憶喪失に乗じて背負わせようと、退職金の支払いを口実に過失を認める書類への署名を病室で迫る。何も思い出せない部下は震える手でペンを握り、かつて自分を追い詰めたはずの私を怯えた目で見つめた。職場逆転|真実|裡の顔|修羅場3.7万字5 691 -
完結第20話
教室の最後列に座る元教員
定年退職した元教員の私は、一度も教えたことのない男子生徒の保護者会に、身元を偽って六年間通い続けていた。教室の最後列から見つめる先には、油まみれの作業着を着た父親が座っている。受付簿の不審な記録に気づいた校長から昇降口で問い詰められた帰り道、桜が散る坂道でその父親が私の前に立ちふさがった。二十四年前の元教え子だったその男は、振り返りもせず、私の背中に向けて「あの席、あと何年座るつもりですか」と低く告げ怒り|真実|親子関係|修羅場3.1万字5 122 -
完結第23話
十八年ぶりの切符「次は三人で来い」
「二度と敷居を跨ぐな」――十八年前、父・源蔵の激しい怒声を背に村を飛び出した美雪。母の葬儀すら拒絶し、東京で夫の高一、息子の蒼太と平穏な家庭を築きながらも、心の奥に深い罪悪感を抱え続けていた。 ある秋の日、頑固一徹だった父が倒れたとの報せが届く。恐る恐る帰郷した美雪を迎えたのは、小さく老いさらばえた父の姿だった。互いに素直になれぬまま病室で交わしたわずかな言葉。だが、生家から持ち帰らされた重い桐箱と古いボストンバッグを開けた瞬間、美雪の息は止まる。 そこには、出金記録ゼロのまま膨れ上がった美雪名義の通帳と、十三年前の日付が記された「高一君へ」という父の手紙が眠っていた。父が十八年間隠し通してきた、想像を絶する真実とは――。真実|修羅場3.5万字5 1026 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第18話
ゴミ箱の隣に座る学年一位
学年1位を守り続けてきた娘が、二学期に入ると突然一番後ろの席に移動させられ、学級委員長も外された。何か処分を受けたのかと学校へ詰め寄る私に、娘は「この席でいいの」とだけ言い、何も説明しようとしない。納得できないまま迎えた参観日、教室の後ろに立つ私は、娘の隣にぽつんと置かれた空っぽの机に気づいた。誰の席なのかと問い詰める私に、担任は教室の隅を見つめ、「娘さんが残してくれと頼んできたんです」と静かに告げた。怒り|真実|孤獨|親子関係|修羅場2.8万字5 161 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 2982 -
完結第17話
何番まで落ちたら離婚するの
三年連続で学年一位を取り続ける十二歳の息子。深夜まで勉強に付き添う私と、追い詰めるなと制する夫は、外食先でも教育方針を巡って激しく口論していた。沈黙していた息子は突然、「僕が何番まで落ちたら二人は離婚するの」と冷たく言い放ち、鞄から直近三回分のテスト用紙を取り出した。そこに並んでいたのは、最難関の応用問題だけが解かれ、一番簡単な基礎計算だけを全て意図的に間違えた、信じがたい異様な答案だった。夫婦|真実|親子関係|修羅場2.6万字5 621 -
完結第23話
父の逝った夜の車
父が亡くなって十八年、独身の伯父は私達三兄妹を支え続け、兄の就職も姉の結婚資金も工面してくれた。家族全員が恩人と慕う中、末っ子の私だけが幼い頃から伯父と二人きりを拒み、性格のせいだと呆れられていた。二十八歳のある日、会食の席で伯父が私の椅子を引いてくれた瞬間、鍵のかかっていた記憶が甦る。十八年前の嵐の深夜、泥まみれの母が一度だけ家に戻った時、街灯もない門前の暗闇で消灯したまま待っていたのは、伯父の車だった。兄弟姉妹|真実|親子関係|修羅場3.4万字5 991