"壁の中の美大生" 第9話
鈴は何も言えなかった。
その瞬、がくにあったいブロンズ像をつかんだ。
は息を止めた。
次の瞬、鈍い音がした。
美紀の体がに崩れ落ちた。
音だけが、カフェの窓を叩いていた。
は鳴をげそうになり、自分のを両で押さえた。
で鈴が叫んだ。
「何をしたんですか!」
は荒い息をしながら言った。
「騒ぐな。まだ誰にも見られていない」
しかし、その、は元の空き缶を踏んでしまった。
さな音だった。
だが、はすぐに振り返った。
はった。
のを必に逃げた。
背から鈴の声が聞こえた。
「ちゃん、逃げろ!」
その声が、彼女が最に聞いた鈴の声だった。
翌、の元にの使いが来た。
「何も見なかったことにしろ。アメリカに留学したことにする。名を変えて暮らせ。警察に言えば、次はおだ」
は恐怖に負けた。
美紀を置いて逃げた。
その罪悪を抱えたまま、12、偽名できてきたのだった。
渡辺の証言だけでは、郎を殺で件するにはかった。
12の記憶。
恐怖による沈黙。
証拠能力を争われれば、側の弁護士は必ず突いてくる。
伊藤は分かっていた。
必なのは、現と証言をつなぐ物証だった。
再び、畔のカフェ跡が調べられた。
すでに解体は断され、現は厳に保されていた。
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鑑識班は、遺体が埋め込まれていた壁の周囲を細かく採取した。
壁の内部からは、通常の建材とは異なる古い成分が見つかった。
さらに、壁のに混ざっていた布片から、微量の絵の具の成分が検された。
それは、美紀が最に抱えていた絵に使われていた絵の具と致した。
田は報告を握りしめた。
「刑事さん、これで美紀さんがあの絵を持ったまま、カフェので襲われた能性がくなりました」
伊藤はうなずいた。
「まだりない。壁を誰が作ったかだ」
そのがかりは、古い事記録にあった。
19901112。
佐藤美紀が失踪した翌。
畔カフェでは、内装の部補修事がわれていた。
事を請け負ったのは、郎の関連会社だった。
依頼主の署名欄には、鈴勝の名があった。
伊藤はその類をに、鈴のを訪ねた。
鈴は妻のベッドの横に座っていた。顔はやつれ、目のにはいが落ちていた。
伊藤は事記録を差しした。
「19901112。あなたはカフェの内壁補修を依頼しています」
鈴は類を見た。
が震えた。
「美紀さんが殺された翌です」
鈴は目を閉じた。
「もう……終わりですね」
その声は、いのみに押し潰されていた。
伊藤は何も言わなかった。
鈴は妻のをそっと布団のへ戻し、ゆっくりと話し始めた。
「私は、美紀ちゃんをに紹介しました。
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才能を認めてもらえるとったんです。の経営も苦しく、妻の治療費も必でした。からを受け取ってしまった」
鈴の声は震えていた。
「最初は、絵を運ぶだけだと聞いていました。でも途で、美紀ちゃんが真実に気づいた。あの子は逃げようとした。警察にくと言った」
彼は両で顔を覆った。
「私は止められなかった。があの子を殴った。に倒れた美紀ちゃんは、もうかなかった」
伊藤は静かに尋ねた。
「その、あなたは遺体を壁のに隠したんですね」
鈴はうなずいた。
涙が指のからこぼれた。
「が言いました。妻の治療を続けたいなら黙ってを貸せ、と。私は……私は、美紀ちゃんを壁のに入れたんです」
部のに、妻の浅い寝息だけが聞こえていた。
鈴はに額をつけるようにして泣いた。
「12、毎晩あの壁のを見ました。あの子が暗ので、私を見ているです」
伊藤はちがった。
「鈴勝さん。あなたを体遺棄と証拠隠滅の容疑で同していただきます」
鈴は抵抗しなかった。
ただ最に、妻の方を振り返った。
「美紀ちゃんに……謝りたかった」
その言葉は、誰にも救いを与えなかった。
鈴勝の供述により、郎への包囲網は気に狭まった。
しかしは、なおも否認を続けた。
取調に座ったは、以より顔を悪くしていたが、声だけはかった。
「鈴が勝に言っているだけだ。私は関係ない」
伊藤は机のに証拠を1つずつ置いた。
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