"三輪山に消えた家族" 第8話
しばらくすると、奥から現れたのは、背筋をシャキと伸ばした、目の鋭いの老だった。彼こそが、葉の現当主、葉正そのであった。
通された広な座敷は、まるで部全体の空気が力を増したかのように静まり返っており、のに掛けられた墨画の、墨の匂いが内の威圧をさらにめているようだった。 「波野のの、縁の者だそうだな」 葉は座布団に腰掛け、裕を品定めするように鋭く見据え、い声で言った。 「今更、あの空きをどうしようというのかね」
裕は怯むことなく、葉の目を真っ直ぐに見つめ返した。 「25に、あので何があったのかをりたいんです。私の叔父や叔母が、なぜ突然消えなければならなかったのか、その真実を」 裕が真っ直ぐにそう告げた瞬、葉の鉄面皮のような表が、かすかに歪んだ。
「これ以、昔のことをほじくり返すな」 葉の声には、りとも、あるいはい拒絶ともつかない、苦しい響きがあった。 「このにはな、そっとしておかねばならん傷がある。おのような若造が、面半分で掻き回していいもんやない」 葉の鋭い目は、裕を脅しているかのようだった。
しかし、裕はその目の奥に、ほんの瞬だけ、いしみと、言いようのない疲労のがよぎったのを決して見逃さなかった。
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それは、い秘密を背負い続けてきた男だけが見せる、孤独ののようでもあった。 (この男は、確実に何かをっている。そして、それを必に隠し、守ろうとしている……!)
裕がさらにいがろうとをきかけた、「もう話は終わりだ」という葉のたい声と共に、襖がぴしゃりと閉められた。裕はなす術もなく、広い玄関のでち尽くすしかなかった。やはり、この男がすべてを仕組んだ黒幕なのだろうか。
しかし、あの目に宿ったしみのは、体何だったのか。裕が混乱したを抱えてへ向かおうとした、背から「あの……」と、躊躇うような若い女性の声が掛けられた。
振り返ると、そこには30代半ばくらいの、非常に品の良い着物姿の女性がっていた。葉正に、どこか顔の面が似ている。 「父が、変失礼いたしました……。私、娘の苗と申します」 苗と名乗った女性は、裕に向かってく々とをげた。彼女は裕を促し、目のない敷の脇の庭へと誘うと、震える声でこう続けた。 「私……ずっと胸に閊えていたことがあるんです。25、誰にも言えなかったこと……」
苗は、失踪した波野の女と同いで、子供の頃は毎のように緒に遊ぶ親しい仲だったという。そして、事件があった「あの最の夜」のことを、彼女は今でも鮮に覚えていた。
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「私の部の窓から、ちょうど波野さんちの裏にある、古い壁の倉が見えるんです。あの夜、夜も更けた頃に、寝付けずにベッドのにいた私のに、どこからかかすかな声が聞こえてきたんです」
苗は、それが違いなく、波野の母親と子供たちの声だったと確信していた。しかし、その声はのからではなく、いに浮かぶ、あの壁の倉のから聞こえてきたのだという。 ひんやりとした夜気の、その声だけが妙に鮮に響いてきたのを、彼女は今でも忘れられずにいた。
「っていたのは、この辺りの古い子守唄でした。でも、いつもおばさんがってくれていた優しい声とは、全然違ったんです……」 苗は記憶を繰り寄せるように、静かに目を伏せた。 「同じところを、何度も、何度も繰り返して……急に声がきくなったかとえば、ふっと途切れてしまう。まるで、誰かに何かをらせようとしているような、必で、とても切ない声でした……」
暗の倉ので響いていた、途切れ途切れの子守唄。その異様な景を像し、裕は腕の皮膚にゾワゾワと鳥肌がつのをじた。 それは子供を健やかに寝かしつけるためのではない。夜の静寂に紛れて、にいる誰かに向けて発せられた、切迫した音の暗号だったのだ。
「父は、表向きは波野さんの悪を言っていました。
でも……」 苗の目から、涙がじんわりと滲みた。
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