"半纏に縫われた遺言" 第3話
その瞬、3にくなった夫の掠れた声が、私の脳裏を鮮によぎった。 末期の肺がんでくなる3ヶのことだった。 夫は、自分が所していた浅のを、息子の裕には内緒で、密かに孫娘の桜の名義で信託設定しておいた。 そしてある夜、病から抜けして私の仕事へやってくると、私がいつも着ている黒い絹の半纏の裏をハサミでそっと解き、本物の実印と信託契約の原本を、その内側へ直接縫い込んだのだった。 夫の裁の腕は酷く器用で、縫い目はガタガタと揃いだったが、針、針に彼の最の体温が込められていた。 最の玉結びをハサミで切り落とした、夫は私の両をしっかりと握り締めて、こう言ったのだ。 『もし、裕の目つきが欲に眩んでいるように見えたら、必ずこの半纏を着なさい。その裏が、おを守るになるからな』
当は、まさかそんな袈裟な、とったものだった。 自分がお腹を痛めて産んだが子が、親を裏切るようなことをするはずがない。夫が病気で気になり、疑暗鬼になっているだけだと、のどこかで片付けていた。 しかし今、息子の震える指先と、嫁の湿ったのひらを見た瞬、あの夫の遺言が、まるでたい予言のように元で々しく響き渡った。
「お義母さん、そんな古いは置いていってください。
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リゾートの綺麗なロビーのドレスコードにいませんわ」 美が、私がに取った黒い半纏の襟元を掴み、神経質そうな顔をして無理に脱がせようとしてきた。 彼女のい爪が、絹の裏をチリチリと引っかく嫌な音が聞こえた。 私は歯をいしばり、美のを退けて、半纏のをしっかりとわせた。 「私の老いさらばばった骨にはねえ、級なよりも、この目の詰まった綿の半纏の方がかいんだよ」
半纏の裏から伝わる、パリッとした類の触と、い実印の輪郭が、私の剥きしの肋骨の横にゴツリと当たった。 美の目が瞬だけそうに細められたが、彼女はすぐに作り物の笑顔を貼り付け直した。 その、居の隅の暗がりに、のさながあるのが目に入った。 12歳になる孫娘の桜が、ソファの端でさく丸くなり、膝のでスマートフォンの画面だけをじっと見つめていた。
子供の瞳の焦点は定まっておらず、まるで暗いがかかったように淀んでいた。 頃から両親の激しい諍いを見せつけられ、傷つくことに疲れた子供特の、自分のをわざと消しってしまったような無表な顔だった。 3の法事のに会ったよりも、頬の肉が削げてこけており、制の袖をぎゅっと引っ張る彼女の指先は、寒さのせいか真っ赤にひび割れていた。
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私は桜のそばへと歩み寄り、そのえ切ったさなをそっと握りしめた。 子供のは、驚くほどたかった。
私は自分のポケットから、さなキャラメルを1つ取りし、子供ののひらに握らせた。 そして、美たちに聞こえないよう、桜の元へと顔をづけ、非常にい声で囁いた。 「桜……あなたの部の押入れの、番奥にお菓子の缶箱があるの。おばあちゃんが帰ってくるまで、何があっても絶対にけちゃダメだよ」 3の法事の、美の目を盗んで桜の部にち寄った隙に、押入れの布団の奥へと密かに押し込んでおいた箱だった。 桜の瞳が、私の言葉にさく揺れいた。 子供が無言のまま、こくりと静かに頷くのを確認して、私はその細い髪を度だけ優しく撫でてやった。
玄関のに止められた黒いセダンの部座席のドアを、裕が苦しい音をててけてくれた。 私はに乗り込む直、度を止め、息子の目を真っ直ぐに見げた。 裕の線は、私の目から逃げるように空を彷徨い、最はセメントの面へと力なく落ちていった。 その、母親の目を頑なに避けようとする様子は、彼が幼い頃に嘘をついて、それがバレてしまったと全く同じだった。
母親の目もまともに見られない息子のろ姿から、これから自分のに起こるであろう来事の輪郭が、はっきりと読み取れた。
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