"半纏に縫われた遺言" 第9話
「ほら、お薬のですよ。をけて」 私は抵抗する素振りを切見せず、素直にをけて薬を受け入れるふりをした。 しかし、薬が舌のに落とされた瞬、私は素い舌のきで、それを舌のさらにの奥くへと滑り込ませて隠した。
舌の裏側が、薬の烈な苦でビリビリと痺れて麻痺しそうになったが、私は表を切変えず、じっと耐えた。 護師がの入ったコップを私のに握らせ、「ちゃんとみ込んで」と言って凝してくる。 私はだけをゴクリとうまくみ干すと、わざとをきくけて、彼女に見せてやった。 護師が「よし、お利さんですね」と言って背を向けた瞬、私は元をよろめかせながらトイレへと歩き、便器のにピンクの錠剤を激しく吐きした。
ジャァァ、とを流す音で決定な証拠を完全に消しり、何事もなかったかのようにベッドへと戻ると、壁のシミに向かってブツブツとのない言葉を呟き続けた。 それは、毎晩繰り返される、私と連との音のない、孤独な命がけの戦いだった。
入所して3目を迎えた、荷物カバンの底を何気なく探っていると、の隙から、古びた赤いプラスチック製の型ラジオが見つかった。 、夫が仕ての縁側に腰掛け、いつもさな音で流しては、お気に入りの演をずさんんでいた切な形見だった。
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美が「お母さんの荷物よ」と言って、しても確かめずにカバンのに放り込んだようだった。 あの欲い嫁が、私ののでたった度だけ見せた親孝は、この決定な詰め切れない「失敗」だったのだ。
ラジオをに取った瞬、夫の指の油が染み付いた、懐かしい選局ダイヤルのザラザラとした触が、私の指先に鮮に伝わってきた。 の奥がツンとくなり、目に涙が込みげてきた。 しかし、このラジオは、単なるいの片形見ではなかった。 夫が、裁の仕事のに、葉原の腕の良い無線技術者の友に密かに頼み込んで、内部の構造を完全に改造しておいた「特殊な装置」だったのだ。
見は何の変哲もない古いラジオだが、裏面の池カバーをした内側には、さわずか1センチの、特注の型デジタル録音基盤が精巧に埋め込まれていた。 そしてその横には、爪ほどのきさの、膨なデータを保できる記録媒体が差し込まれていた。 音量ダイヤルをに向かって「カチッ」と音がするまでく引っ張ると、表面のランプは点灯しないまま、周囲のすべての音を集音する録音能が作する仕組みになっていた。 夫がなぜ、にこれほど掛かりな装置を作って私に遺したのか、当はその真が全く分からなかった。
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しかし、この暗の檻に閉じ込められた今なら、夫の図がありありと分かった。 あのは、自分がくなった、息子の目が欲に眩み、私を裏切るこのが来ることを、すべて予見していたのだ。
私はそのラジオを枕元に置き、付属のイヤホンをにつけたまま、1「カチ、カチ」ともなくボタンを押しながら、ベッドのでバカのように座り続けた。 廊を通り過ぎる介護士たちは、私のその姿を見て、で笑いながらヒソヒソと囁きった。 「おい見ろよ、あのおばあさん、認症になってから1、あの壊れたラジオばっかりいじり回してるぜ。完全にボケてやがるな」
(……壊れてなんかいないよ、おたち) ダイヤルが「カチッ」と鳴るたびに、介護士たちが廊で話している「費の横領」の話が、護師が話で部に報告している「偽の診断」の々しい肉声が、寸分の狂いもなく、ラジオの内部の記録媒体へと酷に刻み込まれていった。
夜が更けると、本当の「職の仕事」が始まった。 の老たちの苦しいいびきの音だけが響き渡る病で、私は布団をまですっぽりとかぶった。 そして、半纏の裏の縫い目を、指先の覚だけで慎に辿っていった。 の内ポケットには、夫がに自ら彫刻刀で私の名の文字を彫り込んでくれた、本物の「佐々実印」
の原本。 の内ポケットには、夫がくなる3ヶに、公証役で確定付をしっかりともらっておいた、孫娘の桜を唯の受益者とする「信託契約」
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