"半纏に縫われた遺言" 第10話
の原本。 そして、半纏の裾の、のわずかな隙のには、ビニールで頑丈に包んだ、い鉛とさな帳。
3つとも、連に気づかれることなく、無事に元に残っていた。 揃いな縫い目を針ずつ確かめるたびに、夫の器用なの温もりの残る糸が、私の指先を通じて優しく語りかけてくるようだった。 『丈夫だ、よし子。あとしだけ、耐えるんだぞ』と。
私は懐から帳を取りすと、トイレの微かなの漏れる隙で、毎欠かさず記録を残し続けた。 付、朝の粗末な献、護師がにした審な言葉、無理やり薬をまされそうになった正確な回数。 狭いのに、びっしりと鉛の文字をき込んだ。 暗のでの執だったため、字は激しく乱れていたが、付とだけは秒単位の正確さで記し続けた。 この帳の記述が、々法廷という台で、どれほどな、覆せないみを持つことになるか。 40、着物のの寸法をミリ単位で厳密に測り続けてきた私には、痛いほどよく分かっていたのだ。
入所してから1週ほどが経った頃、院が数の護師を引き連れて、病の巡回へとやってきた。 彼が履いている、級な黒い革靴が廊を歩く「コツ、コツ」という傲な音だけで、部の介護士たちは斉に姿勢を正した。
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院は私のベッドのでピタリとち止まり、元のカルテをたい目で眺めてから、横の護師に尋ねた。 「例の老の、投薬の反応はどうだ?」 「はい、毎朝素直に薬をんでいます。特に暴れるような拒絶反応はなく、しくしています」 護師は、私が薬をちゃんと喉の奥へみ込んでいると、自信満々に報告した。 もちろん、その薬は毎朝便器のに消えていたのだが、彼女はその真実を微もらなかった。
院は満そうにく頷くと、周囲に聞こえるような声で酷に付け加えた。 「そうか。息子夫婦が、毎かなりの額の管理費を当院に振り込んできているからな。……まあ、なない程度に、薬をませてかしておけ」 (なない程度に、だって……?) 院のその言葉が、私の元でガラスのように激しく砕け散った。
私はベッドので、院のギラギラとる黒い革靴の先を、よだれを垂らしたバカのような目で見げながら、ので何度も静かに繰り返した。 (おが今履いている、その偉そうない靴をねえ、引きずりろされるも、そうくないからねえ……)
それから数の午だった。 廊で、あの護師が部からの話を受けているい声が聞こえてきた。 私は子に座ったまま、をわざとガクリと傾け、居眠りをしているふりをしながら、全神経をそのへと集させた。
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「はい、はい、もしもし。ええ、奥様。お母様は現、完全に疎通は能な状態でございます。……はい、売却用の類に添付するための『度認症診断』は、本付けでそちらへ発送いたしました」
話の向こうの「奥様」と呼ばれた物が、嫁の美であることは、言うまでもなかった。 臓がドキンとたく落ち、次の瞬には、激しいりで血がく燃えがった。 これこそが、連の本当の目だったのだ。 健康な母親を疎通能の廃に仕てげ、病院から偽の診断を発させ、それを基に偽造した委任状を作りげ、浅のを引に売り払う。すべては、そのための汚い犯罪のシナリオだった。
私は、膝ののラジオの音量ダイヤルを、美たちに気づかれないよう、半纏の袖のでそっと引っ張った。 カチッ。 護師は、私がまた壊れたラジオをおもちゃにしていじり回していることなど、瞥しただけで全く気にも留めなかった。
それから2の朝、あの護師が、指印を捺させるための赤い朱肉の容器を持って、私のベッドへとにづいてきた。 「お母さん、追加の類に指印を押す必がありますから、を貸して」と言って、私の腕を引に掴み取ろうとした。 また何の類かは、類のタイトルを見なくてもらかだった。
の売買契約をさらにめるための偽造類だ。
私はその瞬、体を激しくよじり、ズボンの股の部分を叩いて、尿を漏らしてパニックを起こした老のふりをした。
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