"半纏に縫われた遺言" 第17話
私は、鉄格子の向こう側の真っ暗なを、朝が来るまでじっと見つめ続けた。 目に見えないところで、夫の遺した糸が、針ずつ、綺麗に繋がっていくのをじていた。
その頃、京の浅にある息子夫婦の自宅は、文字通りの「獄」と化していたことだろう。 これは、すべてになってから、田健弁護士のから詳しく聞いた話である。 息子の裕が経営していた会社での、巨額の横領の疑いが融当局に察される直であり、自宅の固定話には、融からの容赦のない督促の話が、1に何件も鳴り響いていたという。 曜の、私のを使った偽の産売買契約が失敗すれば、のすべてが破滅する極限の状況だったため、裕と美の神経は、剥きしの刃物のを素で歩くかのように、異常なまでに毛羽っていた。
毎晩のように、居で「おのせいでこうなったんだ!」「うるさい、役たず!」と、皿を壁に投げつける音が響き、お互いを激しく罵りう鳴り声が、い壁を伝って、12歳になる孫娘の桜の部へとたく染み込んでいった。 桜は、両親の狂気じみた鳴り声から逃れるように、部のドアに内側から鍵をかけ、ベッドので布団をからかぶって、ガタガタと全を激しく震わせていた。 居でガラスの割れる鋭い音が響き、美が切り声をげて叫ぶのが聞こえるたび、桜はを両でく塞ぎ、枕に顔をく埋めて涙を流した。
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これもで、桜が私の膝ので直接聞かせてくれた話である。
その激しい諍いの夜、桜は、私が黒いセダンに乗せられて奥へ連れられる直、彼女の元で残した、あのい囁きをいした。 『桜……あなたの部の押入れの、番奥にお菓子の缶箱があるの。おばあちゃんが帰ってくるまで、何があっても絶対にけちゃダメだよ』 しかし、おばあちゃんは1ヶ以経ってもへ帰ってこず、両親の喧嘩はにに狂気を増していく。 (おばあちゃんはけるなと言ったけれど……今こそ、あの箱をけるべきなんだ……!) 子供の野のような本能が、今がその瞬であることを察した。
桜はベッドから起きがり、押入れの引き戸を静かにけ、用の分い布団のに隠されていた、古びた缶入りのお菓子の箱を両で引っ張りした。 蓋をける彼女の指先は、緊張で激しく震えていた。 缶の蓋をけると、にはお菓子の代わりに、すでに契約が済まされ、いつでも通話ができる状態のプリペイド式のガラケーが1台と、数枚の1万円札が綺麗に収められていた。 そしてそのには、枚の折りたたまれたいが入っていた。 そこには、私の職の乱れた跡で、こうかれていた。 『桜、お父さんとお母さんが完全におかしくなって、が怖くなったら、すぐにこの携帯話の縮ダイヤルの「1番」
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を押しなさい。おばあちゃんが遣わした、信頼できるおじさんが、あなたを必ず助けに迎えに来るからね』
桜は溢れる涙を袖で拭いながら、ガラケーの「1番」のボタンをく押し、受話器をに当てた。 プルルル、プルルル。 呼びし音がわずか2回鳴ったところで、ガチャリと音がして、受話器を取る男の声が響いた。 『もしもし、桜ちゃんかい……!? 怖がらなくていい、私はおばあさんの息子の代わりのような者だ。今すぐ、お気に入りの荷物だけをカバンにまとめて、マンションのので待っていなさい』 話にたのは、田健弁護士だった。 鉄男からラジオの記録媒体を受け取り、すべての犯罪の状況を把握した田健は、私が桜の元へと残しておいた予備の携帯話の着信番号を事に確認し、子供からの救求のサインを、24体制で待ち構えていたのだ。
桜は、自分の部からお気に入りのウサギのぬいぐるみと、以私が彼女のために端切れで作ってあげた、さな絹の半纏だけを両でく抱き締め、夜けのいがち込めるマンションののへと、に歩いて向かった。 暗のの向こうから、田健の運転するが、ヘッドライトを完全に消したまま静かにづいてし、助席のドアがいた。
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