"半纏に縫われた遺言" 第18話
子供は、吸い込まれるようにして部座席へと乗り込んだ。 ドアがバタンと閉まった瞬、緊張の解けた桜はワンワンと声で泣きし、田健はバックミラー越しに子供の泣き顔を見つめながら、断固とした優しい声で語りかけた。 『もう丈夫だ、桜ちゃん。今から、おばあさんのところへ連れてってあげるからね』
この連の来事を、になってすべて田健のから聞いた、私は裁の作業台ので、しばらく何も言葉を発することができなかった。 桜が夜けの恐ろしい暗の、たったでマンションののにって震えていた、まさにその。 私は栃の奥の、あの狭い病のベッドので、ただ井の格子模様を見つめていたはずだった。 ぬいぐるみと絹の半纏だけをさな腕に抱き締め、いのにポツンとっていた12歳の子供の姿が、ありありと目のに浮かびがった。 その景を像するだけで、母親としての胸が張り裂けそうなほどの激しい痛みに襲われた。 しかし同に、桜が連のから無事に保護されたこと、そして田健が私の代わりに子供を完璧に守ってくれているという事実が、私にとって、この檻のでの戦いを完全に終わらせるための、最の決定な力となったのだ。
広告
ついに、決戦の曜の朝が到来した。 朝6の起のブザーが鳴り響いた瞬から、施設内の空気は、これまでとはらかに異なっていた。 廊をき交う護師たちの取りは異常なまでに慌ただしく、ナースステーションの付でひそひそと固まって話す職員の声が、いつもよりらかにかった。 昨夜から、私はもしていなかった。 田健が今どこでいているのか、保護された桜が本当に無事なのか、部の報が何も分からないまま、私はベッドので静かに夜けを迎えた。 半纏の裏の揃いな縫い目に指先でそっと触れながら、私は国の夫に向かって、のでく祈り続けた。 (……あなた。今、今ですべてを終わらせておくれかねえ)
午9頃だった。 病の製のドアが、バタンときな音をてていた。 院が、を着た2の屈な男性護師を従えて、私のベッドのへとに歩み寄ってきた。 院の顔には、普段の余裕のある表はなく、異様な緊張が漂っていた。 そして彼のには、透な怪しい液体がたっぷりと入った、太くてきな注射器がしっかりと握られていた。 臓がドきりときくねがった。
院は、ベッドのの私を見ろし、酷な笑みを浮かべて言い放った。 「佐々よし子さん。
広告
今はいよいよ、息子さん夫婦が都の級料亭の個で、産業者と浅のの売買契約を交わす、おめでたいですよ。契約が無事にすべて終わるまでの、あなたにはこの特製の薬を打って、ベッドので静かに眠っていてもらいますからね」 院の声は努めて落ち着いていたが、その差しの奥には、切の反抗を許さないという、たい脅迫の響きが満ち満ちていた。
男性護師の2が、私の両腕をベッドので引に掴みげ、半纏の袖を乱暴にまくりげた。 院のにする注射器の、鋭いの針の先端が、井のい蛍灯のを反射して、キィンと気にギラついた。 (あの力な精神薬を体内に打たれたらねえ、丸1は確実に識を失って廃のようになってしまう……。そのに、裕と美が偽造した委任状を使って、浅のを完全にのに売り払ってしまうんだ……!)
注射器の針の先が、私の剥きしの腕の皮膚に触れようとした、まさにその瞬だった。 私は全の筋肉を激しく直させ、癲癇の発作を起こしたかのように、ベッドのからのへと激しく転がり落ちた。 のコンクリートに腰とお尻を烈に打ち付け、ズキンとする激しい激痛が背骨を駆けがったが、私はそれを無して、狂ったように叫び声をげながら、をめちゃくちゃに振り回してバタつかせた。
「嫌だぁぁ! 蛇がいるぅぅ! 蛇が私を殺しに来たぁぁぁ!」
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
二十人分の祝い膳を押しつけられたので、家を出ました
義母から「家族のお祝いだから」と押し付けられたのは、二十人分の料理作りと高額な費用負担。 夫も義妹も、私を一人の家族ではなく、都合よく使える存在として扱っていた。 五年間、我慢し続けた嫁・美咲は、ある決断をする。 それは、義妹の息子の一歳祝いの前日に、すべてを捨てて家を出ることだった。 しかし、静かに準備を進める中で、美咲は夫と義母が隠していた驚くべき事実を知る。 そこには、単なる身勝手な家族関係では終わらない、彼女を縛り続けるための計画が隠されていた。 そして迎えた祝いの日。 親戚二十人が待つ食卓に残されたのは、豪華な料理ではなく、誰も予想しなかった「空っぽの祝い膳」だった。 奪われ続けた人生を取り戻すため、美咲が選んだ静かな反撃とは――。嫁姑|親子関係|修羅場2.2万字5 284 -
完結第16話
十字の紙片と売られた生家
「母さん、老人ホームに入れ。この家も売る」息子夫婦はカナダ移住を前に、相場の半値以下の査定書と山奥の隔離施設のパンフレットを突きつけてきた。共働きで多忙な彼らに代わり、十年間孫娘を育て上げ、遺産から数百万円を用立ててきた私への仕打ちがこれだった。絶望に沈む私の手に、高校生の孫娘が震えながら押し込んだのは、固く折られた「十文字のチラシの紙片」。「明日の朝までに、実印と通帳は絶対に渡さないで」。深夜二時、一人で開いたその紙には、全てを覆す戦慄の計画が記されていた。私は仏壇の隠し金庫に手を伸ばし――。祖父母と孫|介護2.4万字5 426 -
完結第16話
血染めの写真と三文字のSOS
夕方のコンビニの床に落ちていた一枚の写真。微笑む少女の横には、まだ乾ききっていない赤黒い生血がべっとりと付着していた。 裏返した瞬間、息が止まる。震える筆跡の住所と、指先の血で擦り付けられた『SOS』の三文字。 妻に捨てられ、八歳の息子と写真館を営む私には分かった。この血は付着して数分も経っていない――今すぐ行かなければ手遅れになる。 警察に通報し駆けつけた古い民家の階段下には、右足を骨折し倒れ伏す母親と、自らの手のひらを切り裂いた六歳の少女がいた。 「……だれ?」 母を庇い、血まみれの手で私を睨み据える少女の瞳が訴えていた、あまりに残酷な真相とは。親子関係|金銭問題2.4万字5 199 -
完結第19話
深夜2時、隣家の物置で赤ん坊を抱く4歳児
心臓の不整脈で消防士を辞め、故郷の民宿「緑海荘」へ戻った27歳の相馬蒼太。 ある深夜2時、隣家から突然途切れた赤ん坊の泣き声に異変を感じて駆けつけると、物置のような暗い部屋で、全身に青あざを負った4歳のひなが、痩せた妹メイを必死に抱いていた。 「泣いたらまた叩かれるんですか?」――その一言に、蒼太は2人を必ず守ると決意する。民宿へ連れ帰り、常連客の旅行ライター・りんや両親と共に食事と温かな寝床を与え、児童相談所へ連絡。 しかし保護の朝、ひなは「お兄ちゃんと離れたくない」と蒼太の服を握りしめる。初めて見る海の前で、ようやく声を上げて泣いた少女を前に、蒼太とりんは“助ける”だけでは終われない未来を選び始める――。親子関係|修羅場2.8万字5 251 -
完結第23話
義母が突然、結婚指輪をくれた
夫が亡くなった日、義母は「もう家族じゃない」と私と娘を雨の中に追い出した。それから二年、一度の連絡もなかった義母が娘の小学校入学を控えた夕暮れ、四十年間外さなかった結婚指輪を私の指に無理やり嵌めて頭を下げた。翌日、親族が集まる祝いの席で和解を受け入れようとした私の前で、義母は冷たい笑みを浮かべ、夫が生前に娘の氏の変更書類を用意していたのではないかと問い詰めてきた。私の手の中で箸が止まった。裡切られた|祖父母と孫|嫁姑|親子関係|修羅場3.5万字5 127 -
完結第20話
長女にだけ渡された鍵
父の四十九日。「お前が一番しっかりしている」と病床の父から金庫の鍵を託された長女の私は、弟と妹の前で鉄の扉を開けた。だが中にあった私の通帳は残高一万円で、二百八十万円あった預金は弟の名義で全額引き出されていた。問い詰める私に弟は「親父に頼まれた」と父の直筆の手紙を突きつけ、妹も父と交わした別の密約を叫び始める。そこへ男が現れ、父が実家を担保に借りた五百万円の借用書を突きつけてきた。裡切られた|兄弟姉妹|相続|金銭問題|修羅場3.0万字5 92 -
完結第21話
母がナイフで砕いた自分の名前
母の七十歳の祝いで、私は家族に尽くし続けた母に自分の人生を取り戻してほしい一心から、ケーキのプレートに書かれた夫の姓を削り落とし、母の旧姓を書き直した。これで母は喜んでくれるはずだった。しかし母は青ざめ、「誰が戻りたいなんて言ったの」と私を睨みつけると、ナイフを掴んで自分の名前を何度も突き刺し粉々に叩き割った。家族全員から責め立てられた私は、母の部屋で底面を無残に削り取られた大量の人形を見つける。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係|修羅場3.1万字5 137 -
完結第19話
棺の中の男を、夫は知らない
親を捨てて逃げた冷酷な男だと親族中から罵倒される義兄の葬儀で、義母は涙を流し、夫を支えの孝行息子だと称えていた。だが焼香台へ進む夫の前に立ちはだかった私は、「あなた、本当に棺の中にいるその人を知っているの」と告げた。夫が隠していたのは、過去五年間、毎月義兄へ送り続け、そのたびに全額突き返されていた六十回分の送金記録だった。血の気を引かせる夫と親戚の前で、私はその明細を祭壇の上に広げた。兄弟姉妹|親不孝|絶縁|親子関係|修羅場2.8万字5 88 -
完結第21話
妹のドレスを二十センチ切った
妹の結婚式を数時間後に控えた深夜二時、私はリビングで特注のウェディングドレスに裁ち鋏を入れた。事故で右足に傷が残る妹に対し、相手の家族は配慮という名目で足を隠す重いドレスを強要し、当日は動かず座り続けるよう言い含めていた。母の怒声が響き、私の頬に平手打ちが飛ぶ。泣き崩れる妹の足元には、前裾だけが二十センチ切り落とされた純白の布が散らばっていた。私は鋏を置き、「今日これを着て出なさい」とだけ告げた。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場3.1万字5 94