"半纏に縫われた遺言" 第20話
そのが、今の勝利を祝福してくれているかのように、妙に眩しかった。 筋のい涙が、私の目尻から米かへと伝わり、のろへと静かに流れ落ちていった。 着ている半纏の裏のから、夫が遺してくれた本物の実印と、信託契約の原本が、私の肋骨の横にゴツリと当たり、その確かなを主張していた。 (……あなた。あなたの仕組んでくれた計画がねえ、今、針ずつ、本当に現実の形になっているよ……)
病のの空気が、完全にピタリと止した。 のに注射器を落とした院の腕は、空気でれに固まったままかず、私の腕を掴んでいた護師たちは、捜査官たちの威圧に押されるようにして、仕方なく壁際へとずさりしていった。 特別査察班の黒い防刃ジャンパーを着た男たちが、狭い4部の方を完全に包囲すると、部のは瞬にして、警察の暗証番号や無線の緊迫した音で杯になった。 隣のベッドのおばあさんが、毛布の隙から怯えたような、しかし何が起きたのかを察したような目で、じっとこちらを見つめていた。
私は、まだのに横たわったままだった。 井の蛍灯が、私の界のでゆらゆらと揺れているように見えたが、本当に揺れていたのは、堵のあまり震えていた私の界の方だった。
広告
査察班の責任者の男が、院の先に、真っ赤な公印の押された「捜索差押許状」の面を、きく広げて突きつけた。 「院。貴殿に対し、介護付費の巨額の正請求、医療法違反、齢者の法監禁、および薬物を用いた度障害未遂の疑いで、令状がている。捜査に協力してもらおうか」
院の額から、粒の脂汗が滝のようにボタボタと流れ落ちた。 彼のが、スーツの内ポケットの、美から受け取ったであろう「裏の入ったい封筒」の所を、無識のうちにく押さえつけた。 彼の瞳は、恐怖でに激しく泳ぎ、突如として、狂ったように声を張りげた。 「な、何を言うんだ! この老は、内からも見放された、度のアルツハイマー型認症の末期患者だぞ! 私は、保護者の法な同に基づいて、正当な医療為をっていただけだ!」
院は必に叫び散らしたが、その声は完全に枯れて、れに裏返っていた。 40、浅ので、様々なの目を見てきてきた私には、その男の瞳の奥に浮かんだ恐怖の正体が、はっきりと見て取れた。 それは、自分がこれまで悪事を働いて築きげてきた偽りのが、音をてて瞬で崩れ落ちていくのを、ただ見つめることしかできない、極限に追い詰められたの目だった。
田健が、のの私の目のへとゆっくりと歩み寄ってきた。
広告
彼の黒い防刃ジャンパーの肩には、夜を徹してをらせてきたためか、のい埃がく付着しており、その両目は、激しい疲労のせいで真っ赤に充血していた。 彼が昨夜からもせず、私のためにき続けてくれていたことは、誰の目にもらかだった。 男らしい顎には、剃り残した黒い髭がポツポツと無骨に伸びていた。 田健は、私ののたいコンクリートのに自ら膝をつくと、のに散らばった私の乱れた髪を、きなで優しく、丁寧にえてくれた。
その彼の指先は、細かく震えていた。 の苦労で荒れ果てた私のの甲に、田健の温かい涙が、ポタリと滴、静かに落ちるのがじられた。 越しに伝わるその青のの温もりに、この1ヶ、たい檻ので氷のように頑なに凍りついていた私のの奥底が、みるみるうちに温かく溶かされていくようだった。 「……お母さん、遅くなってしまって、本当にすみませんでした。……どれほど、どれほど恐ろしく、辛いいをされてきたことか……」
田健の目は真っ赤に染まり、その声は激しく震えていた。 15、浅の仕ての片隅で、お腹を空かせてい定を貪りっていた、あの実直なの瞳が、42歳の名な弁護士になった今もなお、その奥底にはっきりとき続けていた。
この正義のい青が、鉄男から渡されたラジオの内部の記録媒体の音声を、事務所のスピーカーで聴いた、どれほどの激しい憤りと、私への申し訳なさで胸を痛めたか。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
二十人分の祝い膳を押しつけられたので、家を出ました
義母から「家族のお祝いだから」と押し付けられたのは、二十人分の料理作りと高額な費用負担。 夫も義妹も、私を一人の家族ではなく、都合よく使える存在として扱っていた。 五年間、我慢し続けた嫁・美咲は、ある決断をする。 それは、義妹の息子の一歳祝いの前日に、すべてを捨てて家を出ることだった。 しかし、静かに準備を進める中で、美咲は夫と義母が隠していた驚くべき事実を知る。 そこには、単なる身勝手な家族関係では終わらない、彼女を縛り続けるための計画が隠されていた。 そして迎えた祝いの日。 親戚二十人が待つ食卓に残されたのは、豪華な料理ではなく、誰も予想しなかった「空っぽの祝い膳」だった。 奪われ続けた人生を取り戻すため、美咲が選んだ静かな反撃とは――。嫁姑|親子関係|修羅場2.2万字5 284 -
完結第16話
十字の紙片と売られた生家
「母さん、老人ホームに入れ。この家も売る」息子夫婦はカナダ移住を前に、相場の半値以下の査定書と山奥の隔離施設のパンフレットを突きつけてきた。共働きで多忙な彼らに代わり、十年間孫娘を育て上げ、遺産から数百万円を用立ててきた私への仕打ちがこれだった。絶望に沈む私の手に、高校生の孫娘が震えながら押し込んだのは、固く折られた「十文字のチラシの紙片」。「明日の朝までに、実印と通帳は絶対に渡さないで」。深夜二時、一人で開いたその紙には、全てを覆す戦慄の計画が記されていた。私は仏壇の隠し金庫に手を伸ばし――。祖父母と孫|介護2.4万字5 426 -
完結第16話
血染めの写真と三文字のSOS
夕方のコンビニの床に落ちていた一枚の写真。微笑む少女の横には、まだ乾ききっていない赤黒い生血がべっとりと付着していた。 裏返した瞬間、息が止まる。震える筆跡の住所と、指先の血で擦り付けられた『SOS』の三文字。 妻に捨てられ、八歳の息子と写真館を営む私には分かった。この血は付着して数分も経っていない――今すぐ行かなければ手遅れになる。 警察に通報し駆けつけた古い民家の階段下には、右足を骨折し倒れ伏す母親と、自らの手のひらを切り裂いた六歳の少女がいた。 「……だれ?」 母を庇い、血まみれの手で私を睨み据える少女の瞳が訴えていた、あまりに残酷な真相とは。親子関係|金銭問題2.4万字5 200 -
完結第19話
深夜2時、隣家の物置で赤ん坊を抱く4歳児
心臓の不整脈で消防士を辞め、故郷の民宿「緑海荘」へ戻った27歳の相馬蒼太。 ある深夜2時、隣家から突然途切れた赤ん坊の泣き声に異変を感じて駆けつけると、物置のような暗い部屋で、全身に青あざを負った4歳のひなが、痩せた妹メイを必死に抱いていた。 「泣いたらまた叩かれるんですか?」――その一言に、蒼太は2人を必ず守ると決意する。民宿へ連れ帰り、常連客の旅行ライター・りんや両親と共に食事と温かな寝床を与え、児童相談所へ連絡。 しかし保護の朝、ひなは「お兄ちゃんと離れたくない」と蒼太の服を握りしめる。初めて見る海の前で、ようやく声を上げて泣いた少女を前に、蒼太とりんは“助ける”だけでは終われない未来を選び始める――。親子関係|修羅場2.8万字5 251 -
完結第23話
義母が突然、結婚指輪をくれた
夫が亡くなった日、義母は「もう家族じゃない」と私と娘を雨の中に追い出した。それから二年、一度の連絡もなかった義母が娘の小学校入学を控えた夕暮れ、四十年間外さなかった結婚指輪を私の指に無理やり嵌めて頭を下げた。翌日、親族が集まる祝いの席で和解を受け入れようとした私の前で、義母は冷たい笑みを浮かべ、夫が生前に娘の氏の変更書類を用意していたのではないかと問い詰めてきた。私の手の中で箸が止まった。裡切られた|祖父母と孫|嫁姑|親子関係|修羅場3.5万字5 127 -
完結第20話
長女にだけ渡された鍵
父の四十九日。「お前が一番しっかりしている」と病床の父から金庫の鍵を託された長女の私は、弟と妹の前で鉄の扉を開けた。だが中にあった私の通帳は残高一万円で、二百八十万円あった預金は弟の名義で全額引き出されていた。問い詰める私に弟は「親父に頼まれた」と父の直筆の手紙を突きつけ、妹も父と交わした別の密約を叫び始める。そこへ男が現れ、父が実家を担保に借りた五百万円の借用書を突きつけてきた。裡切られた|兄弟姉妹|相続|金銭問題|修羅場3.0万字5 92 -
完結第21話
母がナイフで砕いた自分の名前
母の七十歳の祝いで、私は家族に尽くし続けた母に自分の人生を取り戻してほしい一心から、ケーキのプレートに書かれた夫の姓を削り落とし、母の旧姓を書き直した。これで母は喜んでくれるはずだった。しかし母は青ざめ、「誰が戻りたいなんて言ったの」と私を睨みつけると、ナイフを掴んで自分の名前を何度も突き刺し粉々に叩き割った。家族全員から責め立てられた私は、母の部屋で底面を無残に削り取られた大量の人形を見つける。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係|修羅場3.1万字5 137 -
完結第19話
棺の中の男を、夫は知らない
親を捨てて逃げた冷酷な男だと親族中から罵倒される義兄の葬儀で、義母は涙を流し、夫を支えの孝行息子だと称えていた。だが焼香台へ進む夫の前に立ちはだかった私は、「あなた、本当に棺の中にいるその人を知っているの」と告げた。夫が隠していたのは、過去五年間、毎月義兄へ送り続け、そのたびに全額突き返されていた六十回分の送金記録だった。血の気を引かせる夫と親戚の前で、私はその明細を祭壇の上に広げた。兄弟姉妹|親不孝|絶縁|親子関係|修羅場2.8万字5 88 -
完結第21話
妹のドレスを二十センチ切った
妹の結婚式を数時間後に控えた深夜二時、私はリビングで特注のウェディングドレスに裁ち鋏を入れた。事故で右足に傷が残る妹に対し、相手の家族は配慮という名目で足を隠す重いドレスを強要し、当日は動かず座り続けるよう言い含めていた。母の怒声が響き、私の頬に平手打ちが飛ぶ。泣き崩れる妹の足元には、前裾だけが二十センチ切り落とされた純白の布が散らばっていた。私は鋏を置き、「今日これを着て出なさい」とだけ告げた。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場3.1万字5 94