"半纏に縫われた遺言" 第25話
私は、襖の製の取っにをかけ、力を込めた。 夫が昔、仕事で針に糸を通して渡してくれたの、あののぬくもりが、脳裏に鮮烈に蘇った。 取っの肌は氷のようにたかったが、半纏の内側の綿の温もりが、私ののひらへとじわりと伝わってくるようだった。 私は、襖を横へとすっといた。
引き戸が滑らかな音をててき、個ののるいが面に現れた。 畳ので項垂れていた裕が、気配を察してガバと顔をげた。 そして私を見た瞬、彼の両目は、窩からびさんばかりに極限まできく見かれ、あまりの恐怖に、座っていた子ごとろの障子へと激しくひっくり返った。 の畳にお尻を烈に打ち付け、転がった息子のから、掠れた、けない声が漏れた。 「……お、お母さん……っ!? なんで、なんでここに……!?」
奥の介護施設に完全に幽閉したはずの、何も分からない認症の老が、今、浅の料亭の個のに、背筋を真っ直ぐに伸ばしてっているのだ。 連にとっては、獄から蘇った幽霊でも見たかのようだったろう。 裕の顔からは血の気が完全に引き、その唇はフルフルと細かく震えていた。 錠をかけられた両をの畳につけたまま、彼はちがることすらできず、怯えた目で私を見げていた。
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3の父親の回忌の法事の、わずか20分で逃げるように帰っていった息子が、今はに無様に転がり、私の顔を恐怖に怯えながら見げている。 その瞳には、己の犯罪が完全に見したことへの恐怖と、親に対する凄まじい羞恥が、複雑に入り混じっていた。 美が、錠をかけられた両を振り回しながら、周囲の捜査官たちに向かって狂ったように叫び散らした。 「警察の方、騙されないで! 話しなさいよ! うちのお母様は、病院からも診断がている、完全な末期の認症患者なのよ! そこの田っていう悪徳弁護士が、お母様を騙して委任状を奪おうとして、病院から老を勝に誘拐してきたのよぉーっ!」
最まで見苦しく悪あがきを続ける、嫁の切り声が部に響き渡った。 私は美のその醜い瞳を、い位置から真っ直ぐに見ろし、静かにをいた。 「……うるさいよ、あんた」
私の徹な、分の狂いもない鋭い声が、個のにく響いた。 「40、浅の仕事で、静かに着物の針仕事をしてきた私のにはねえ……あんたのその汚い声を聞くだけで、最級の絹のにねえ、ウジ虫が湧くような気がするよ」
部のが、瞬にして静まり返った。 喚いていた美の声がピタリと止まり、捜査官たちの線が斉に私へと注がれた。
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美のは、ぽかんときくいたまま、度と閉じられることはなかった。 栃の奥の施設で、「へへへ」と声を漏らし、おかゆのご飯粒をの周りに付けながら徘徊していたあの老のから、これほどまでに辛辣で、確な職の言葉が放たれるとは、にも像していなかったのだろう。
捜査の責任者である特捜部の男が、私のへとゆっくり歩み寄り、証拠品袋に入った売買契約を指差して尋ねた。 「佐々よし子さん。確認ですが……このにいる息子の裕さんに対し、浅の産を売却するための委任状を作成し、実印を渡された事実はありますか?」
私は、その質問には声では答えなかった。 言葉よりも、で示すべき決定な仕事が、私にはまだ残されていたのだ。 私はテーブルのへと、歩ずつゆっくりとづいていった。のの裕と美が、恐怖に怯えながら私の元を見げていた。 私は、自分が着ている古い黒い半纏の、裾の端の部分を両で掴み、ピンと直線にく張ってみせた。
夫の指の油と、ナフタリンの匂いがまだく染み付いている、あの最級の絹の裏が、私の本の指先に触れた。 40、何千着、何万着もの美しいを仕てげ、そのために何万回、何万回も糸を解いてきた職のだった。
しかし、今回の糸は、これまでのどの着物の糸とも違っていた。 夫が病ので、器用な付きで、私のために針、針を込めて縫いげてくれた、この世で最もい「信頼の糸」
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