"半纏に縫われた遺言" 第28話
と、私を呼ぶ息子の絶望な叫び声が聞こえたが、私の体は、度とろを振り返ることはなかった。
1ヶ、栃のあの奥の施設で、母親を騙して檻のに閉じ込め、度もろを振り返らずにちったのは、息子の裕だった。 そして今、すべての真実を暴き、罪を犯した息子を見捨てて、度もろを振り返らずにっていくのは、母親の私だった。 因果応報とは、まさにこのことだった。
料亭の狭い階段をりる、の関節が激しくもつれ、私は両ですりをく掴まなければ、そのに転げ落ちそうになった。 膝の骨がガクガクと激しく崩れそうになったが、私は階段の途で座り込むことだけは、職のにかけて絶対に拒んだ。 誰も見ていない、暗い階段の踊りのにたどり着いた、私の両目から、していた粒の涙が、堰を切ったように気にこぼれ落ちた。 しかし、私は決して、声をして泣くことだけはしなかった。 が子が仕掛けた罠によって、奥の介護施設に見捨てられて幽閉されることよりも、自分の産んだが子に向かって、「の底まで落ちて破産しなさい」と言い放つことの方が、母親にとっては、何万倍も残酷で、辛い仕事だったからだ。
激しい嵐が、すべて過ぎったの夜だった。 裕と美の2が、私文偽造、同使、および詐欺未遂の現犯で警察に正式に逮捕され、彼らの自宅マンションが融のによって競売にかけられた、まさにそのの夜のことである。
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私は、霞が関にある田健弁護士の事務所の応接ソファに腰掛け、隣に座る桜と並んで、彼が買ってきてくれたお弁当の「のり巻き」を、静かにべていた。 その、事務所のデスクのの固定話が、静かな部にリンリンとけたたましく鳴り響いた。
話にた田健が、しだけ首を傾げながら、受話器を私の元へと無言で渡してきた。 「誰からだい?」と目で尋ねたが、田健も「さあ、分かりません」という顔をして首を横に振るだけだった。 私は議にいながら、受話器をに当てた。 すると、受話器の向こう側のい沈黙のから、聞き覚えのある、とてもさく震える子供の声が聞こえてきた。 『……おばあちゃん?』
桜の声だった。 私は驚いて、自分のすぐ隣のソファを見た。 ついさっきまで、私のすぐ隣で美しそうにのり巻きをべていたはずの桜の姿が、そこにはなかった。 子供は、私が裕たちの話をと交わしているのを察し、邪魔にならないよう、事務所のの廊の突き当たりにある、赤い公衆話のボックスまでこっそりとを運び、そこからこの事務所の番号へ、わざわざ話をかけてきていたのだ。
受話器の向こう側から、桜の震える声が続いた。 『おばあちゃん……。私ね、昔、おばあちゃんが私の誕に端切れで作ってくれた、あの絹の巾着袋のにね……お玉とか、お伝いして集めた100円玉を、ずっと切に貯めて持ってきてたの。
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……このお、全部おばあちゃんにあげるから、私、これからずっと、おばあちゃんと緒に暮らしてもいい……?』
子供の声は、涙を堪えるために細かく震えていた。 ズズッ、とをすするおしい音が、受話器の向こう側の械を通じて、私の鼓膜へとたく、しかし温広く届いた。 何もの彼女の誕に、仕事の余った級な絹の端切れを使って、私がミシンで縫ってあげた、さなさな巾着袋。 そのに、彼女が1枚、1枚、さなで集めて貯め続けてきた、無数の100円玉。 それこそが、12歳のこのな子供が持っている、の「全財産」のすべてだったのだ。 が子が持っているのすべての財産を、おばあさんのに差ししてでも、「私をにしないで、緒に暮らしてほしい」と、受話器の向こうで必に懇願しているのだった。
利欲に目を眩ませたお父さんやお母さんには、度も本当のを必とされなかった子供が、この老いたおばあちゃんにだけは、自分のを必としてほしかったのだろう。 受話器を握りしめる私のに、血が止まるほどのい力がこもった。 私の76のいので、最もく、最も激しい涙が、両目から気に溢れてへとこぼれ落ちた。
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