"銀の指輪の応募者" 第19話
涙は流さなかった。しかし、両を固く握りしめた彼女の拳は、くなるほどに激しく震えていた。25、自分の胸の奥底を黒く焼き尽くしていた、あの最悪の劇が、ついに、完全に終わりを迎えた瞬だった。
悪魔を完全に獄へ送り届けたふみ子は、ホールをるやいなや、のように付き従っていた秘の伊藤に、言だけ言い放った。
「……を回しなさい。病院へくわ」
ふみ子を乗せた黒い級乗用が、京の都を猛スピードで横切り、総病院のに滑り込むようにして止まったのは、それから30分も経たないうちだった。ふみ子はからりるから、すでにその両目を真っ赤に充血させていた。
25、誰にも見せることなくし続けてきた、母親としての烈な母性が、今や彼女の胸の奥底を突き破って溢れそうとしていた。
病院のい廊を歩く、ふみ子の力い靴音が響き渡る。
4階のVIP特別の、廊のいプラスチック子に座り、ハルトを優しく膝に抱いている、ユトの姿がそこにあった。何もまともに寝てもべてもいないせいで、彼の目のには濃い隈ができていたが、が子を抱きしめるその両腕だけは、信じられないほど力いものだった。
ユトは、廊の向こうから真っ直ぐに歩いてくるふみ子の姿を見つけ、驚いて席から勢いよくちがった。
広告
妻の莫な治療費を瞬で肩代わりしてくれた命の恩である財閥のトップが、自ら病院のこんな廊まで尋ねてきたのだ。ユトはく腰を折って、最級の敬を込めてをげた。
「会……! 体、私たちのような名もないに、どうしてこれほどまでの過分なご支援をくださるのですか? 私は、ただのしがない面接応募者に過ぎないのに……」
ユトの声は、激しく震えていた。借に苦しみ、をもれぬ命だった族のに、から突然ってきたような巨な救いのので、謝と、烈な疑問が入り混じり、彼ののは完全に混乱していた。
ふみ子は、ユトの目のに静かにった。彼女の唇が、ブルブルと激しく震えていた。涙が頬を伝って次から次へと流れ落ちるのも構わず、彼女は級スーツの内ポケットから、厳に封印された1枚の類を取りした。
あの、親子鑑定の遺伝子検査結果だった。
ふみ子はそのい類を、震える両で、ユトのにまみれてタコのできたゴツゴツとしたのに、そっと握らせた。ユトは呆然とした目のまま、渡されたその類を見ろした。
『川ふみ子と、田ユトの、総遺伝子致確率99.99%。親子関係の成を完全に確認』
その文字を見た瞬、ユトの界がぐにゃりと歪んだ。世界が、瞬にしてひっくり返ったかのような衝撃だった。
広告
に持った類が、ブルブルと音をてて激しく震える。
文字が涙でぼやけ、またくっきりと見えるのを、何度も何度も繰り返した。彼の臓が、鼓を忘れたかのように激しく鳴る。
親子関係、99.99%。
その文字が、彼のので爆発するように響き渡った、まさにそのだった。
ふみ子はもはや、を抑えることができず、喉から張り裂けるような、痛な鳴き声をげてユトにしがみついた。
「勇気……!! 私の……私があなたの、本当の母親よ……!!」
ユトの全が、カチリと完全に直した。
「あなたが、その薬指にはめている指輪はね……25に、私とあなたのお父さんが、永のを誓って作った、私たち夫婦の、世界に2つとない証なのよ……!」
ユトはをきくけたが、何の音もすことができなかった。目のにいる、本トップの企業の会が、でもない、自分の実の母親だなんて。
これまでので、自分を捨てた親の顔など見たくもない、度もむまいと、孤独に歯をい縛ってきてきたのに。自分は親に捨てられたのではなく、悪魔の謀によって、最の母親から引き裂かれ、奪われていただけだったなんて。
世界が、目のでぐるぐると激しく回転した。ユトの線が、ゆっくりと自分のの薬指へと落ちていった。
25、度も指からしたことのない、古びて褪せた、あのギザギザ模様のの指輪。
5歳で記憶を失い、児童養護施設に入るそのから、なぜか自分のにしっかりと握られていたという、この呪いのような指輪が、でもない、父と母のいの結晶だったなんて。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
不当解雇された高卒技術者の特許逆転劇
精密機械メーカーの技術者・中村誠は、高卒叩き上げであることを理由に、名門大卒のエリート上司・北川部長から「掃除とオイル交換しかできない無能な雑用係」と見下されていた。ある日、大口顧客向けの製品に二百個超の大量不良が発生。北川は自らの設定ミスを隠蔽し、誠を犯人に仕立て上げて責任を押し付ける。深夜に真相を暴くアクセスログのUSBメモリーを確保した誠だったが、直後に車に撥ねられ全治三ヶ月の重傷を負ってしまう。病室から連絡を入れると、北川は「好都合だ、クビにしておく」と嘲笑し電話を切った。だが誠が病室のベッドから特許庁へ出願した一枚の技術書類と、彼が去って完全沈黙した工場の製造ラインが、欺瞞に満ちた組織に前代未聞の崩壊をもたらす――。職場逆転|人生逆転2.5万字5 430 -
完結第14話
高卒エースを掃除係に落とした無能社長
大手玩具メーカーの営業エース・篠田零司は、高卒叩き上げながら十二年間にわたりトップの成績を維持してきた。だが、恩師である先代の矢吹会長が病で倒れ、新社長に就任した倉島哲也から全社報告会で突如「先月の達成率は三十パーセント、部内最下位のお荷物だ」と虚偽の数字で公開処刑される。強烈な学歴コンプレックスと嫉妬を燃やす倉島は、篠田を社長室の雑用係へと追いやったばかりか、彼が一年かけて心血を注いだ総額百億円の大型独占契約を故意に破談へ追い込む暴挙に出る。しかし、篠田の手元には「確定売上高一億四千二百万円」を証明する売上管理ファイルの原本が存在していた。理不尽の極みの中で静かに退職届を差し出した篠田。だが、現場の異変を察知した車椅子の矢吹会長が立ち上がり、握りつぶされた証拠が暴かれたとき、欺瞞に満ちた社長室に前代未聞の鉄槌が下される――。職場逆転|人生逆転2.9万字5 204 -
完結第11話
「子どもを産めない」と捨てられた妻の逆転
結婚前は優しく誠実だった夫・誠。 しかし結婚後、彼の本性は少しずつ姿を現していった。 子どもを望めない妻を「役立たず」と罵り、家では暴言を浴びせながら、自分は若い女性との時間を楽しむ。 かな子は「自分が悪いのだ」と耐え続け、愛した人との生活を守ろうとしていた。 だが、ある夜、夫の裏切りを示す決定的な証拠を見つける。 そして離婚を決意したかな子のもとに、長年知らされていなかった父からの連絡が届く。 そこで明かされたのは、彼女自身も知らなかった巨大な財産と、人生をやり直すための力だった。 すべてを失ったと思っていた妻が、実は何も持たない弱者ではなかったと知った時――。 誠の傲慢な要求と、隠されていた真実が次々と崩れ始める。 愛だと信じた結婚の終わりから、かな子の本当の人生が始まる。夫婦|第二の人生|不倫1.6万字5 397 -
完結第23話
締め出された新社長
父から印刷会社を継ぎ、代表取締役として誰よりも早く出社した初日の朝、私のカードキーだけが赤く点滅して通用口が開かなかった。清掃員や入社三カ月の新人、配送トラックが次々と通過していく中、古参の会計は「先代の指示で権限を削除した」と告げる。社内では判断を下せる者がおらず、営業と現場の怒号が響き合い、輪転機が完全に停止した。私は閉ざされたガラス扉の脇にパイプ椅子を置き、冷たい缶コーヒーを握りしめた。職場逆転|人生逆転|怒り|親子関係|修羅場3.5万字5 216 -
完結第14話
年商一兆円の父にワインをかけた婚約者
創業家の御曹司との顔合わせ当日。ボロ車で駆けつけた私の父を見た義母は、「貧乏人の娘が」と父の頭から赤ワインを浴びせかけた。婚約者も冷笑し、父を詐欺師呼ばわりしてロビーで土下座を迫る始末。 だが、父は一言も取り乱さず、静かにワインを拭った。 「この縁談はなかったことに」 指輪を投げ返し、父の向かった先は日本中が恐れる巨大財閥の最上階。傲慢な親子が信じていた“金と権力のルール”で、静かな断罪劇が幕を開ける。因果応報|人生逆転|金銭問題|修羅場2.1万字5 129 -
完結第13話
二十七年目の嘘
58歳で急死した夫の遺品を整理していた美智子は、引き出しの奥から27年前の「採用内定通知書」を見つける。当時不合格だと思い込んでいた東京の出版社からのものだった。封筒の裏には夫の筆跡で「辞退連絡済」。夫はなぜ私の人生を勝手に奪ったのか。さらに、夫の出世作となった伝説の住宅企画が、かつて自分が書いた企画ノートそのものだったことを知る。奪われた名前と人生を取り戻すため、妻が下した決断とは。人生逆転|夫婦|真実|第二の人生|親子関係2.0万字5 57