"父の残した翼" 第2話
昼、母の体を拭きながら私はさりげなく訪ねてみた。
すると母は瞬びっくりと肩を震わせ、私の顔をまともに見ようとせずに俯いた。
「いえ、おかげ様で。直さんはとてもよくしてくれるわ」
その声はか細く、どこか怯えているようにも聞こえた。
そして母の腕にいくつかしいあざのようなものがあることに私は気づいてしまった。
「お母さん、この腕、どうしたの?」
「ああ、これ子に移るに自分でぶつけてしまったのよ。最どうも注で」
母は慌てたように言って、袖のパジャマの袖を引いてあざを隠した。
その仕があまりにも自然で、私の胸に嫌な予がついた。
そして昨の夜、事件は起きた。
いつものように汗だくで戻ってきた直さんに、私は勇気を振り絞って尋ねたのだ。
「あなた、毎晩お母様の部で何をされているの?」
彼はいつものように「マッサージだよ」と答えた。
私は続けた。
「お母さんの部からうめき声が聞こえるわ。それに腕にはあざがあった。本当にマッサージだけなの?」
私の言葉に直さんの顔からすっと笑みが消えた。
彼の目に瞬たいが宿ったの、私は見逃さなかった。
「ゆみ、君は僕を疑っているのかい?」
静かだが、言い返させないい調だった。
「僕が君のお母さんを虐待でもしていると?僕がどんないで君との結婚を決めたか忘れたわけじゃないだろう。
広告
介護が必な母さんと君を守ると誓ったんだ。その僕を疑うのか」
彼の言葉は正論だった。正論だからこそ私は何も言い返せなかった。
私が違っているのかもしれない。夫の優しさを勝に歪んだ目で見ているだけなのかもしれない。
「ごめんなさい。私、疲れているのかも」
そう言うのが精杯だった。
直さんはきくため息をつくと、いつもの優しい夫の顔に戻っていった。
「疲れているんだよ。ゆみは昼はずっと母さんの介護をして、慣れない婚活で気も張っているんだろう。ごめんよ。僕がもっと気遣ってあげるべきだったね」
そう言って彼は優しく私のを撫でた。
そのは温かかったけれど、私ののざわめきは向に消えることはなかった。
翌朝私は決した。真実を確かめなければならない。
このままでは私は夫のことも母のことも、自分自さえも信じられなくなってしまう。
インターネットで型の隠しカメラを注文した。のひらに収まるほどさなそれは、幸いにも翌の午に届いた。
今夜夫が母の部へ向かった、あの部にこれを仕掛けよう。
そしてこの目で真実を確かめるのだ。
汗だくの夫、怯える母、そして毎晩聞こえる謎のうめき声。
その理由がもうすぐらかになる。
私は震えるでカメラを握りしめながら、ただ自分の信じていた常が根底から覆されるような結末でないことだけを祈っていた。
広告
のひらに収まるほどのさな黒いカメラを握りしめながら、私はこの 1 の来事をいしていた。
ほんの 1 まで、このには父のきな笑い声が響いていたのだ。
私の父、佐藤健は元のさなを経営する実直で優しいだった。
体はきくなかったけれど、その背はいつもきくて、私と母を静かに、そして力く守ってくれていた。
そんな父が昨あっけなく急逝してしまった。
「さあ、いつものようにってきます」とへ向かった父が、そのの夕方たくなって帰ってきた。
あまりにも突然の別れだった。
母の佐藤け子は葬儀の、粒の涙も見せなかったけれど、全ての儀式が終わり父のいない静かなリビングに 2 きりになった、母は糸が切れたように崩れ落ちた。
そしてその 1 週、母は脳梗塞で倒れた。
医師からは命は取り止めたものの、半に麻痺が残ると告げられた。
父を失ったしみと迫りくる現実のさに、私は目のが真っ暗になった。
私はすぐに勤めていたジムの仕事をやめ、母の介護に専することを決めた。
父が残してくれたこのとわずかな貯はあったけれど、これから先母と 2 でどうやってきていけばいいのかで胸が張り裂けそうだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第26話
特上寿司と、消えた妻の半年
3月31日22時、激務を終えて帰宅した私の席にあったのは、冷え切った白米一杯だけだった。目の前で1万8900円の特上寿司を頬張る夫と義母は、「反省したらおかずをあげる」と大笑いする。家計の大半を私が支えているにもかかわらず、9ヶ月間も「罰」として食事を奪われ、夫は横で嘲笑っていた。だが二人は知らない。私が半年かけて集めた出前明細の履歴と、義母が隠し持っていた一枚の申告書の存在を。「じゃあ、外で食べてきます」――二度と振り返らずにドアを閉めた夜、経理の私が仕掛けた冷徹な清算が幕を開ける。嫁姑|夫婦4.0万字5 466 -
完結第34話
妻の葬儀の夜、義母が外した指輪と娘の写真
妻・美保の葬儀が終わった夜、修二の結婚指輪を外したのは、亡き妻の母・麗子だった。「もう美保に隠す必要はないでしょう」と唇を寄せたその瞬間、娘・咲から1枚の写真が届く。そこには半年前の病院で抱き合う修二と麗子、そしてガラス越しに2人を見つめる病衣姿の美保が写っていた。 闘病中の妻を支える献身的な夫を演じながら、修二はいつしか自分の弱さを理解してくれる義母へ逃げ込み、越えてはならない境界を越えていた。しかも麗子は「美保も知っていた」「私がいなくなったら修二さんを1人にしないでと頼まれた」と主張し、その証拠となる録音まであるという。 だが翌朝、咲が告げたのは「お母さんの声を最後まで聞いて」という一言。 亡き妻が本当に残した言葉を前に、2人が都合よく信じてきた“許し”が崩れ始める――。夫婦|修羅場5.1万字5 613 -
完結第16話
四十九日の追放、母の隠し遺言
「十年世話しただけの妹に、実家の取り分はないわ」 母の四十九日、喪服の兄夫婦は親族の前で澄子を指差し、台所の冷えた板の間へ追いやった。信金を辞め10年間、720万円の私財を投じて母を看取った澄子に、兄は「今週中に出て行け」と冷酷に通告する。 母のキャッシュカードは7年前から兄が独占し、消えた年金は1240万円。 家財すべてが二束三文で業者に売り払われようとする中、母が50年愛用した古い足踏みミシンの奥底から、厳重に隠された「ある物」が滑り落ちた。 「その言葉、そっくりそのままお返しします」 あの日からちょうど49日後、審判の幕が上がる――。兄弟姉妹|修羅場2.3万字5 439 -
完結第16話
血染めの写真と三文字のSOS
夕方のコンビニの床に落ちていた一枚の写真。微笑む少女の横には、まだ乾ききっていない赤黒い生血がべっとりと付着していた。 裏返した瞬間、息が止まる。震える筆跡の住所と、指先の血で擦り付けられた『SOS』の三文字。 妻に捨てられ、八歳の息子と写真館を営む私には分かった。この血は付着して数分も経っていない――今すぐ行かなければ手遅れになる。 警察に通報し駆けつけた古い民家の階段下には、右足を骨折し倒れ伏す母親と、自らの手のひらを切り裂いた六歳の少女がいた。 「……だれ?」 母を庇い、血まみれの手で私を睨み据える少女の瞳が訴えていた、あまりに残酷な真相とは。親子関係|金銭問題2.4万字5 201 -
完結第15話
全盲の義母が言い当てた味噌汁の色
「お味噌、白味噌に変えたでしょう?」。11年前の事故で全盲になったはずの義母・かず子が、漆塗りの椀を抱えて微笑んだ。亡き実母への後悔から、365日欠かさず介護と手料理を捧げてきた嫁の私。だが翌朝、ゴミ袋の底から現れたのは、手つかずのまま無残に捨てられた私の料理と、1万8千円の銀座高級寿司やフレンチのデリバリーレシート30枚だった。夫は「お前の味付けが悪い」と冷笑し取り合わない。孤立無援の中、弁護士の助言を得た私はある罠を仕掛ける。そして勝手口の前で義母が放った「ある一言」で、11年間の嘘が音を立てて崩れ去る――。嫁姑|真相2.3万字5 3040 -
完結第22話
夜勤の救急外来に運ばれた夫と義姉
深夜2時、救急外来で夜勤中の看護師・佐藤み咲のもとへ、交通事故で重傷を負った男女2人が搬送されてきた。シーツの下にいたのは、夫・拓也と義姉・麗子。しかも2人は、決して「姉弟愛」では説明できない姿で倒れていた。 み咲は5年間、看護師という仕事を見下す夫と、「子供も産めない」と侮辱する麗子、その2人を庇い続ける義母・里子に耐えてきた。 それでも彼女は感情を捨て、看護師として2人の命を救うことを選ぶ。 だが、惨状を目にした義母まで「全部あなたのせい」とみ咲を罵倒した瞬間、最後の迷いは消えた。 何年も残してきた暴言の記録と証拠を武器に、奪われ続けた人生を取り戻す反撃が静かに始まる――。夫婦|修羅場|不倫3.3万字5 2951 -
完結第19話
深夜2時、隣家の物置で赤ん坊を抱く4歳児
心臓の不整脈で消防士を辞め、故郷の民宿「緑海荘」へ戻った27歳の相馬蒼太。 ある深夜2時、隣家から突然途切れた赤ん坊の泣き声に異変を感じて駆けつけると、物置のような暗い部屋で、全身に青あざを負った4歳のひなが、痩せた妹メイを必死に抱いていた。 「泣いたらまた叩かれるんですか?」――その一言に、蒼太は2人を必ず守ると決意する。民宿へ連れ帰り、常連客の旅行ライター・りんや両親と共に食事と温かな寝床を与え、児童相談所へ連絡。 しかし保護の朝、ひなは「お兄ちゃんと離れたくない」と蒼太の服を握りしめる。初めて見る海の前で、ようやく声を上げて泣いた少女を前に、蒼太とりんは“助ける”だけでは終われない未来を選び始める――。親子関係|修羅場2.8万字5 251 -
完結第10話
洋食屋の絆と、高級寿司屋の逆転
岡田悠斗は、高校生の時に両親を交通事故で亡くし、高卒の自動車整備士として働きながら、三歳下の妹・真央をたった一人で大学の法学部まで育て上げた。真央は猛勉強の末に難関の司法試験を突破し、弁護士として初任給をもらう。悠斗への感謝を込めて予約した高級寿司屋の席で、悠斗の職場の傲慢な上司・西村が偶然居合わせ、「工場で油まみれになって働く底辺の作業員」と悠斗と真央を激しく侮辱する。絶望と怒りが交錯する中、隣の席に座っていた一人の客が立ち上がり、西村を冷徹に一喝する。その男の正体は、かつて両親の営む洋食屋「ひまわり」で無銭の少年時代に助けられた大手IT企業の社長・藤井宗介だった。過去の恩返しと、血を分けた兄妹の絆が奇跡を引き起こす感動のヒューマンドラマ。兄弟姉妹|修羅場1.5万字5 641 -
完結第10話
従妹に貸した部屋が、半年で40回又貸しされていた
国家試験の勉強に使う――そう約束した従妹・さやが、私のマンションを他人に使わせ、密かに金まで受け取っていた。半年間、家賃も取らず信じて鍵を預けた私を待っていたのは、生活感が消えた不自然に綺麗な部屋だった。光熱費の異常な少なさ、玄関脇に残されたキーボックスの跡、そして靴箱の奥から見つかった、知らない5人宛ての郵便物。調べるほど、さやの「1人で勉強していた」という言葉は崩れていく。さらに彼女は、私の知らない人間に鍵を渡し、住所まで使わせていたことを認め始めた。親族だからと目をつぶることは、もうできない。私は写真、通話記録、利用履歴を残し、警察や関係機関へ相談することを決意する。だが、問題は無断利用だけでは終わらなかった。私の住所は、いったい何のために使われていたのか――。調べた先で、さらに不穏な事実が動き始める。兄弟姉妹|修羅場4.1万字5 318