"古道具屋の制服" 第7話
捜査が町の権力という見えない壁に突き当たり、の世界が騒がしくなるほどに、佐藤のはますます遅く、くなっていった。 リビングの空気は、国特の何もかもを押し黙らせるの空のように澱んでたい。 わこはただぼんやりと窓のを眺めるが増えた。 娘が苦しんでいたという事実。 教師や同級の名が綴られたの言葉が繰り返しので反響し、彼女のを休むことなく苛んでいた。
その隣で、夫のはこれまでと何つ変わらないように見えた。 朝無言で聞を広げ、仕事へ向かい、夜遅く帰ってきては黙って晩酌をする。 事件について彼からをくことは1度もなかった。 その沈黙はわこにとって、に「無関」という名の壁のようにじられ、孤独をめさせた。 娘が失踪したあのから、このでは誰もが仮面を被っている。 しみを押し殺し、互いの傷に触れることを恐れて。
その夜も、苦しい沈黙が卓を支配していた。 テレビの音だけが空気に響いている。 ふと、が箸を置き、静かにちがった。 彼はリビングの隣にあるさなへと向かう。 そこには、の歴史と釣りいなほどしい仏壇が静かに置かれていた。 15にみ咲のために誂えたものだ。
彼は慣れた付きで線にを灯し、仏壇のに正座した。
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ゆらりとちるの煙が、部に特の甘くも沈んだりを運び始める。 それはこのの15分のしみが凝縮されたような匂いだった。 毎、1も欠かすことなく続けられてきた、父だけの儀式。 いつもなら彼はそこでしばらくをわせた、無言で部をていく。 だが、その夜は違った。
うつむいたまま、はまるで独り言のように、しかしわこのにはっきりと届く声で呟いた。
「俺のせいかもしれん……」
その声は枯れ、乾き切っていた。 わこは夫の方を振り向くこともできず、ただ息をむ。
「あの子がいなくなるの晩、俺はあの子との約束を破ったんだ」
わこのらない、父と娘の最の夜。はぽつりぽつりと語り始めた。
卒業をに控えたみ咲は、京の美術学に学することをく望んでいた。 しかし、元での就職を望んでいたはそれを頑なに反対していた。 「みたいなことばかり言うな。女が1で京にてどうするつもりだ?」。 港で働く、叩きげの男。彼なりのが、器用で圧な言葉となって娘を傷つけた。 それでもみ咲はいがったという。 最には泣きながら、「せめて卒業祝いに、しいスケッチブックと絵の具を買ってほしい」とさな願いをにした。 それさえもは「くだらん」の言で蹴してしまったのだという。
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「あいつは、ずっと俯いて俺の話を聞いていた。最に顔をげた、あいつの目には涙もなかった。ただ、何かが完全に消えちまったような、そんな目をしていたんだ……」
の背がさく震えていた。
「翌朝、何事もなかったかのように『ってきます』と言ったあいつに、俺は声をかけられなかった。くだらないとプライドが邪魔をして……それが最だった」
悔の言葉が嗚咽に変わる。 これまで1度としてで涙を見せたことのなかった男が、仏壇ので子供のように肩を震わせて泣いていた。 15、たった1で背負い続けてきたい字架。その罪悪と悔が、ようやく決壊した瞬だった。
「もし俺があの子の話をしでも聞いてやっていたら、あの約束を守ってやっていたら……あの子はあんなに追い詰められることはなかったのかもしれない」
父の告は、失踪当のみ咲のの裏に隠されたたな輪郭を浮かびがらせた。 親にを断たれ、最のさな願いさえ拒絶された絶望。 彼女の解なの裏には、父との確執というい断絶があったのだ。
わこは静かにちがり、夫の隣に座った。 彼女は震えるの肩にそっとを置いた。 責める言葉は1つもてこなかった。自分も同じだったからだ。 娘のの叫びに気づけなかったという罪の識は、形を変えてこのの全員を縛りつけていた。
2はただ言葉もなく、線の煙が描く静かな軌跡を見つめていた。
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