"五日婚の因果返し" 第1話
「浮気相が妊娠したから、婚してくれ」
夫のからその言葉がた瞬、私のはそこで止まった。
リビングの照はいつもと同じるさだった。テーブルのには、まだをつけていないお茶が置かれていた。けれど、目のの景だけが急にくなったようにじた。
私はしばらく声をせなかった。
え。
私も妊娠しているのに。
やっとてきたのは、鳴り声ではなく、喉の奥でかすれた息だけだった。
夫の卓郎は、私の向かいに座ったまま線を落としていた。両を膝ので握りしめ、何度も唇を結び直している。
「あっちは、俺がいないと困るだろうから」
その言葉を聞いた、私は笑いそうになった。
私だって困る。
お腹には、このの子供がいる。
それなのに、当の私はぶち切れる気力すらなかった。ただ涙がこぼれて、胸のがぐちゃぐちゃになって、どうしていいか分からなかった。
結局、私は泣きながら婚した。
けれど、まさかその、あんなことになるなんていもしなかった。
私の名は千佳。
45歳、というのは冗談で、双子の娘を産んでからというもの、かつての女性らしい私はどこへったのかとうくらい、どんどん豪気な女になってしまった。
女は母になると変わる。
昔、親戚のおばさんがそう話してくれたことがある。
そのは、そんなものなのかなと軽く聞き流していた。
広告
けれど今なら分かる。本当にその通りだった。
活のが、自分から子供へと自然に移っていく。自分のも、髪も、眠も、事のタイミングさえも回しになる。
気づけば、それでも構わないとうたくましい私が完成していた。
でも悔はない。
きちんと子供たちを育てている今の自分を、私は嫌いではない。むしろ、より好きになったくらいだ。
けれど、子供たちがまれるし。
私は、自分どころか、この世界全部を嫌いになってしまいそうなくらい、絶望のどん底にいた。
あれは、私が20代の頃のことだった。
同棲を始めて1が経った頃、恋だった卓郎が、し照れたように笑いながら言った。
「待たせてごめんな。結婚しよう」
その瞬、私は嬉しくて彼にびついた。
もともと私たちは、結婚提で付きっていた。親の許を得て同棲し、2の活リズムをり、ゆっくりと夫婦になるための盤を作っているつもりだった。
だから、いつかこんなが来ることを疑っていなかった。
それでも、いざプロポーズされると胸がいっぱいになった。
卓郎はよく気が利くだった。仕事から帰ってくると、私が作った夕飯を残さずべてくれた。疲れていても「おいしい」と笑ってくれた。
このとなら、穏やかな結婚活を送れる。
私はそう信じていた。
広告
プロポーズからしして、私たちは入籍した。
そして、ちょうどその頃、私の妊娠が分かった。
最初に検査薬の結果を見た、私はしばらくけなかった。嬉しさとが同に押し寄せて、洗面所の鏡に映る自分の顔をじっと見つめた。
卓郎に伝えると、彼はし驚いたあと、私の肩を抱いた。
「本当に?」
「うん」
「そっか……俺、父親になるのか」
彼の声は震えていた。けれど、その顔には確かに笑みがあった。
結婚式は簡素なものにする代わりに、期をめることになった。私のお腹がきくなるに、内だけで挙げようと決めたのだ。
簡素とはいえ、結婚式の準備は目まぐるしかった。
招待する数はなくても、ドレス、料理、会との打ちわせ、両への連絡。幸せなのに、毎が慌ただしかった。
だからその頃、夫の変化に私はし鈍くなっていたのかもしれない。
夫の残業が増えたのは、式の1ヶくらいからだった。
「また今も遅くなるから、先に寝てていいよ」
玄関で靴を履きながら、卓郎はそう言った。
私はキッチンから顔をし、わず眉をげた。
「今も? 丈夫? 最、毎だね。疲れてない?」
卓郎は鞄を肩にかけ、軽く笑った。
「配するな。丈夫だよ。結婚したらもいるからな。今のうちに稼いでくる」
「そうね。頑張って、旦様」
私が冗談めかして言うと、彼も笑った。
「ああ、頑張るよ」
るくをていく夫。
けれど、毎のように仕事が押していると言って遅く帰ってくる姿に、私は気が気でなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
不当解雇された高卒技術者の特許逆転劇
精密機械メーカーの技術者・中村誠は、高卒叩き上げであることを理由に、名門大卒のエリート上司・北川部長から「掃除とオイル交換しかできない無能な雑用係」と見下されていた。ある日、大口顧客向けの製品に二百個超の大量不良が発生。北川は自らの設定ミスを隠蔽し、誠を犯人に仕立て上げて責任を押し付ける。深夜に真相を暴くアクセスログのUSBメモリーを確保した誠だったが、直後に車に撥ねられ全治三ヶ月の重傷を負ってしまう。病室から連絡を入れると、北川は「好都合だ、クビにしておく」と嘲笑し電話を切った。だが誠が病室のベッドから特許庁へ出願した一枚の技術書類と、彼が去って完全沈黙した工場の製造ラインが、欺瞞に満ちた組織に前代未聞の崩壊をもたらす――。職場逆転|人生逆転2.5万字5 430 -
完結第14話
高卒エースを掃除係に落とした無能社長
大手玩具メーカーの営業エース・篠田零司は、高卒叩き上げながら十二年間にわたりトップの成績を維持してきた。だが、恩師である先代の矢吹会長が病で倒れ、新社長に就任した倉島哲也から全社報告会で突如「先月の達成率は三十パーセント、部内最下位のお荷物だ」と虚偽の数字で公開処刑される。強烈な学歴コンプレックスと嫉妬を燃やす倉島は、篠田を社長室の雑用係へと追いやったばかりか、彼が一年かけて心血を注いだ総額百億円の大型独占契約を故意に破談へ追い込む暴挙に出る。しかし、篠田の手元には「確定売上高一億四千二百万円」を証明する売上管理ファイルの原本が存在していた。理不尽の極みの中で静かに退職届を差し出した篠田。だが、現場の異変を察知した車椅子の矢吹会長が立ち上がり、握りつぶされた証拠が暴かれたとき、欺瞞に満ちた社長室に前代未聞の鉄槌が下される――。職場逆転|人生逆転2.9万字5 208 -
完結第23話
締め出された新社長
父から印刷会社を継ぎ、代表取締役として誰よりも早く出社した初日の朝、私のカードキーだけが赤く点滅して通用口が開かなかった。清掃員や入社三カ月の新人、配送トラックが次々と通過していく中、古参の会計は「先代の指示で権限を削除した」と告げる。社内では判断を下せる者がおらず、営業と現場の怒号が響き合い、輪転機が完全に停止した。私は閉ざされたガラス扉の脇にパイプ椅子を置き、冷たい缶コーヒーを握りしめた。職場逆転|人生逆転|怒り|親子関係|修羅場3.5万字5 216 -
完結第14話
年商一兆円の父にワインをかけた婚約者
創業家の御曹司との顔合わせ当日。ボロ車で駆けつけた私の父を見た義母は、「貧乏人の娘が」と父の頭から赤ワインを浴びせかけた。婚約者も冷笑し、父を詐欺師呼ばわりしてロビーで土下座を迫る始末。 だが、父は一言も取り乱さず、静かにワインを拭った。 「この縁談はなかったことに」 指輪を投げ返し、父の向かった先は日本中が恐れる巨大財閥の最上階。傲慢な親子が信じていた“金と権力のルール”で、静かな断罪劇が幕を開ける。因果応報|人生逆転|金銭問題|修羅場2.1万字5 129 -
完結第13話
二十七年目の嘘
58歳で急死した夫の遺品を整理していた美智子は、引き出しの奥から27年前の「採用内定通知書」を見つける。当時不合格だと思い込んでいた東京の出版社からのものだった。封筒の裏には夫の筆跡で「辞退連絡済」。夫はなぜ私の人生を勝手に奪ったのか。さらに、夫の出世作となった伝説の住宅企画が、かつて自分が書いた企画ノートそのものだったことを知る。奪われた名前と人生を取り戻すため、妻が下した決断とは。人生逆転|夫婦|真実|第二の人生|親子関係2.0万字5 57